プロで2桁は勝てる…【ドラフト直前】メディアは報じない、1位指名の有力候補「金丸夢斗」の本当の評価《独自インタビュー》

写真拡大 (全13枚)

監督が語った、金丸投手の凄さ

「どのチームに行くのかというドキドキが一番大きいです。楽しみというのもありますが。指名される瞬間というのも、今まで見ていた側でしたが、逆に今年は(名前を)呼ばれる側なので、どんな感覚というのは、その時になってみないと分からないですけど、ドキドキですね」

関西大学野球部4年生の金丸夢斗(かねまる・ゆめと)投手(21)。10月24日に開催されるプロ野球新人選手選択会議、いわゆるドラフト会議で複数の球団から1位指名される可能性が高いとの評価を受けている大学ナンバーワン左腕だ。

ストレートは最速154キロで、カーブ、スライダー、スプリット、チェンジアップという4種類の多彩な変化球を投げ分ける。関西学生野球連盟のリーグ戦で22年秋に最優秀選手、ベストナインとなり、23年秋には最優秀選手、ベストナイン、最優秀投手、そして24年春はベストナインという好成績をあげチームを優勝に導いた。

4年間、コーチ、監督として指導してきた関西大学野球部の小田洋一監督が金丸投手の凄さを教えてくれた。

「投手としては本当に心技体のバランスが高いところで安定していますが、一番素晴らしいところは三振が欲しいところで狙って取れるという点です。2年生になって変化球を覚えて、全ての球種がカウント球になり、全ての球種が勝負球になるという感じで成長してきました」

性格についても聞いてみた。

「野球以外のことでも全てに主体的に動ける学生です。取り組む姿勢も本当に真摯で、誠実で謙虚でもあり、それが本当に彼の成長の礎になっているのではないかと思います」

神戸市立神港橘高校では甲子園出場も無くほぼ無名だった。新型コロナの影響を受けた世代で、アピールする場も少なかった。

そんな高校時代にオープン戦を見て関西大学野球部の練習会に誘ったのは、高校・大学の大先輩で『日本プロ野球史上、最も速い球を投げた投手』と言われる元阪急ブレーブスの山口高志さんだ。金丸投手の尊敬する人でもある。

現在は関西大学野球部でアドバイザリースタッフとして主に投手陣を指導している。

「初めて高校で見た時に、左ピッチャーで凄くコントロールが良いなあというのが第一印象だった。身体さえしっかりしたら絶対に成長するなという気持ちは強かったからね。(大学に入ってからは)全然教えることが無かったというか。

ほとんど細かいことは言わずに、先のことを考えたら身体を大きく使うことをまず覚えて欲しいなという感じで、ワインドアップで投げようかと言ったぐらいです」

長年、プロ野球選手や大学生を指導してきた山口さんから見ても、金丸投手の練習に向き合う姿勢や意識は高いレベルだという。

「割とマイペースというかおっとりしている。いま食育のためにグラウンドでみんな食事をするのだけど、金丸が一番、咀嚼するというか、じっくり噛んで食べて、たぶん栄養のことまで考えながら食べているのかなという感じはしているけどね。グラウンドでやっている長さを単純に考えたら、よく練習している」

高い意識に基づいた練習方法

先日、金丸選手の練習を取材するために、大阪・千里山にある関西大学野球部のグラウンド『KAISERS BASEBALL FIELD』を訪ねた。

「自主性を一番大事にしている練習方針なので、自分は結構やらされる練習は好きじゃないので、自分で考えてやる練習が好きなので、本当に環境にあった関西大学に進学できてめちゃくちゃ成長できましたし、入ってよかったなと思っています」

そこで見たのは、高い意識に基づいたユニークな練習方法だった。トレーニングをしている時に、口にストローをくわえていた。

「身体の中のインナーマッスルだとか腹圧という部分を大切にして、基本をしっかりとするというところから、ああいった呼吸からしっかりと身体全体を使っています。自分に合うトレーニング方法を自分で組み合わせながら考えています」

グラウンドでキャッチボールを始めると、まず手にしたのはソフトボールで、その次には普通の硬式ボールに比べると重いボールだった。

「自分の感覚的に指先で投げるよりは、手の中心でボールを押して投げるというイメージがあるので、その意識をしっかりつけるために(最初は)重いボールでわざと投げて、どんどん硬式球の感覚に近づけていくという形でやっています。人によって感覚が全然違うので、やっぱり自分で考えてやるのが一番大事だと思うので、そこはめちゃくちゃ拘っています」

ブルペンでの投球をキャッチャーの真後ろから見た。軽く投げているのに高めのストレートはホップし、変化球は鋭く曲がって低めのコーナーギリギリにコントロールされている。あらためてその凄さを実感した。

その名が全国的に広く知られるようになったのは、今年3月に日本代表『侍ジャパン』のトップチームに選ばれてプロ野球のトップ選手たちとプレーした時だ。欧州代表チームと対戦した第2戦に先発し、2回を無安打無四球、4奪三振という驚くべきデビューを飾ったのだ。

「テレビで見るような一流のプロ野球選手と一緒にできるというのが、一番嬉しかったという思いと、注目度も上がってしまうので、そういうところでしっかりと投げられるのかなという不安はありました。調子も良かったですし、ストレートも変化球もすべてにおいて良かったので、めちゃくちゃ気持ちよかったです。

あれだけのたくさんの人に見られながら投げるというのは滅多にないと思うので、そういったプレッシャーのかかる所で、自分の持ち味がしっかり出せたのは本当に自信にも繋がりました。

