投資をする際に注意すべきことは何か。シデナム慶子さんは「重要なのは、プロ投資家と同じ土俵に上らないことだ。また、『億り人になる方法』などといったSNSの投資術で成功する可能性もほぼない」という――。

※本稿は、シデナム慶子『投資に必要なことはすべて海外投資家に学んだ』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

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■素人が投資したところで、本当に資産は作れるのか

プロ投資家が巨額な資金を動かして取引しているマーケットに、個人が数十万円の資金で投資したところで、果たして着実に資産を増やすことができるでしょうか。スーパーコンピュータなども駆使しながら、巨額なお金を動かされたら、こちらの目論見など一瞬で吹き飛ばされてしまいます。まずそれを冷静になって考えることが大事です。

もちろん、個人でも投資によって数億円の資産を築いた投資家もいるでしょう。ただ、それは本当に一握りの人です。

本稿の目指すところは、そこまでスーパーな個人でなくても、それこそ普通に会社勤めをしているような人でも、老後の心配をすることなく生活できる程度の資産を築ける方法を考えることにあります。

そのために必要なルールを紹介していきます。

■プロの投資家と同じ土俵に乗ってはいけない

個人が投資で資産を増やし続けるためにまず大事なことは、プロ投資家と同じ土俵に上らないことです。

プロの投資家は豊富な資金力を持っていて、それこそ24時間体制で様々な情報収集を行なっています。

しかも、私がかつて外資系金融機関で一緒に仕事をしてきたヘッジファンドなどのプロ投資家になると、たとえばマサチューセッツ工科大学でロケットサイエンスの最先端研究を行ない、そこでの数学的知見を最大限に活用して投資の世界に入ってきたような、最優秀の人材がゴロゴロ転がっています。

凄いのは人材だけではありません。誰よりも短時間のうちに大量の売買注文を発注できるようにするため、高額なスーパーコンピュータを大量に社内に設置して、フル稼働させているようなファンドマネージャーも大勢いるのです。

さらに投資の時間軸を考えてみてください。プロの投資家は、その多くが誰かのお金の運用を委託されて、その誰かの代わりに運用しています。つまり純粋に自分のお金を運用しているのではありません。

■長期的な視点が個人の強みになる

そのため、どういう理由でそこに投資したのかという説明ができなければなりません。当然、毎年のように決算が設けられており、決算日の後日には資金の出し手に対して、運用成果をレポートすることが義務づけられています。つまりプロ投資家は、少なくとも年単位でしっかり成績を出さなくてはならないのです。

もし成績が出せなかったら、その時点でクビ、または要注意ファンドとして記録されてしまい、資金を引き上げられてしまいます。もっと言うと、毎月運用報告書を投資家に開示するため、「月次」リターンを作る必要があります。月末、四半期末、年末に利益確定の動きが起こりやすいのはそのためですね。

したがって、プロの投資家は自分の生き残りを賭けて、限られた期間で運用成果を上げられるようにするため、必死に努力します。できるだけ1年のうちに結果が出せるような対象に投資しようとします。つまりプロ投資家は、5年、10年という長期の時間軸でずっと保有し続けるような運用はしにくいことになります。

一方、個人なら当分の間は値上がりしそうにないけれども、いつかは上昇するはずだという対象にも投資できます。個人はあくまでも自分の資産を運用するだけですから、誰かに運用成績のことで文句を言われることもありません。

個人投資家の中には、いつ値上がりするかわからないけれども、現時点では極めて割安な株価で放置されているような銘柄に投資して、長く持つことで利益を得ようとするバリュー投資家が結構いますが、極端な時間軸の上で成果を求めるような投資は、プロの投資家では持ち切れない典型的な手法と言ってもよいでしょう。

■プロには真似できない個人の自由

また、個人なら、リターンが上がらない時期があったとしても、特に問題はありません。極端な話、持っているポジションを全額手仕舞った後(※1)、しばらく何も持たずにいることもできるのです。その間、次の資産運用の計画でも練っていればよいのです。

※1:その取引を決済して終わりにすること

プロの投資家たちは、常に成績を求められますから、ポジションを手仕舞った後は、できるだけ早めに新しい投資先に資金を投じる必要があります。

このように考えていくと、個人にしかできないような投資法は、他にもありそうです。特に、自分で直接、株式や債券に投資して資産形成をしようと考えている個人の方は、この点を十分に理解して投資することをお勧めします。

第二のルールは、プロ投資家に運用を任せてしまうことです。プロ投資家のなかには、個人からの運用を受託して株式や債券に投資している人たちがいます。多くの場合がファンド型になっていて、複数の出し手の資金を集めてより大きな投資に分散投資を行なっています。個人でできる身近なところだと、「投資信託」などはその代表と言ってもよいでしょう。

ところで「投資信託」は投資手法やファンド(※2)の総称のように勘違いしている人がいますが、投資信託とは、単純にファンドの形態(ビークル、と言います)を指しているだけで、ファンドが信託型で作られているから「投資信託」と言います。ファンドは組合型で作られたり、会社型(※3)で作られたりと様々なビークルで作られます。

多くの日本人に馴染みのある「投資信託」は、公募型(不特定多数に対して募集が行なわれる)かつ信託型(投資家から信託された資産を受託者(主に金融機関)が運用)で組成されている、ということです。

※2:投資家から資金を集めて運用する商品、もしくは集めたお金のこと
※3:会社型は法人を設立し、組合型は契約に基づき、投資家が出資するファンド

■仕事をしながら資産を育てる方法とは?

