ブランド名やビジュアルを一新し、今や4%の商品も展開している、かつてストロングゼロだった「−196」。店頭では未だに「ストロングゼロ」の表記だが、いつの間にか大きく変化していたのだ(編集部撮影)

RTD(購入後、そのまま飲める缶チューハイなどを指す「Ready to Drink」の略)の歴史に残るほどの事件である――。

10月8日からサントリーは「−196無糖〈ダブルレモン〉」という、アルコール度数4%の缶チューハイを全国で販売開始した。

「『−196』とはいったい?」と思うが、これはかつてストロング系缶チューハイ(以下、ストロング系)ブームを巻き起こした「ストロングゼロ(以下、ストゼロ)」のことである。ちょっとややこしいので、時系列で経緯を説明しよう。

【画像8枚】「てっきり別の商品だと」…。ストゼロこと『ストロングゼロ』がいつの間にか大変化していた!

リニューアルを経て、低アルコール化が進むストゼロ

まず、同社は今年の1月下旬に、ストゼロのブランド名を「−196(イチキューロク)」にリニューアルした。なぜリニューアルしたのか、サントリーの広報担当者は次のように話している。

「背景としては、ブランド発売20年目となる節目の年に、商品名・中味・パッケージをリニューアルし、新たに『-196(イチキューロク)』ブランドとして、同ブランドのさらなるファン拡大を図るためです。

製品名は、より親しみを感じていただきたいとの思いから、ブランドの特長である『-196℃製法』(果実を丸ごと-196℃で瞬間凍結し、粉砕する製法)に由来した、『-196(イチキューロク)』というブランド名にリニューアルしました」(「‐196(イチキューロク)」にリニューアル。寂しいけど、ありがとう!「ストロングゼロ」/週プレNEWS)

商品名の変更と併せて、パッケージデザインも刷新。


ややわかりにくいが、「-196」の中に、『-196〈無糖〉』シリーズや『-196〈ストロングゼロ〉』シリーズが含まれる。右がストゼロにあたる/画像:サントリー公式サイトより

かつてのストゼロというブランド名は、Mr.Childrenの「シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜」や「everybody goes〜秩序のない現代にドロップキック〜」の「〜」に囲まれたサブタイトルのようにして、パッケージに−196よりも小さく表示するようになったのだ。

まるで、「これはストゼロではありませんよ」と言わんばかりに……。

アルコール度数4%が、なぜ(酒飲み的に)衝撃だったか

そして、冒頭でも説明したように10月、ついに−196無糖から4%のレモンサワーが登場したのだ。


電車広告でも大々的に宣伝されているこの商品。酒をあまり飲まない担当編集は「あの渋谷凪咲の変なCMのやつ、新商品だと思ってました!」と話していた。こういう認識の人も少なくなさそうだ(筆者撮影)

まあ、厳密にいえば、1月時点で4%の−196無糖〈オレンジ&レモン〉はあったが、商品名に「4%」の文字はなかったし、味という意味でもより王道な商品と言えるだろう。

9%の商品だけでなく、6%、そして4%まで。ラインナップが、明らかに広くなってきている。

アルコール度数4%のレモンサワーはすでに麒麟の「氷結」にもあり、コカ・コーラの「檸檬堂」も3%と5%があるため、度数自体は革新的なことではない。しかし、もともとストゼロだった−196から、アルコール度数が4%しかない商品が出たということが衝撃的なのである。

なお、 4%以下の缶チューハイといえば、同じくサントリーの「ほろよい」というアルコール度数3%のブランドがあるが、その名前の通り、「お酒が弱めな人」向けと定義されてきたと考えられるだろう。

そこに、あのストゼロが寄せてきた……と言うとサントリーから「そんなことは発表していません」とのお叱りの声が飛んできそうだが、実態としては「寄せてきている」と言えそうだ。

思えば今年は、各社がアルコールに対する姿勢を、大きく変えた1年だった。1月26日には、アサヒビール(以下、アサヒ)が今後発売する缶チューハイの新商品のアルコール度数を8%未満に抑える方針を、2月9日にはサッポロビール(以下、サッポロ)もストロング系の新商品を発売しない方針を固めたことが報じられたが、実は同時期にサントリーもストゼロの残滓を消し去ろうとしていたのだろうか。

「ストロング系の王者」あるいは「飲む福祉」として、若者を酒浸りにしたストゼロにいったいなにがあったのだろうか? 前置きがやや長くなったが、本稿ではストゼロのこれまでとこれからを考えていきたい。

ストゼロの歴史は約20年

−196もといストゼロの歴史は長い。発売されたのは20年近く前の2005年。当初はストゼロではなく、℃が付いて「−196℃(イチキューロク)」という名前だった(ややこしい)。低温で凍結・粉砕した果実を使用したことを売りにしており、アルコール度数は7%だった。

すでにキリンは2001年にアルコール度数7%の氷結を発売しており、さらにいえば、日本初の缶チューハイとして知られ、1984年からロングセラーを続ける宝酒造の「タカラcanチューハイ」は発売当初からアルコール度数は8%だったため、特にそのアルコール度数の高さは注目されていなかった。

また、当のサントリーも2003年に発売されたカロリーオフのカクテル「カロリ。」(販売終了済み)に力を入れていた気もする。今でこそ誰もが知る酒のストゼロも、当時はまだまだ有名ではなかったのだ。

そこから月日は経ち、リーマンショック後の2009年には、果実を皮ごと液体窒素で瞬間凍結・粉砕してウォッカに浸す独自の「−196℃製法」を生かした「−196℃ ストロングゼロ」の発売を開始。

