化学賞を受賞するデイビッド・ベイカー氏(左)、デミス・ハサビス氏(中)、ジョン・ジャンパー氏=ノーベル財団のウェブサイトから

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 スウェーデンの王立科学アカデミーは9日、今年のノーベル化学賞を、米ワシントン大のデイビッド・ベイカー教授と、英グーグル・ディープマインド社のデミス・ハサビス最高経営責任者、同社のジョン・ジャンパー上席研究員に贈ると発表した。

グーグル・ディープマインドのAIモデル「アルファフォールド3」が生成した、たんぱく質などの構造予測のイメージ=同社提供

 業績は「コンピューターによるたんぱく質設計と、構造予測」。8日の物理学賞は、人工知能(AI)の基礎を開発した2氏に決まったが、早くもAIの研究分野での応用が評価されたことになる。

 私たちの体を作り、酵素などとして体内のさまざまな反応を担うたんぱく質も、細胞内で遺伝子に基づき作られたアミノ酸が、長いひものように連なってできている。

 折りたたまれた立体構造が機能のカギで、どのように折りたたまれているかを正確に知ることは50年来の難題とされてきた。

 ベイカー氏は、2003年にコンピューターを使ってアミノ酸の配列から、たんぱく質の立体構造を予測し、狙った機能を持つ新たなたんぱく質を設計することに成功した。

 ハサビス氏とジャンパー氏は、AIを活用して、予測の精度を飛躍的に向上させたプログラム「アルファフォールド(AF)」を開発するなどした。

 2018〜20年に公開されたAFやAF2は、これまで試料を使って数年かかることもあったたんぱく質の構造決定を、コンピューター上でわずか数時間で正確に行うことができ、生物学や化学の研究者らに衝撃を与えた。

 たんぱく質の予想ソフトやデータベースは無料で公開され、200万人以上の科学者が利用しているとされる。今年5月には数分程度で予測が可能になるAF3も発表して話題になった。

 ハサビス氏が10年に起業したディープマインド社は14年にグーグルに買収され、世界最強の棋士に勝利した囲碁AI「アルファ碁」を生み出したことでも知られる。私たちの脳が計算する原理を計算科学に応用し、深層学習(ディープラーニング)や強化学習など、ChatGPT(チャットGPT)などの生成AI登場にもつながる研究成果を次々に生み出してきた。

 賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億5700万円)で、ベイカー氏が半分、ハサビス氏とジャンパー氏が4分の1ずつ分ける。