ちなみに、アメリカでは「Mutual Fund(ミューチュアルファンド)」が公募型のファンドを指す総称ですが、信託型と会社型が多くあります。

ここでは公募投信型ファンドを念頭に「投資信託」としましょう。投資信託は一般的には1万円程度の少額資金でも購入できます。それこそ1人平均100万円の運用資金でも、それを1万人から集めることができれば、運用資金は100億円になります。100億円の運用資金があれば、100万円では実現できないようなポートフォリオを組むことができますし、何よりも投資信託は、運用会社に所属しているプロの運用者のノウハウなどを有効に活用できます。

そもそも金融商品を自分で運用しようとした場合、非常に手間がかかります。よいタイミングで売ろうと考えるなら、マーケットの動向をしっかりチェックしておく必要があります。

現役で仕事をしている個人の場合、昼間のマーケットが開いている時間帯をすべて株式投資などに費やすわけにはいきません。会社勤めの人が仕事そっちのけで株式投資などしていたら、それこそ会社をクビになってしまいます。

でも投資信託なら、個人の代わりにプロの投資家が運用してくれますから、自分ではほとんど手を下すことなく、資産運用ができるのです。

■「億り人」の再現性はほぼゼロ

ちなみに、うまくいってそうな個人投資家も真似しないほうがよいと思います。

書店に行くと、「100万円を1億円にしたサラリーマンの投資術」といったタイトルの本が並んでいます。SNSを見れば、個人投資家たちが自分たちの投資手法を解説しています。

だから、「この手の本を読めば、自分もお金持ちになれるはず」と思って手に取る人もいらっしゃるのではないでしょうか。

でも、それがなかなか難しいのです。どれだけこの手の本を熟読したとしても、それを再現してお金持ちになれるケースは、ほとんどないと断言できます。考えられる理由をいくつか挙げてみましょう。

第一に、手法は真似できたとしても、マーケットの状況が日々、猫の目のようにくるくる変わるため、すでにその手法がうまく効かない可能性があります。これは長年、マーケットに身を置くとわかるのですが、2日として同じ状況が再現されたためしがありません。本として世に出た時点で、そこに書かれている内容は、すでに過去のものになっているのです。

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■メンタルの強さも重要な投資スキル

第二に、手法は真似できたとしても、メンタルまで同じレベルに持っていくことはできないことです。メンタルの強さは人それぞれなので、これはやむをえないことだと思います。

とはいえ、投資を継続していくうえで、メンタルは強いに越したことがないのも事実です。メンタルが弱いと、マーケットが大きく下げたときの損失に耐えられず、ポジションを手放してしまいます。が、それではリターンを実現できなくなります。もし自分のメンタルが弱いことに気付いている人は、メンタルがやられない程度に、リスクポジションを持つしかありません。

シデナム慶子『投資に必要なことはすべて海外投資家に学んだ』(サンマーク出版)

このメンタルの部分は案外馬鹿にできない要素だと思います。市場が大きく下落しても、なんとかポジションを売却せずにいられたとしても、振り返ってみれば一番の買い時の市場の下落時に追加投資をできる人はなかなかいないですし、私個人なんかはその相場にさらされるだけでヒヤヒヤしたりします。

さらに言えば、今までうまくいっていたことが「無意味になる」のがこれからの市場です。ローソク足チャートも、意味はありません。市場が大きく変わろうとしているときに、ある期間うまくいっていた方法が、今後もうまくいくのでしょうか?

自分の投資手法を確立して、長期間にわたって勝ち続けられる投資家は、本当にごくごく一握りに過ぎないのが現実です。

■猛者たちの戦場に武器なしで挑むべからず

個別銘柄やFX投資をすることが趣味の人はいますし、実際に寝る時間以外は市場に張り付くことができる人もいるので、それはそれでよいと思います。あまり知識も経験もなく、ただ、「よし、億り人になろう」とこうした情報を真に受けて個別銘柄やFXに参入する場合は、厳しい現実が待ち構えているということを十分に認識する必要があります。

市場には「何十年もの投資経験」があり「市場で優秀な運用者集団」が束になって大量の「ノウハウ」「分析力」「情報」「レバレッジ」そして、ときには「スーパーコンピュータ」を全投入して投資に挑んでいます。そんな猛者たちの戦場に武器なしでは挑めません。したがって普通の個人が大きく勝つ投資手法を編み出すのは非常に難しいですし、公開情報として世に出回っている投資手法を真似て勝ち続けるのは不可能に近いことだと思います。

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シデナム 慶子(しでなむ・けいこ)
LUCAジャパン代表取締役CEO・共同創業者
2003年よりヘッジファンド投資に従事、その後2007年より米系運用会社日本拠点にてプライベートエクイティ、不動産、インフラ、プライベートクレジットなどのオルタナティブ投資ファンドの戦略説明、資金調達、機関投資家リレーションシップを統括。JPモルガン・アセット・マネジメントでのオルタナティブ投資戦略室長を務めた後、ブラックストーン・グループにおけるマネージングディレクターを経て、2021年オルタナティブ投資のデジタルプラットフォームを運営するLUCAジャパンを共同創業。米ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究大学院修士。
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(LUCAジャパン代表取締役CEO・共同創業者 シデナム 慶子)