そして、プロレスラーの蝶野正洋と石原さとみが共演したCMも放送される。改めて当時のパッケージを見ると、「STRONG ZERO ストロングゼロ」と大きく書かれ、「−196℃」はロゴのように小さく刻印されており、完全に今と真逆である。

このマイナーチェンジでアルコール度数も8%になったが、当時は氷結の一強時代であり、手っ取り早く酔うにはストゼロよりも氷結のほうが支持されていたと言えるだろう。みんなダイヤカット缶をグチャっと潰したかったのではないだろうか。


ハロウィン対策実施中の渋谷でも、潰した酒の空き缶は色々あった(筆者撮影)

また、CMが放送されるようになったとはいえ、当時、世間で人気を集めていたのは2009年発売のほろよいだった。サントリーは前出のカロリ。と同商品で「女性でも気軽に缶チューハイを手に取れる」という時代の雰囲気を作り出した。

「甘くない」のとフレーバーの種類が人気の理由

そして、話を戻すが、2014年末にストゼロがアルコール度数を9%に引き上げるや否や、一気に若者の間で広がっていく。その後はご存じの通り、各社も追随して8〜9%の類似商品、つまりはストロング系が市場に溢れかえることとなる。

ストゼロが人気を得た理由はいろいろ挙げられるが、メディアでもよく言われているのが、「甘くない」のとフレーバーの種類が豊富であるということ。

とはいえ、いくらアルコール度数が1%増えたところで、正直大して酔い方に違いはないような気もする。ただ、当時ストゼロを飲む若者のイメージといえば、500mlのロング缶にストローを突き刺して飲む姿だっただろう。今風に言うと、一種のミーム化を果たしたのだ。

確かに、缶に口をつけてゴクゴク飲むのではなく、ストローでチューッと吸い上げれば、一気に酔いは回る。

このようなイメージの普及も悪影響を及ぼし、ストゼロに対する風当たりは強くなったものの、どこ吹く風。2023年には−196℃製法をさらに進化させ、甘くないのに果実本来の“しっかりとした果実感”を楽しめる「−196℃ 瞬間凍結」シリーズを発売した。

さらに、ストゼロは海を超えて、台湾、タイ、シンガポール、オーストラリア、ドイツなど海外のスーパーや日本食レストランなどにも置かれるようになった。この頃にはストロング系といえば、ストゼロというイメージが定着し、完全に氷結からお株を奪い取ったかたちになる。


電車内で転がっていた9%のアルコール飲料(筆者撮影)

それがここに来て、まさかのリニューアルと4%の出現である。この背景にはやはり、世間の健康意識の変化が大きく関係していると考えられるだろう。


出荷量が減っている、ストロング系飲料。アルコール度数8%以上のストロング系の商品のシェア(占有率)は、2017年に金額ベースで43%だった。それが、2023年には25%程度に低下した(筆者撮影)

2月19日には厚生労働省が「500mlのビール缶程度のアルコール摂取でも、大腸がんの発症リスクが高まる」などとガイドラインを発表。「今さら何を言っているんだ?」と思うかもしれないが、「酒は百薬の長」と言われた時代は、もはや過去のものとなったのだ。

実際、アルコール度数が高い飲み物の支持は、ここ数年でグッと減っている。調査会社インテージによると、缶チューハイ市場でアルコール度数8%以上のストロング系の商品のシェア(占有率)は、2017年に金額ベースで43%だった。それが、2023年には25%程度に低下してしまったという。

ようやく、ストロング系はシャレにならない危険な飲み物として、世論とメーカーが自発的に取り締まるようになったのだ……というのは筆者の邪推だが、かつて愛飲していた身としては、寂しさも感じるものである。


ストゼロを捨てたサントリーのホームページを見る限り、−196無糖シリーズは人気で、1〜6月の販売数量は対前年254%と極めて好調に推移したという。2023年にはまだ同シリーズは存在していないため、これがストゼロのことを指すのであれば、もう世間はストロング系を求めなくなったということだ。

確かに、コンビニに並んでいる缶チューハイのほとんどは9%のストゼロと氷結以外、3〜7%程度だ。健康診断で「γ-GTP 2410(通常は40〜60)」を叩き出した筆者だけではなく、いよいよみんな身体を壊し始めたのだろうか?

今後も目が離せないRTD市場

今、人気のアサヒの「未来のレモンサワー」もアルコール度数は5%で、9月に発売されたキリンの「華よい」と宝酒造の「発酵蒸留サワー」も3%しかない。

このような現状を鑑みてサントリーはストゼロの存在を隠しながら……と言うと語弊があるかもしれないが、結果的についてしまった良くないイメージを薄めながら、度数も下げていくことにしたということかもしれない。


パッケージも刷新され、「-196」が大きく、「STRONG ZERO」が小さく表示されるようになった(筆者撮影)

それに海外にも輸出されているが、アジア圏では「Strong Zero」という名称でもいいものの、欧米圏では「強い虚無」のような意味合いになってしまう。だからこそ、−196というわかりやすい数字を名称にしたのかもしれない。まさか、発売当初はストゼロを海外で売るとは思ってもいなかっただろうが……。

しかし、とどまるところを知らない物価高、下がり続ける実質賃金、そして先の見えないこの国の未来。この状態に憂いても酒に逃げられないというのであれば、2014年にストゼロが流行する前に問題視された危険ドラッグのように、この世にはさらに人をダメにするものはたくさんある。

ストロング系が淘汰された先に広がるのは果たしてユートピアか、それとも別の依存性の高い「なにか」がはびこるディストピアか……。今後もRTD市場から目を離せない。


若者から支持を集めたストロング系飲料だが、20-30代は5〜7%の飲み物にシフトしていっている(筆者撮影)

(千駄木 雄大 : 編集者/ライター)