外食は年間600回以上! マッキー牧元の発掘! 地方の名店〜秋田編〜
「おいしい」を求めて全国を飛び回る、タベアルキスト・マッキー牧元さんに知られざる地方の名店を教えてもらう企画。秋田県でマッキー牧元さんが実際に行って心打たれた2軒をご紹介。
秋田でマッキー牧元さんの心を打った2軒とは?
とんかつ咲々

「明日の昼、マッキーさんにぜひ行ってもらいたい店があるんです」と、秋田の名店「日本料理 たかむら」の高村さんに言われた。店名は「とんかつ咲々」という。
「電話入れておきますので、たかむらセットを食べてください」。高村さんは、このとんかつ屋に何度か通ううちに、一番ベストな組み合わせを考えたのだろう。
翌日、タクシーに乗り、郊外にある店に向かった。街道沿いとはいえ、住宅街中に、ぽつねんと佇む店である。
「たかむらセットをお願いします」
そういうとご主人はニヤリと笑って作り出した。
やがて、現れしたかむらセットは、海老フライ、クリームコロッケ、ヒレカツの盛り合わせで、脇にはミニカレーが添えられている。

こりゃあ、大人の「お子様ランチ」ではないか。
「わぁ」
出された瞬間、童心に戻って、思わず声を出してしまった。
まず屹立した海老フライがいい。海老フライというものはやはり真っ直ぐでなくてはいけないという哲学が貫かれている。
すくっと伸びた海老フライの尻尾が天を指し「さあ、頬張って」と、ささやきかける。たまらず、なにもつけずに齧り付いた。
くりっ。
痛快な歯応えで海老は弾け、ほんのりと甘いエキスを流す。塩をかければ、さらに甘みは増し、タルタルをつければ、ご飯が恋しくなる。
そのまま海老フライを全部行きたかったが、ぐっと我慢してヒレカツへと行く。細かい衣を纏った一口ヒレカツを、素のままで齧る。揚げ切りがいい。油切れよく、衣はカリリと音をたて、歯は肉にめり込んでいく。次は塩、次はソースと練り辛子をつけ、ご飯で受け止める。
さあ、次はクリームコロッケである。クリームにほんのりと海老の香りがあって、優しい。こいつは、半分食べてから残りの半分は、高村さんの教えに従い、少しつぶしてご飯にのせ、タルタルをかけた。即席ドリアである。ご飯と一緒に頬張れば、一人で笑いを堪えている、変なおじさんが生まれた。ああうまい。
再び海老に戻り、タルタルにレモンを搾ってかけ食べ、辛口ソースもちょいと垂らしてみたが、海老が負けていない。

さあ最後はミニカレーといってみよう。これは半分残しておいたヒレカツと合わせ、ミニカツカレーである。カレーはキャラメル香がきいていて、好物の湯島「デリー上野店」のカシミールカレーに似ている。そういえば赤坂「とんかつ まさむね」の名物カツカレーも、カシミールを目指していますといっていたな。
カレーは辛い。だがこの甘い香りが、とんかつと合うのだな。
厨房を見れば、折しもご主人がロース肉の塊を取り出し、掃除をしはじめた。真空パックではないようである。そこも信頼できる。ご飯も味噌汁も、キャベツも上出来。
次回はロースカツを頼もう。ちなみに、この盛り合わせセット、メニューにはない。高村さんが通って編み出した、この店の最適解なのであった。
<店舗情報>
◆とんかつ咲々
住所 : 秋田県秋田市泉中央2-8-6
TEL : 018-853-5086
駅そば しらかみ庵

地方を巡る時、必ず駅そばには寄るようにしている。意外な発見があるからである。秋田駅の改札外のコンコースにも、秋田の駅弁店「関根屋」が展開する駅そばの店「しらかみ庵」があった。
店頭に立ってメニューを見ていると、不思議な文字が目に入ってきた。「ぎばさ」。怪獣の名前か? これは、海藻のことだった。海藻の一種であるアカモクを、秋田の人はこう呼び、愛しているのだという。これはどうあっても入って、食べなくてはいけない。
これから昼ごはんを食べる予定だというのに、無視して店に入り、温かい「ぎばさそば」を頼んだ。

かけそばの上には、濃い緑色で粘り気のある“ぎばさ”がたっぷりとのせられている。
まずつゆを一口飲んでみた。甘めのつゆである。次にぎばさとそばを、ひとすすりする。ぎばさのぬるぬるが、そばと一体になって、口元に登ってくる。
ぬるぬる、ずるずる、とろんとろん。
ぎばさの粘りが、唇、歯、上顎、舌、喉を通過していく。その中を細いそばが通り抜ける、この食感がなんとも心地よい。最近、人間は粘るものに対して、おいしいと感じるセンサーがあるという説があるらしいが、まさにそのセンサーを刺激しているではないか。ぬるぬる、ずるずる、とろんにハマり、一気に食べ終えた。
しかし丼の底には、食べ逃したぎばさとそばの破片が残っている。これを最後にずるると飲む。するとまたあの心地よい粘りが口を満たし、笑ってしまうのだった。
実はこの「しらかみ庵」には、もう一つの名物があった。「稲庭『生』うどん」である。秋田名物の稲庭うどんを出す店は、市内に多くあるが、そのほとんどが乾麺であり、生を出す店は珍しい。910円は、駅そばにしては高価だが、追加注文した。しつこいようだが、これから昼ごはんを食べるというのに、追加注文をした。

白く輝くうどんが、ざるに盛られて、登場する。乾麺の艶とは違う、しっとりとした輝きがあって「早く食べてね」と、誘いかける。濃いつけ汁におろし生姜とネギを落として味を締め、稲庭うどんをつけて食べる。
つるるる。つるるる。
稲庭「生」うどんは、唇に優しい。ふんわりと唇をさすりながら口の中に入ってくる。そして、10回ほど噛めば、消えていく。うっすらと、麺自体に甘みがある。時折硬い麺があり、20回ほど噛むこともあるのが、生うどんらしい。これもその食感を楽しみながら、一気に食べ終えた。
やはり、地方の駅そばは、楽しい。
<店舗情報>
◆駅そば しらかみ庵
住所 : 秋田県秋田市中通7-1-2 JR秋田駅
TEL : 018-825-9540
教えてくれた人

マッキー牧元
株式会社味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツに居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演。とんかつブームの火付け役とも言える「東京とんかつ会議」のメンバー。テレビ、雑誌などでもとんかつ関連の企画に多数出演。
食べログマガジンで紹介したお店を動画で配信中!
https://www.instagram.com/tabelog/
※価格はすべて税込です。
文・写真:マッキー牧元
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