デジタル技術の進展に伴い、真偽の見極めが難しい情報がインターネット上を飛び交うようになった。

 混迷を深める時代に、事実を正確に伝える新聞の使命と役割は重い。

 近年、懸念されているのは生成AI(人工知能)を使った偽動画による世論の誘導だ。

 米国では昨年12月、バイデン大統領がホワイトハウスでロシア語の歌を口ずさみ、踊り出す動画が拡散された。露国営メディアがAIを使って本人の表情や声色を再現し、11月の大統領選に介入しようとしたとされる。

 今年のインド総選挙でも、モディ首相が跳びはねたり、両手を上げて観衆を鼓舞したりする動画がSNS上で広がり、発信者はモディ氏を「独裁者」と批判した。

 精巧な偽動画が、誰でも簡単に作れる時代になった。日本も今、衆院選の最中だ。ウソの情報で有権者を惑わすような行為は、民主主義を揺るがしかねない。自由で公正な選挙のためには、正しい情報が不可欠である。

 本紙の世論調査では、新聞が正確な情報を伝えることに「期待する」と答えた人が全体の85%に上った。ネット上のニュースについて、どこが発信した情報を信頼しているかを尋ねた問いでも、「新聞社」が52%で最も多かった。

 新聞社は各地に記者を派遣し、多くの関係者に取材して事実を確認のうえ報道している。科学的なデータや専門家の意見を踏まえた多角的な分析にも取り組んでいる。正しい情報を求める読者の期待に応えなければならない。

 偽情報は、一刻を争う自然災害の救助活動も妨げている。能登半島地震では、東日本大震災の津波の動画を加工したとみられる映像やウソの被災情報が相次いだ。

 こうした現象を増幅させているのが、閲覧数に応じて広告収入が増える仕組みだ。そのため、刺激的な情報が重視されがちで、人々の関心が優先される「アテンション・エコノミー」と呼ばれる。

 情報の信頼性を確認できる仕組みが必要だ。報道機関などの組合は、ネット上の記事などに発信者情報を付与するデジタル技術「オリジネーター・プロファイル(OP)」の開発を進めている。

 15日に新聞週間が始まった。代表標語には「流されない 私は読んで 考える」が選ばれた。

 標語を作った42歳の会社員男性は「新聞の活字を読むと、中立的、冷静に物事を考えられる」と話した。記憶に残りやすく、熟考できる活字文化を大切にしたい。