これから日本は「経済成長」できるのか…移民を受け入れたドイツと消極的な日本の「大きな差」

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この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか?

なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換……

注目の新刊『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。

(*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)

軒並み低下する出生率

労働力減少の根本的な原因は、当然に子どもが生まれなくなっているということに起因している。日本の出生率は2005年に1.26まで低下した後、2015年には1.45まで緩やかに回復をしていたが、その後は再び低下基調に転じている(図表1-7)。足元の2023年には1.20まで低下している。

周知のとおり少子化は日本だけではなく先進国で共通しているトレンドである。世界各国の出生率はここにきて低下傾向がますます強くなっている。

英国では、2001年を底にしばらく回復を続けていたが、2012年の1.92まで上昇して以降、減少傾向に復している。直近の2021年では1.53と近年において最低の水準を記録した。

先進国の中では出生率が高く家族政策の成功例と言われていたフランスについても、一時期2.0程度まで回復していた出生率は足元では1.80まで低下している。

グラフでは記載していないが、一時、出生率が回復した先進事例として称賛された北欧諸国においても、軒並み出生率を落としている。スウェーデンは1.98(2010年)から1.67、フィンランドは1.86(2009年)から1.46、ノルウェーは1.98(2009年)から1.41に大幅に低下している。

東アジアはこれよりもさらに状況が厳しい。韓国の出生率は過去から一貫して低下傾向にあり、2000年には1.48であったものが足元では0.72(2023年)を記録し、OECD(経済協力開発機構)で最低の水準となっている。中国もコロナ禍を経て、2017年に1.81だった出生率は、2023年には1.00へと急落している。

一方、ドイツの出生率は、ほかの先進国の出生率が軒並み低下している中で、例外的に上昇基調に転じている。現金給付や現物給付の拡充など各種子育て支援などが奏功したものとされているものの、これには過去に流入した移民による出生増も大きく貢献している。移民を大規模に受け入れているドイツでは全体の出生数のうち母親が外国人の子どもが4分の1にまで達している。

他国に関してもドイツほどではないにせよ、移民の出生率は非移民に比べて高いことに変わりはなく、移民の受け入れが低下する出生率を下支えする構図になっている。

移民受け入れによる人口減少の抑制

出生率が低下している国は日本だけではない。むしろ、ドイツとイタリアに関しては日本よりも早く出生率の低下を経験しており、本来、人口減少の影響は日本よりも深刻であったはずである。

それなのになぜ日本以外の主要先進国の人口は緩やかな低下にとどまっているのか。それはほかの先進国が移民を受け入れているからである。図表1-8は、人口に占める移民の割合を取ったものであるが、いずれの国も移民の割合は緩やかに上昇傾向にあることがわかる。

統計上、いわゆる移民の把握の仕方については、いくつかの方法がある。

まず、第1に外国生まれの人を移民としてカウントして算出する方法である。第2の方法としては、外国の国籍を持つ人を移民として算出する方法がある。

たとえば、日本に住む外国出身の人で、日本国の国籍を取得しても前者の定義では移民である。一方、後者の定義では移民には当たらない。あるいは、外国人の夫婦が日本で子どもを生んだ場合、その子どもが外国籍を選択したとしても、前者の定義では日本人となる。一方、後者の定義においてはその子どもは外国人と位置付けられる。

グラフでは外国生まれの人を移民とみなしたうえで、主要国の移民人口の比率の推移を取ったものである。これをみると、米国、欧州各国ともに人口のうちで移民が占める割合は10%を超える水準を維持している。さらに、多くの国において、移民人口比率は近年においても緩やかに上昇傾向にある。

移民の受け入れについて、特に積極姿勢を強めているのはドイツである。ドイツが移民に対して積極的な姿勢を取る背景には歴史的な背景も指摘されているが、人口減少や労働力減少に対処し、経済の成長力を高めるためという意味合いも強いものと考えられる。

移民受け入れの効果もあり、ドイツの人口は低い出生率にもかかわらず、一定規模を維持している。移民受け入れの拡大は、多くの主要先進国において人口の減少圧力が強まる中、経済を成長させる原動力にもなっているのである。

その一方で、近年は移民受け入れに係る情勢は変化してきている。主要先進国において、移民受け入れの是非は、いまや経済問題と並んで最大の政治的論点となっているのである。日本以外の先進国においては、英国のEU(欧州連合)離脱や米国におけるトランプ大統領の就任の事例など、移民問題が政治に重大な影響を及ぼす事例が幅広く見られている。

大陸ヨーロッパでも移民排斥を掲げる右派政党が台頭している。フランスでは「国民連合(RN)」が、イタリアでは「イタリアの同胞(FdI)」が、ドイツでは「ドイツのための選択肢(AfD)」が国政選挙において多数の議席を獲得している。EUにおいては、右派勢力が政権を掌握している加盟国は独自の移民政策を取り始めており、これまで移民に比較的寛容な姿勢を示してきた国も政策の転換を迫られている。

移民受け入れは、働き盛りの人口を増加させることを通じ、その国の経済規模の拡大に大きなインパクトを与える。実際に、欧米における過去の移民の積極的な受け入れは、その国の経済にとっての成長戦略になってきたと考えられる。

しかし、ここにきて多くの国で移民問題は国家を二分する問題にまで発展し、これまで行ってきた移民受け入れ拡大政策のつけを払わざるを得ない状況に局面は変わってきている。

これまで人口の増加とともに成長してきた世界経済。しかし、人々の生活が豊かになるとともに出生率はこれと並行して低下している。こうしたなかで、経済のレジームは変わり始めている。

多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体