【図形問題】長方形ABCDの辺AB、CDに逆向きの矢印を付けました。矢印の向きをそろえて「同一視」するとできる図形は?ただし新図形は自己接触しません!

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宇宙はどんな形をしているのか? その謎に迫るために取り入れられているのが「トポロジー:位相幾何学」と呼ばれる数学です。このトポロジーの中でも、超弦理論との関係から近年注目されている「結び目理論」や、宇宙空間を考えるうえで重要になる「高次元幾何学」を中心に、この不思議な世界を紹介する話題の新刊『宇宙が見える数学』。この本の中から、この宇宙の形を知るために必要な「曲面」について理解するための「図形の操作」について見ていくことにします。

*本記事は『宇宙が見える数学』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

超ミクロな世界や、宇宙を解明しようとしたら「曲面」について研究する必要があります。ここで当面のあいだ「曲面」とは日常生活でいう曲面だと考えてかまいません。

たとえば、イランの偉大な女性数学者マリアム・ミルザハニは「リーマン面」という「複素数と『ある種の曲面』を融合した対象」についての研究で2014年にフィールズ賞を受賞しました。超弦理論で曲面が重要だというのは前節で見ました。超弦理論でリーマン面はさらに重要です。

では、段階を追いながら曲面について見ていくことにしましょう。

図形の「自己接触」とはなにか

まず、基本的な言葉の定義を見ていくことにします。

図1のように線分を動かして一部を他の部分に接触させます。

このように図形を動かした結果、その図形のある点が別の点に接触するとします。その(結果の)図形は(はじめの図形が)「自己接触して(できて)いる」と言います。

簡単な問題を考えてみましょう。

境界を含む線分ABを考えます。この線分の両端の点Aと点Bを貼り合わせます。このとき、他の点はどの点ともさわらないようにします。どんな図形ができあがるでしょうか?

図形の「同一視」とは何か?

答えは、円周です(図2)。

ある点とある点を貼り合わすことを、それらの点を「同一視する」といいます。ところで、図2を作るときは、はじめに、「この点とこの点を同一視する」と言った点がありました。それらでしか同一視は起こっていません。

図3 の2つの図をご覧ください。

それら以外の点同士が結果として「同一視されて」います。はじめに、「同一視はこの点とこの点でのみ行い、新図形を作る」と決めます。結果として、図3のように、それら以外の点で、同一視が行われるとき「新図形は自己接触している」といいます。

図2のように、はじめに決めた点以外の点は、どの点とも同一視されていないとき、「新図形は自己接触していない」と言います。

言いようによっては、「このような同一視のみで作る」と言った時点で、新図形は「抽象的には」決まっているわけです。もとの図形(今回は線分)を主役に見れば、もとの図形は同一視する点で自己接触しています。

線分と線分の同一視

「線分と線分を同一視する」ことも「点と点を同一視すること」から類推できるでしょう。この場合は、線分と線分をぴったりあわせて1本の線分にします。

片方の線分のある点は別の線分のある点と同一視されます。

ある図形から、同一視によって「新図形が自己接触しないように」構築するのは数学では基本操作です。この後でも、上のような問いを出していきます。

正方形を操作してできる図形は?

それでは、曲面の話を始めます。

正方形ABCDを用意します。この正方形は辺だけなく中身もあります。次に、正方形の4つの辺に矢印を付けます(図4左)。ここでは問題文とは違い、向かい合う辺の矢印の向きが合うようにしてください。

この図形の、辺BAと辺CDを同一視します。矢印の向きが合うようにします。辺ADと辺BCを同一視します。ここでも矢印の向きが合うようにします。

これらの同一視をして新図形を自己接触しないように作ります。さて、どんな図形ができるでしょうか。

順に見ていきます。まず、この正方形の辺ABと辺DCを矢印の向きが合うように、ぴったり貼り合わせてみましょう。当然、点Aと点Dが重なり合い、点Bと点Cが重なり合います。これは筒のような形になります(図4右)。

では続けて、辺ADと辺BCを矢印の向きが合うように貼り合わせてみましょう。できる新図形は自己接触していないようにします。

このドーナツ図形の名前は「トーラス」!

貼るときに正方形ABCDを引き延ばしたり曲げたりしてもかまいません。アタマを柔らかくして考えてください。

答えは、ドーナツの表面のようになり、結果として4つの点A、B、C、Dは重なり合って1点になります(図5)。

この図形には「トーラス」という名前が付いています。

それでは、これから少しずつ複雑な図形を考えてみましょう。

長方形ABCDを操作してみると

次も、紙工作の問題です。

まず長方形ABCDを用意します。まわりの辺だけでなく中身もあります。横の長さを、縦の長さより、結構長めにしておきます。

この長方形の辺ABと辺DCに同じ向き(図では上向き)の矢印を付けます。この矢印の向きが合うように同一視します。このとき、新図形は自己接触しないようにします。これは、どのような図形になるでしょうか?

もうおわかりだと思います。さきほどと同様に、点Aと点D 、点Bと点Cが重なり筒のような形ができます(図1.13)。

この図6の右の図形はアニュラス、シリンダー、筒、円柱の側面、などと呼ばれますが、ここではトポロジーでよく使われる「アニュラス」と呼ぶことにします。このアニュラスを曲げたり、引き延ばしたりしてできた図形もアニュラスと呼ばれます(図7)。

あれ! と思った方もいらっしゃると思います。さきほどのトーラスを作るときにもアニュラスが出てきていました。

矢印の向きを交互にすると、できる図形は?

さらに、紙工作を続けます。今回も横方向が長い長方形を用意します。まわりの辺だけでなく中身もあります。ただし、この長方形では、辺AB、辺CDの矢印の向きを逆にします(図8)。これが問題文の図形です。

では、この長方形の辺BAと辺DCを矢印の向きが合うように同一視すると、どのような図形になるでしょうか? ただし新図形は自己接触しないようにします。

長方形をABCDを半捻りする!?

まず、この長方形の辺ABと辺DC を矢印の向きが合うように貼りましょう。

この場合、矢印の向きをそろえるために辺DCを180度捻るようにして、点Aと点C、点Bと点Dが重なります(図9)。

これは有名なメビウスの帯(輪)です。アニュラスの場合と違って「半捻り」(180度捻り)しています。

メビウス(1790-1868)は偉大な数学者の名前です。この図形に関する主要な研究をしたことから彼の名を冠しています。メビウスの帯というと、SF小説や映画で見聞きしたことがあると思います。筆者が見たことのあるSF映画では、異次元空間への移動手段としてメビウスの帯が使われていました。

以前の記事で「超弦理論」の話をしました。じつは、複数の超弦が反応するときに途中の状態(世界面)がメビウスの帯になることもあると考えられています。

このメビウスの帯には不思議な性質があるので、以降の記事でいくつか紹介していくことにします。

裏と表のない世界!左右の逆転が起こる!境界が1つしかない!そして「結び目」が出現する!メビウスの帯とアニュラスの不思議な図形世界