アップルが「最新Mac」を3日連続で発表した驚き
3日連続の新型Mac発表は、いずれも10分程度のビデオとともに、ウェブサイト上で公開された(画像:Apple)
アップルは「iMac」「Mac mini」「MacBook Pro」という主要なMac製品を、3日連続で発表した。これらの新モデルは、すでに予約が開始されており、2024年11月8日に発売される。
今回のターゲットは、2020年に登場した初のAppleシリコンである「M1」シリーズ搭載Macのユーザーと、それ以前のインテルチップを搭載したMacのユーザーが中心だ。
新製品で「変わったこと」
iMacは明るく鮮やかなカラーに変更し、内蔵ウェブカムは高画質化したうえで、被写体を自動的に追いかけて常に画面の真ん中に映したり(センターフレーム)、デスクの手元をウェブ会議などで共有できる機能(デスクビュー)に対応する。
Mac miniは極めて小型化されていながら、背面に3ポートのThunderbolt 4(もしくは5)だけでなく、前面にも2ポートのUSB-Cを用意し、ハブなどで拡張しなくても、十分な台数の周辺機器を接続できるようになった。
12.7cm四方の極めて小さな新型Mac mini。これだけコンパクトでも、M4 Pro搭載モデルは、プロ向けの性能を誇る(画像:Apple)
そしてMacBook Proは、エントリーモデルのM4チップ搭載モデルでも、印象的な黒さのスペースブラックが選択できるようになり、側面のThunderbolt / USB-Cポートが1つ増えた。ウェブカムもiMacと同じセンターフレームとデスクビューに対応し、ディスプレーについても、より明るく鮮やかになった。
M4 Proチップは、M3 Proチップに比べてより高性能を求めるユーザー向けに、最大10コアの高性能コアを備える14コア構成を用意し、M4 Maxはさらに強力な16コアCPUを用意している。
既存のM2、M3チップを搭載するMacBook Airについては、基本のモデルでメモリーを8GBから16GBに倍増させ、価格を据え置く。
MacBook Proは、エントリーモデルのM4搭載機でも、右側面にThunderbolt 4ポートが追加され、スペースブラックが選べるようになった(画像:Apple)
今回のラインナップでは、すべての新モデルに最新のプロセッサーであるM4シリーズを搭載。特にMac miniは、大幅な小型化を実現する新しいデザインで登場した。
Appleシリコン搭載以降、アップルは、コンピューターの高性能化と省電力化の両立という面で、非常に大きな成果を上げてきた。そして今回も、M4ファミリーで、引き続きMac強化の戦略を緩めず進めている。
今回発表された新ラインナップのキーワードは「Apple Intelligenceのために設計」。このタグラインは、2024年6月にアップルが独自の生成AIを発表して以来、あらゆる新製品に対して付けられている。
生成AI時代に対するアップルなりの答え
日常的に、生成AIを活用している人は、世界的に倍増している。ボストンコンサルティンググループの調査によると、52%と昨年から2倍以上に増加、うち43%は業務に活用している。
そうしたトレンドに対処すべく、アップルは2024年6月の開発者イベントで、「Apple Intelligence」と呼ばれる生成AIを発表した。
一般的な生成AIとは異なり、Apple Intelligenceはクラウドサーバーに依存せず、スマートフォンやタブレット、パソコン上でできるだけ処理を完結させる仕組みを取る。インターネット環境がない場所でも、高速で手軽に、かつプライバシーを保護する形で、AIの力を生かせるようにしている。
Apple Intelligenceによるメールスレッドの要約。クラウドに頼らず、Mac上で処理を完結してくれる(画像:Apple)
そのうえで、「Apple Intelligenceのために設計」とのタグラインを付け、AI活用に適しているコンピューターとして売り出したのが、M4シリーズを搭載する新型Macラインナップ、ということになる。
Apple Intelligenceは、まずはアメリカから利用可能となる。アメリカ英語の環境で、2024年10月28日に配信された最新のOSにアップグレードすることで、iPhone 15 Pro以降、iPadとMacはM1チップ搭載モデル以降のデバイスで、Apple Intelligenceが利用できるようなる。
なおApple Intelligenceは2024年中にインドとシンガポールを除く英語圏で、2025年には、日本語、中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語、ベトナム語を含むさらに多くの言語で利用可能になる予定だ。
