2024年10月「金融政策に関するアンケート」調査


 7月31日、日本銀行は政策決定会合で政策金利の0.25%引き上げを決めた。3月のマイナス金利解除に続いて金融引き締めに踏み切った。
 これを受け、東京商工リサーチ(TSR)は10月1〜8日に企業アンケートを実施し、企業の資金調達への影響を探った。この1年間で借入金利が「すでに上昇している」と回答した企業は46.3%と約半数に達した。

 7月の追加引き締め前に実施した前回調査(4月)から28.6ポイント急増した。向こう半年の借入金利について、メインバンクから「引き上げをはっきり伝えられた」、もしくは「可能性を示唆された」と回答した企業も合計58.8%に達し、前回調査より28.0ポイント上昇した。金利はいち早く上昇局面に入っているようだ。

 メインバンクから借入金利について、現状から0.1%上昇を打診された場合、「受け入れる」との回答は82.2%に達した。0.3%の上昇では42.1%、0.5%の上昇では22.9%だった。前回調査では、それぞれ77.3%、37.3%、19.1%で、「受け入れる」企業の割合は増加した。
 企業を取り巻く資金調達の環境や金利引き上げへの態度は、7月の政策金利引き上げの影響を色濃く受けていることがわかった。ただ、急激な借入金利の引き上げは設備投資や研究開発、賃上げなどに悪影響を及ぼす恐れもある。稼ぐ力の改善など本業支援を十分に発揮できない金融機関をメインバンクとする企業は、競争力がより一層低下しかねない状況だ。

※本調査は、2024年10月1〜8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,385社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
※本調査は3回目。前回(第2回)調査は2024年4月12日公表。

Q1.資金調達の借入金利は今後どのように変化すると思いますか?昨年10月の水準と比較して回答ください(択一回答)

◇「すでに上昇」が46.3%
 「すでに上昇している」が46.3%(5,348社中、2,481社)で半数近くを占めた。前回調査では17.7%だったが、夏場を挟んで28.6ポイント上昇した。次いで、「2024年12月末までに上昇」が23.0%(1,234社)で、合計約7割の企業が年末までの引き上げに言及した。
 業種別(業種中分類、回答母数10以上)で分析すると、「非鉄金属製造業」や「木材・木製品製造業」、「家具・装備品製造業」はすべての企業が「すでに上昇」、または「今後上昇」(2024年12月末まで+2025年1-6月のあいだ+2025年7月以降)と回答した。



Q2.今後(概ね向こう半年)の資金調達の借入金利について、メインバンクより今年に入ってから、どのような説明がありましたか?(択一回答)

◇「金利引き上げ」に言及は58.8%
 「今後の金利の話はしていない」が39.5%(5,385社中、2,128社)で最も多かった。前回調査では65.4%だった。金利に関する対話が進んでいることがうかがえる。
 「金利引き上げをはっきり伝えられた」は34.8%(1,877社、前回調査5.5%)、 「金利引き上げの可能性を示唆された」は24.0%(1,293社、同25.3%)だった。こうした「引き上げ」に言及した企業は合計58.8%で、前回調査(30.8%)より28.0ポイント増加した。
 「引き上げ」に言及した企業を業種別(業種中分類、回答母数10以上)で分析すると、 トップは「家具・装備品製造業」の85.1%(27社中、23社)だった。



Q3.メインバンクから今後の資金調達の借入金利について、既存の利率より0.1%、0.3%、0.5%の上昇を打診されたと仮定した場合、貴社はどのように対応しますか?(択一回答)

 「受け入れる」と回答した企業は、上昇幅が0.1%では82.2%(4,868社中、4,002社)だった。0.3%では42.1%(4,588社中、1,933社)、0.5%は22.9%(4,443社中、1,018社)で、上昇幅が増加するほど、割合は低下した。ただ、前回調査(それぞれ77.3%、37.3%、19.1%)と比較すると、「受け入れる」と回答した企業の割合は上昇した。



 7月31日に日銀が政策金利の0.25%引き上げを決めた。その後、金融機関は短期プライムレートを1.475%から1.625%へ引き上げるなど、政策金利に連動した動きを見せている。「金利のない世界」が常態化していた国内企業にとって、金利引き上げのインパクトは小さくない。
 メインバンクから向こう半年の借入金利について、「引き上げをはっきり伝えられた」、もしくは「可能性を示唆された」と回答した企業は合計58.8%で、前回調査(4月)より28.0ポイント上昇した。「家具・装飾品製造業」や「洗濯・理容・美容・浴場業」など、原材料・人件費の高騰が直撃し、コロナ禍の影響も色濃く残る業種が上位に並んだ。国内の企業数が減少するなか、金融緩和が長く続き、これまで金融機関は横並びで信用リスクに見合った金利を設定しにくい状況にあった。ただ、ここにきて業種特性や個社の信用力を加味し、金利交渉に臨む姿が透けて見える。
 既存金利より0.3%上昇した場合、「他行へ調達を打診する」との回答が半数近く(45.2%)に達し、0.5%上昇では5割を超える(54.9%)。企業の理解なき金利の引き上げは、メインバンクの地位を失いかねないことを暗示している。コンサルティングなどの手数料収入(役務利益)から、資金利益への単純な先祖返りはメインの価値を失わせる。
 「金利ある世界」では、金融機関も金利以外での対応力が求められそうだ。