【梅沢富美男・緊急寄稿】「トミさん出てくれない?」故・西田敏行が声をかけてくれた「幻の共演作」

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10月17日、俳優の西田敏行さん(享年76)が自宅のベッドで亡くなった。病死と見られている。

この突然の訃報を受け、『週刊現代』で「人生70点主義」を連載する俳優の梅沢富美男さんが緊急寄稿。40年以上の付き合いのあった梅沢さんが、前編記事〈【追悼・西田敏行】「アニさん、まだ逝かないでよ…」40年来の付き合いの梅沢富美男が語った「名優の意外な素顔」〉に引き続き、日本の名優とのありし日の思い出を振り返る。

西田さんと最後に交わした言葉とは--。

驚くほど芸達者だった

西田さんは、紛れもない名優でした。とにかく、どんな役を演じても巧い。苦手なジャンルがひとつもなかったんです。

『釣りバカ日誌』シリーズのハマちゃんでコミカルな演技を見せたかと思えば、大河ドラマ『八代将軍 吉宗』では威厳漂う主役の吉宗を見事に演じ、さらに『屋根の上のヴァイオリン弾き』ではミュージカルの主役も張っていた。俳優業以外にも『もしもピアノが弾けたなら』で大ヒットを記録しています。まさに芸達者とは、西田さんのような人間のことを指すんでしょう。

こと演技に関していえば、アドリブもすごかった。

そもそも『淋しいのはお前だけじゃない』(TBS系)の共演者は、河原崎長一郎さん、山本亘さんなど劇団出身の実力派揃い。そのため撮影中は演者同士のアドリブも日常茶飯事でした。なかでも、西田さんはアドリブのパターンをいくつも持っていて、監督に「ちょっと違う」と言われても別のパターンを試したりしていました。

それに、喜怒哀楽の切り替えも恐ろしく早かったのを覚えています。例えば、直前までまったく別のシーンを撮っていたとしても、カメラが回り始めたら、すぐに泣きの演技を始めることができる。涙を流すタイミングも完璧でした。

そんな西田さんに、当時言われた印象的な言葉があります。

お気に入りは下北沢だった

「良いNGを出そうね」

いまのドラマの現場は、役者がセリフをとちってもヘラヘラ笑っていたりします。でも、これは悪いNG。セリフを覚え、よどみなく発するというのは、役者にとって基本中の基本。そこでつまずくのはむしろ恥ずべきことであり、笑っている場合ではありません。

そうではなく、監督としては問題ないが、役者である自分が納得いかないからもう一度やらせてもらう。これが、西田さんの言う、良いNGでした。

西田さんを始め、どの役者さんもストイックだったので撮影現場には緊張感が漂っていましたが、いざ終わってしまえば話は別です。その証拠に、共演者同士で毎日にように飲み歩いていました。

西田さんがしょっちゅう連れて行ってくれたのが、下北沢。

所属していた青年座の稽古場がこの地にあったので、昔から庭のような感覚だったみたいです。芸能人がよく行くような気取った店には行かず、大衆居酒屋でワイワイするのが大好きでした。

ちなみに、酒席で盛り上がると、決まって始まるのが「なんちゃってスター千一夜」という遊び。

『スター千一夜』(フジテレビ系)は著名人をゲストに呼ぶ人気トーク番組ですが、これを少しアレンジしたのがこの遊びです。参加者は司会とゲストにわかれ、ゲスト役は動物などになりきって自由に受け答えをします。例えば、こんな感じです。

天性のセンスがあった

司会「今日はヘビさんにお越しいただきました。お仕事はなにしているの?」

ヘビ「金融関係をちょっと」

司会「結婚は?」

ヘビ「女房と子供がいます」

司会「奥さんはどんなヘビなの?」

ヘビ「マムシです」

司会「あら、毒があるから大変だ」

ヘビ「そうなんですよ。夜の生活が難しくて。興奮すると噛みついてくるんで、毎回死にそうになっています」

ところどころにクスッと笑えるポイントを作るのがミソなんですが、話しながら瞬時に考えないといけないので、これがなかなか難しい。それに、やたらと笑わそうとすると逆に白けてしまうので、その塩梅も大切です。これも、ずば抜けて面白かったのが西田さん。みんな腹を抱えて大笑いしていました。

おそらく、こういったセンスは天性のものだったんでしょう。

西田さんは即興でオリジナルソングを作る腕もピカイチだった。

たまたま行ったスナックのママの名前が「京子」だったら、この名前を使ったバラード曲なんかをパパッと作って、歌ってくれる。しかも即興とは思えないほど、ジーンとくる良い曲なんですよね。

どれもこれも、懐かしい思い出です。

「トミさん、久しぶりに一緒に飲もうよ」

西田さんと最後に会ったのは、7年ほど前だったと思います。

「トミさん、この日空いてる?」

いつもと変わらない軽い感じの連絡が来て、西田さん行きつけの店で会うことになりました。たしか、映画の話をしたと思います。

なんでも西田さんの故郷である福島を題材にした映画の企画が持ち上がっているとのことで、「トミさんも出てくれない?」というお誘いでした。「アニさんが出るなら喜んで」と返したのですが、結局、この企画は流れてしまって実現はしませんでした。

そういえば、私が出演する『プレバト!!』(TBS系)も話題に上がりましたね。意外にも、私が俳句に挑戦する回をちょくちょく観てくれていたみたいです。「トミさんの俳句は情景がパッと浮かぶから、俺、好きだな」なんて言ってくれましたっけ。

けれどその日以来、体調があまり芳しくないということで、しばらく会えない期間が続いてしまっていた。

まさか、あれが最後になるとは……。どうしてもっと会っておかなかったんだろう。いまさら悔やんでも、悔やみ切れません。

ただ、嘘のような本当の話なのですが、実は西田さんが亡くなる3日前、私の夢に出てきてくれたんです。

「なあトミさん、最近ご無沙汰だったけど、久しぶりに飲みに行こうよ」

夢のなかの西田さんは、昔と変わらない優しげな笑顔を見せていました。

きっと最後に、下北で飲み歩いていた頃みたいにたらふく飲んで、大騒ぎしたかったんじゃないかな。だから、私の夢にもわざわざ出てきてくれたんだと思うんです。

アニさん、私がそっちに行ったら、また一緒に飲みましょうね。そのときはカラオケでも行きますか。

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