注意したいのは、現段階で、M1チップ以降のAppleシリコンを搭載するMacでも、日本語環境ではApple Intelligenceを利用することはできない。
今回、異例とも言える3日連続の発表。それらの内容とニュースのポイントを以下にまとめる。
【10月28日】
・ 24インチの画面を備える超スリムな一体型コンピューター「iMac」を発表。
・ カラーはこれまで通り7色展開だが、より明るくはっきりとした色に変更される。
・ iMac登場で、第2世代3nmプロセスで製造された「M4チップ」がMacに初搭載。
【10月29日】
・ 12.7cm四方で高さ5cmと非常にコンパクトな新デザインを採用するデスクトップ型コンピューター「Mac mini」発表。
・ 新型Mac miniの上位モデルに、より強力な処理性能を備える「M4 Pro」チップを搭載。
・ M4 Proチップ搭載のMac miniに、これまでの2倍となる120Gbpsの転送速度を実現する新しい外部接続ポート「Thunderbolt 5」を搭載。
【10月30日】
・ MacBook Proを「M4」シリーズ搭載モデルへと刷新。
・ M3モデルで省かれていた3つ目のThunderbolt/USB 4ポートが、M4モデルにも追加される。
・ 上位モデルのみで選択できたカラー「スペースブラック」が、エントリーモデル(M4チップ搭載モデル)でも選択可能に。
・ 「M4チップ」「M4 Proチップ」に加えて、「M4 Max」チップ登場。
M1チップとM4チップの違いとは?
アップルは今回のM4ファミリーの採用について、どのような目的を持っているのだろうか。
特に、「Apple Intelligenceのために設計」というタグラインに対して、疑問がある。M4以前のアップルが設計したチップを搭載するMacでも、Apple Intelligenceを動作させることができるからだ。
M1チップに比べてM4チップは、機械学習処理の性能が3倍高速化しているという。
iMac、MacBook Proのウェブカムは1200万画素超広角カメラとなり、被写体追跡や、デスクの手元を映し出せるようになった(画像:Apple)
しかし取材の中で、M4チップだからといって現段階でApple Intelligenceでより多くの機能が使えるわけではないことが明らかになった。同様に、M1チップだからといって、機能に制限がかかるわけでもない。
ただし、その実行速度、反応速度については、違いが出てくるという。例えるなら、M1チップで0.2秒で反応が返ってくる処理を、M4チップでは0.1秒で済む、というレベルだそうだ。
アップルは、この0.1秒の速度向上に対して、大きな価値があると考えているのだろう。
日常的にAIを使う未来
アップルはMac上で、日常的に、文章の要約や構成、フォーマルやカジュアルなどの文体の変更、画像や絵文字の生成などをこなすようになる未来を想定している。
年内に提供予定のGenmojiでは、言葉からオリジナル絵文字を生成し、メッセージなどで自由に使うことができるようになる(画像:Apple)
Apple Intelligenceは、Mac上に言語モデルを読み込み、多くの処理をクラウド上のサーバーを使わずに処理するため、Macのチップの処理速度が、生成AIの快適さに大きく影響を与えることになる。
ちなみに、ネットワークにデータを送って処理をし、その回答を表示する他のクラウドを生かした生成AIに比べると、テキスト処理やイラスト・絵文字生成は、格段に速い反応速度を誇る。ここは、圧倒的な快適さがあった。
そのうえで、アップルは前述のように、M4チップで、0.1秒の快適さを追求している。アップルはそれだけ、Macの上で、生成AIがカジュアルに、日常的に、そして頻繁に使われていく未来を想定しているのだろう。
だからこそ、0.1秒でも素早く反応することが重要であるし、待たせた瞬間に顧客が感じるApple Intelligenceに対する賢さが半減する、とすら考えているのかもしれない。
ただし、AI性能強化は、Apple Intelligenceだけの話ではない。サードパーティーのアプリでも、機械学習処理によって作業を劇的に簡略化するアイデアがあふれはじめた。
例えば動画編集では、横長の動画を被写体を認識して自動的に縦動画に変換したり、画像の補正や修正を提案したり、文章から最適な画像を作り出すーー。
となると、近い将来の我々のコンピューター環境は、複数の生成AIや機械学習処理が同時並行的に動作しながら、やりたいこと、作り出したいことを支えてくれる、そんな姿へと変化していく。
M4搭載のMacは、そんなあらゆる人がAIを生かす未来に備えた製品、と位置付けることができるだろう。
(松村 太郎 : ジャーナリスト)