さらにプロ野球選手と触れ合う場面が多かったので、いろんな変化球の握り方やリリースの感覚、調整の仕方などたくさんいろんな選手に聞けたので、これからの野球人生に活かしていけるのではないかなと思っています。

侍ジャパンの時はさすがに緊張したのですけど、その後の大学のリーグ戦からは、やっぱり自分に良い意味で余裕ができてきたというか、どれだけピンチの場面でも冷静に物事を捉えられるようになりました。

そこは侍ジャパンの経験があったから、今のこの落ち着きができていると思うので、本当に良い方向になっているのじゃないかなと思っています」

栗山英樹氏も絶賛した

しかしその後、試練の時もあった。関西学生野球連盟春季リーグ戦中の5月に腰の骨挫傷で戦線を離脱した。秋季リーグ戦では復帰したが、先発登板はせずに短いイニングのクローザー役として投げ、昨秋から71イニング連続で自責点0(10月18日現在)を記録した。大学野球4年間の通算成績は20勝3敗、防御率0.83(10月18日現在)だ。

秋季リーグ戦の試合を取材に行った際には、腰への影響を考えているからか6〜7割の力で投げているように感じたが、それでもランナーを出してピンチになると球威もコントロールも一段上がった。

「(ランナーが)得点圏に行ったら、しっかりと投げミスのないようにギアを上げるというのは常に意識しています」

球場のネット裏ではスワローズの小川GMらプロ野球7球団の幹部やスカウトが金丸投手の投球を視察していた。その中に、侍ジャパンの前監督でファイターズの栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサーの姿を見つけた。1球1球熱心にメモをとりながら見ていた栗山さんに試合後に挨拶して、単独で金丸投手の印象を聞いた。

「今までは映像で何度も見ましたが、生で見るのは初めてです。150キロを投げるピッチャーで、これだけ腕を振らずに良いボールを投げられるのはなかなかいない。いいピッチャーですね。

ここまで完成されているのはなかなかいない。真後ろから見ましたけど、バッター目線で見ても、この高いレベルのピッチャーを見ることはない。こういうピッチャーがいるのは嬉しい。一野球人として、このピッチングを見られるのはとても幸せです」

こう栗山さんから絶賛された金丸投手は、プロ野球12球団のうち既に10球団との面談を終えた。各球団との面談では、家族構成や怪我歴、球歴に加えて、プロに入ってからどんなピッチャーになりたいかや自分の武器や弱いところなど自己評価を聞かれたということだ。

故障せずに長生きして欲しい」

プロ野球に入ったらどんな投手を目指すのだろうか。

「今永選手(メジャーリーグのシカゴ・カブスの左投手)のようなピッチャーになりたいと思っています。やっぱり自分の武器はストレートなので、ストレートの“スピード”より“質”を求めて、しっかり空振りを取れるようなストレートを投げるというところに関して、本当に参考にさせてもらっていますし、とても尊敬している選手です。

身体がまだまだプロ野球選手に比べたら小さい方(177センチ、 77キロ)だと思うので、まずはしっかり身体を強くするというところで、シーズンを通してしっかり投げられるような体力をつけていきたいなと思います」

ドラフト会議では5~6球団から1位指名されて抽選になるのではないかという見方もあるが、本人の希望球団はどこなのだろうか。

「特にはないですけども、ご縁があった球団でしっかりと活躍できるように。やることはどこの球団に入っても変わらないと思うので、そこは割り切ってしっかりとやっていきたいと思っています」

ドラフト1位で阪急ブレーブスに入団し、新人王、日本シリーズMVP、最優秀救援投手に輝き日本シリーズ三連覇に貢献した山口さんに、教え子の金丸投手はプロで通用すると思いますかと聞いてみた。

「ケガがなければ、順調にすぐに家が建つのじゃないかな。2桁ぐらい勝てると思うよ。それを確信というか活躍しそうやなと思ったのは、日本代表で2イニング投げた時かな。あれだけの初めての経験の時に、あれだけいいボールを投げられるのは凄い。メンタルも強いやろうなあ。故障せずに長生きして欲しいと思うね、プロの世界で」

金丸投手本人に、“10年後の自分の姿”を想像できるかと聞いた。

「やっぱり身体をしっかり大事にして、10年先もさらに15年先も長く野球をやりたいと思っているので、そこは想像できています

10年後の自分のどんな姿が、頭の中に浮かんでいるのだろうか。

「やっぱり“球界のエース”と言われるぐらいのピッチャーになりたいという思いが強いので、どうなっているか分からないですけど、いいイメージを持ってやっていきたいです」

将来的には、世界最高峰のメジャーリーグでプレーすることも考えているのだろうか。

「今は考えていないです。まずはしっかりと日本で結果を出し続けるというのは、やっぱり大事だと思うので。

その結果、活躍してメジャーに行っても通用するような実力がついていれば、そこはそこでまた考えていきたいと思っているのですけど、まずしっかりと1年だけ活躍するとかではなくて、何年もしっかりと活躍し続けるというのを今、目標としているので、1年目からしっかりと投げられるように準備していきたいです」

最後に、ドラフト会議を直前に控えた今の心境を聞いた。

「こうなるとは思ってもいなかったので、不思議な感覚ではあるのですけど、少しずつ近づいてくるうちに、今まで頑張ってきた成果が出てきているのではないかなと思っています。それは家族の支えや、たくさんの人の支えがあって辿りついたところだと思うので、これから上の世界に行って恩返ししたいなと思っています」

…つづく、春川正明氏の連載<大学野球「関西大学」に組織力が生まれた「意外な方法」…野球を「教育」にすればこれだけ変わる>はこちらからどうぞ。

大谷翔平の両親が、我が子の前で「絶対にやらなかった」意外なこと