サーバント・リーダーシップの時代(2) 「自分らしく輝く」のではなく、「自分らしく勝てる」ように考えるのが上司の役目/村上 和
相手の座標軸を理解する
サーバント・リーダーシップの文化を醸成するため、普段から何を意識しておくべきか。
私は、「相手の座標軸を理解する」ことが重要だと考えています。人はそれぞれ異なる座標軸を持っています。善悪、勝ち負け、損得、新古、好き嫌いなど、さまざまな座標軸があります。例えば、勝ち負けという座標軸を持っている人に、「こうやったほうが正しい」と言ってもあまり響きませんが、「こうしないと勝てない」と言えば響きやすくなります。
その人が大切にしている座標軸で語ること、それがサーバント・リーダーシップの第一歩です。つまり、主体はリーダー側ではなく相手にある。サーバント・リーダーシップというのはサービス業であり、サービスを受ける相手は部下や従業員で、その部下の座標軸を知るところから始まります。
レンガ型か、石垣型か
この「相手が主体」という考え方を表しているのが、チームビルディングにおけるレンガ型と石垣型の比喩です。
人材情報を体系的に整理し、スキルや適性を可視化するHRテックのようなツールを活用したマネジメントスタイルは、「レンガ型」のアプローチと言えるでしょう。同じ形のレンガを積み上げて、効率よく、均質に組織を整えます。組織目標を達成するために、職務に合う人材をあてはめていくわけです。

しかし現実の会社は「石垣型」でできています。
石垣は、大きかったり小さかったり、四角かったり三角だったりする石が積み上げられています。形もサイズもバラバラですが、それぞれが互いを支え合い、戦国武将がつくった城に代表されるように、全体として驚くほど頑丈な構造になっています。だからこそ強いのです。

だからこそ私は、石垣型の組織のほうがいいと考えています。三角の石にしかできない仕事、役割があり、大きな石にしかできない仕事、役割がある。求められているのは石垣型のサーバント・リーダーシップなのに、DXという名の下にHRテックやSFAだけに頼ってばかりいると、次第にレンガ型の組織になってしまいます。例えば、SFAでアラートが出たから顧客にDMを送っておく。そうした業務の効率化は確かに重要です。しかし、年に1回しか会わなくても、その1回でお酒を飲みながら膝を突き合わせて話すことで約定することもあります。また、70歳の会長が一緒にやりたいと言うのは、62歳のこの人だけということもあります。
人それぞれに心理的安全性を
現在、組織に「心理的安全性」が必要であると言われています。大切なことは、人が感じる「安全性」はそれぞれ異なるということです。一言で心理的安全性といっても、全員に同じ形の安心が必要なわけではありません。求めるものは人それぞれです。言いたいことが言えない人にとっては、言える環境が心理的安全性であり、「有休を取りたい」と上司に堂々と言えることが何より嬉しいのです。
石垣型のサーバント・リーダーシップを身につけなければ、日本型のダイバーシティは成功しない、というのが私の持論です。石垣にはさまざまな形、大きさの石があります。三角の石はそれ単体では良さは生かせませんが、周囲の石があって初めてその形が生きるのです。「人間はこうすれば幸せになる」「うちの社員はこうやったらうまくいく」と、ひとつの型枠に嵌めるのではなく、人間関係の中で部下を健全に導き、その人らしさを生かして勝たせるのが、サーバント・リーダーシップの本来の目的なのです。
部下を束ねるマネージャーには、「部下が『自分らしく』勝てるように考えるのがサーバント・リーダーシップだ」と伝えています。できないとわかっていることをやれと言うのではなく、できるように営業プロセスを仕組むのがマネージャーの仕事です。自分ができることをひとつずつクリアしていくことによって、徐々に難易度の高い営業ができるようになっていくものです。サーバント・リーダーシップは、受ける側の部下の個性を生かすという目的を持っています。
しかし、安易に「君たちは君たちらしく輝けばいい」と言うべきではありません。部下が勝てるために支えなければならないのです。「ここでしか働きたくない」「この部署は嫌だ」などと言っている場合ではないのです。これは、「らしさの誤解」というもので、人は簡単に「自分らしさ」を語るべきではないと思っています。特に若手のうちはそうです。自分らしさを気にする前に、むしろ悩むべきは、「どうすればそのお客様らしく提供できるか」であり、「自分はこれでいいんだ」と思った時点で、そこで成長は止まってしまいます。パフォーマンスに関しては大人としてシビアに考えなければなりません。
チームメンバーが手をつないで信頼の絆でつながっていること
この奉仕型のリーダーシップは、社員一人ひとりの「Want to」を把握し、理解することから始まります。社員が「Want to」で「ご機嫌」に仕事できる環境を整えることが、リーダーの重要な役割になります。では、どのように奉仕するのか。
一般的なリーダーシップではリーダーとフォロワーという縦の関係性を考えがちですが、サーバント・リーダーシップは違います。
例えば、次のような場面を思い浮かべてみましょう。
スタートからゴールまで、リーダーがスタッフ4人を連れてゴールに向かっています。スタッフは性別や年齢、身長もさまざまで、1人は180センチ、1人は150センチ、女性もいれば70歳の方もいます。さらに、スタッフ全員が、目が見えない状態です。リーダーだけにはゴールの位置と道筋が見えていますが、リーダーがスタッフに直接触れることはできません。どうしたらチームを最速でゴールまで導けるでしょうか。
正解は、「スタッフ全員が手をつなぐ」です。先頭が誰かは重要ではありません。リーダーは、先頭のスタッフに指示を出し、あとは手をつないだままで皆を引っ張っていくのです。実際の職場では、社員は目が見えている状態で働いていても、手がつながっているかどうかはわかりません。だからこそ、仲間同士が信頼の手でつながっているかどうかに気を配るのが、サーバント・リーダーシップのワザなのです。
チームメンバーが手をつないで信頼の絆でつながっていること、言いたいことが言えること、過度の緊張を職場に与えないことは、心理的安全性そのものです。ただしその目的は、仲良し学級をつくることではありません。リーダー不在時にも自分たちが明確な職責を持って、自分たちなりの使命感を認識しながら、頼るときは仲間を頼り、踏ん張る時は自分の責任感の下に仕事を前に進めていくことができる。そのようなチームビルドこそがサーバント・リーダーシップの目的なのです。
