「これは、ゾウもどき?」ありえない牙の形が、まるで想像上の動物…現生種につながらなかった「幻の長鼻類の姿」が衝撃的すぎた

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新生代は、今から約6600万年前に始まって、現在まで続く、顕生代の区分です。古生代や中生代と比べると、圧倒的に短い期間ですが、地層に残るさまざまな「情報」は、新しい時代ほど詳しく、多く、残っています。つまり、「密度の濃い情報」という視点でいえば、新生代はとても「豊富な時代」です。

マンモスやサーベルタイガーなど、多くの哺乳類が登場した時代ですが、もちろん、この時代に登場した動物群のすべてが、子孫を残せたわけではありません。ある期間だけ栄え、そしてグループ丸ごと姿を消したものもいます。

そこで、好評のシリーズ『生命の大進化40億年史』の「新生代編」より、この時代の特徴的な生物種をご紹介していきましょう。今回は、長鼻類です。読んで字のごとく、長い鼻の動物で、現在の長鼻類はゾウ(アジアゾウ属とアフリカゾウ属)ですが、かつては多くの仲間がいました。今は見ることができない“ゾウではない長鼻類”の姿を追ってみます。

*本記事は、ブルーバックス『カラー図説 生命の大進化40億年史 新生代編 哺乳類の時代ーー多様化、氷河の時代、そして人類の誕生』より、内容を再構成・再編集してお届けします。

長鼻類の繁栄…かつては「ゾウ類ではない長鼻類」も

現生のゾウ類は、「長鼻類」というより大きなグループ中の一グループであり、そして、長鼻類の唯一の生き残りのグループでもある。現生の長鼻類はゾウ類しかいないけれども、かつては複数のグループが長鼻類を構成し、そして、進化を重ねていた。

長鼻類の歴史は古く、先の記事でも暁新世のフォスファテリウム、始新世のモエリテリウム、フィオミアを紹介してきた。

この3種類の長鼻類はいずれも「ゾウ類ではない長鼻類」であり、そして、「初期の長鼻類」でもある。3種類の中で最も進化的なフィオミアは、肩高1〜1.5メートルで、「やや長い鼻」をもっていた(とみられている)。こうした進化は、アフリカで紡がれていた。

下顎の牙がまるで「シャベル」

長鼻類は、中新世になってアフリカだけではなく、ヨーロッパやアジア、アメリカなどにも生息域を広げるようになった。

そんな“出アフリカ”を成し遂げた長鼻類の一つが、「プラティベロドン(Platybelodon)」だ。その化石は、中国、アメリカ、ロシアなどで発見されている。

プラティベロドンも、「ゾウ類ではない長鼻類」である。プラティベロドンの最大の特徴は、下顎の牙だ。平たくなり、左右で接して一枚の板のようになっている。まるで「シャベル」のような形状になっているのだ。『新版 絶滅哺乳類図鑑』では、「これを使って、沼沢地性の植物を根こそぎ掘り起こして食べていた」としている。

上顎からは“普通の牙”がまっすぐ伸びている。頭骨における鼻孔の位置は、口先からかなり遠いため、フィオミアと同等の長さかそれよりもやや長い鼻をもっていたとみられている。

肩高は2メートルに達した。ここまで大きくなれば、アジアゾウ(Elephasmaximus)の小さな個体とサイズ的にはさほど変わらない。

中新世のアフリカだけではなくアジアやヨーロッパにいた「ゾウ類ではない長鼻類」をもう1種類紹介しておこう。こちらも、下顎の牙が特徴的だ。

反り返った牙。なんと、先端は後ろに向いている

その長鼻類の名前を、「デイノテリウム(Deinotherium)」という。デイノテリウムの下顎の牙は、下方に向かってぐるりと反り返り、先端は斜め後方に向いている。『新版 絶滅哺乳類図鑑』では、この牙を使って樹木の皮を剝がしていた可能性に言及している。皮を剝がして、そして、食べるのだ。

デイノテリウムの肩高は、実に4メートルに達した。プラティベロドンの2倍であり、現生のアフリカゾウ(Loxodonta africana)の肩高をかなり上回る巨体である。

そんな巨体でありながらも、首が短いため、口が地面まで届かない。そのため、デイノテリウムには、現生のゾウ類と同じような「長い鼻」があったとみられている。

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さて、ゾウ類に近縁とされる長鼻類の一つに、「ステゴドン類」がいた。多数の種を擁する「ステゴドン(Stegodon)」属に代表されるこのグループは、中新世末から第四紀にかけてアジアで大繁栄を遂げ、この日本列島(まだ大陸と地続きの部分があったが)にもやってきたのだ。

次回の記事では、いくつかのステゴドンの仲間を紹介していこう。

カラー図説 生命の大進化40億年史 シリーズ

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