岸田も石破もダメ…「悪党」が少なすぎる日本政治が、とてつもなく「危うい状況」にあると言えるワケ

写真拡大 (全3枚)

ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩、中国国家主席習近平。日本近隣の国々のトップは揃いもそろって「悪い奴ら」ばかり。岸田首相は遂に「悪党」にはなれなかった。そして、ポスト岸田もなんとも頼りない。

永田町取材歴35年、多くの首相の番記者も務めた産経新聞上席論説委員・乾正人は、いまこそ「悪党政治家」が重要だと語る。「悪人」をキーワードに政治を語る『政治家は悪党くらいでちょうどいい!』(ワニブックス刊)より一部を抜粋編集してお送りします。

「経済一流、政治三流」は遙か昔

国会での内容のない論議以上に深刻なのは、政治が「結果」を出していないことにある。

一昔前までは「経済一流、政治三流」と言われてきたが、最近では「経済一流」も怪しくなった。

実は、経済が一流であった時代は、政治もそこそこやっていたのである。

政治が「三流」に転落したから経済も「三流」に転落してしまったとの見方も成り立つ。

日本政治が「三流」に転落したことで、国力は大きく削がれ、少子化対策も後手を踏み続けた。

電気自動車最大手・テスラの経営者であり、宇宙事業にも積極的に乗り出しているイーロン・マスクは、2023年の日本の出生数が75万8631人(速報値)と過去最少を更新したことを受け、Xで「もし何も変えなければ、日本は消えてなくなるだろう」(2024年2月)と警告した。彼は2年前にも同様の「日本消滅論」を唱えていた。日本の政治家が大胆な政策を打ち出し、実行できないことを見透かしているのだ。

「ポスト安倍」、いまだ現れず

悔しいかな、彼の挑発的な指摘に反論する材料を、いま私は持ち合わせていない。

凶弾に倒れた安倍晋三なき自民党に、政策力と実行力とを兼ね備えた「ポスト安倍」がいまだ現れていないのも「三流政治国家」の明らかな症例だ。

自民党だけではない。野党全体を見渡しても「この人を総理大臣にしたい」という魅力ある政治家が皆無なのである。

世論調査で「次の総理大臣にふさわしい政治家」を聞いても野党政治家が上位に食い込むのはまれである。野党第一党の立憲民主党代表の泉健太を挙げた人は、わずか1%にすぎなかった(令和6年4月実施。産経新聞・FNN調査)。

もちろん政界の人材不足は今に始まったわけではなく、洋の東西を問わない。

敗戦後の日本が、好むと好まざるとに関わらず、民主主義の範としたアメリカでも同じこと。一時は、2024年秋の大統領選を認知症と疑われた81歳の現職ジョー・バイデンと78歳のドナルド・トランプが争おうとしたほど人材が枯渇している。

バイデン、トランプはともに歴代米大統領より人格、見識ともに傑出した人物である、と感じているアメリカ人は、熱狂的なトランプ信者以外にはいまい。

バイデンは2024年7月22日(日本時間)、出馬断念に追い込まれたが、共和、民主両党ともに人材難なのは日本と同じ。

メディアの発達、なかんずくSNSの爆発的普及によって民主主義国家においては、カネや男女関係がらみのスキャンダルはもとより、ちょっとした失言をしても瞬時にネガティブ情報が駆けめぐり、多くの場合、政治的致命傷になっている。

特に働き盛りの60歳代以下の政治家で、脛に傷を持たない政治家などいない、といっても過言ではない。

アメリカで1980年代から広まったポリティカル・コレクトネス(人種、性別、思想などの違いで偏見や差別をしない中立的な表現や用語を使用すること)に縛られた彼ら彼女らは、総じてスキャンダルに対する耐性ができておらず、SNSを通じた不特定多数からのバッシングに脆い。

その点、トランプはこれまでの経歴でありとあらゆるスキャンダルに見舞われてきたが、並はずれた鈍感力で乗り切ってきた。刑事被告人として法廷に立ちながら大統領選に挑んでおり、「司法の横暴」を支持者にアピールするなど逆手に取っている。

こうした実績からトランプは、押しも押されもしない「悪党政治家」の部類に入る。

だが、今、世界を牛耳ろうとしているのは、ホンモノの「悪い奴ら」である。

「悪党」でなかった岸田文雄

「悪党政治家」より悪質な「悪い奴ら」は、隣国のウクライナ指導部を「ネオ・ナチス」呼ばわりして攻め込み、多大の犠牲者を出しても恬として恥じぬロシア大統領ウラジーミル・プーチンが、「悪い奴ら」そのものなのは、言うまでもない。

困窮する国民を顧みず、核・ミサイル開発に妄進する北朝鮮の金正恩、国際社会の非難をカエルの面に小便とばかりにガザ市民を虐殺したイスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフと、枚挙にいとまがない。

台湾併合を公言してやまず、東、南シナ海どころか西太平洋にも覇を求めてやまない中国国家主席、習近平は「悪い奴ら」の仲間である。

もちろん、多大の犠牲を伴う台湾上陸作戦を決行した時点でホンモノの「悪い奴ら」にランクインするのは当然だ。

対する西側陣営には、こうした「悪い奴ら」と対話し、かつ対抗できる「悪党政治家」が、トランプをはじめほんの少ししかいない。

トランプは「自分が大統領だったらロシアはウクライナに攻め込まなかった」という趣旨の発言をしたが、その通りだ。

アニメ・アンパンマンのキャラクター、ばいきんまんの名セリフ「悪には悪の正義がある」は、一面の真実をついている。

「悪の正義」がわかるのは、「正義」を信じてやまない善人ではない。酸いも甘いもかみ分けた「悪党」であり、だからこそ対話が可能となる。

「善人」政治家の部類に入るバイデンや岸田文雄は、「悪の三国同盟」と化した中国、ロシア、北朝鮮とは、とても渡り合えない。

現に拉致問題解決の糸口をつかむため金正恩とのトップ会談に前のめりになっていた岸田は、北朝鮮側に日朝間の秘密交渉をばらされ、はしごを外された。

そんな岸田もバイデン同様、再選の道を自ら絶った。

2024年9月の自民党総裁選に出馬しても勝ち目がないのを悟ったからだが、彼も「悪党」ではなかった。

もし、「悪党政治家」だったならば、どんな手練手管を使っても総理大臣の椅子に座り続けようとしたはずだ。

日本が台湾や尖閣諸島をめぐって中国と一触即発の状態にあり、内政でも時代の転換点を迎えたいま、ポスト岸田に最も求められる資質は、「悪党」の如き決断力と行動力ではあるまいか。

さらに【つづき】「岸信介、佐藤栄作…「昭和の政治家」にあって「令和の政治家」にはない、「超重要な資質」をご存知ですか」(10月18日公開)につづきます。

保守のプリンセス・高市早苗がいよいよ総裁選へ…でも、彼女に「決定的に欠けている」ものがあった