<休む>がわからない「多動」の子どもにどう接する?特別支援教育専門家「不登校の子どもには、疲労が大きすぎるために登校拒否するケースも…」
特別支援教育の専門家で、500名以上の子どもの支援に携わる前田智行氏は、「実は私自身幼いころから問題行動が目立つ子どもでした」と言います。当事者であり支援のプロフェッショナルだからこそわかる、「今本当にすべきこと」とは?「子育ての突破口が見えた!」と共感・感謝の声が多数の著書『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』から一部を抜粋して紹介します。
【書影】500名以上の子どもの支援に関わってきた、特別支援教育の専門家 前田智行さん著書『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』
* * * * * * *
意外と教わらない休み方
多動な子どもは、そもそも「休む」という概念を持っていないことが多いようです。多動な子どもはオンオフでの切り替えが難しいため、休み時間でも、放課後でも、1人のときも常に何かしらに興味が移って活動してしまいます。
そのため、一般の人が「疲れた〜」と言って、何も考えずゴロゴロするような休み方を大人になっても知らないまま、という当事者の方もいます。
ただし、「寝る」という活動は、体も回復するので「休む」と認識しているケースは多いと思います。
そこで、子どもには「休み方」を教えるのが大切です。たとえば多動な子も、疲れてくると、「もう宿題やりたくない! 」と、自分をコントロールできなくなります。
そんなときは、「じゃあ、腕を顔の前でバッテンにして、そのバッテンをおでこにつけて、机に倒れてみて。そのまま、頭の中で100秒数えてください」と教えてみます。
すると、終了後「どうだった?」と聞くと、「ちょっと頭がスッキリした」と言ってくれます。そして、「じゃあ、宿題の続きできそう?」と聞くと、「できそう」と言って続きに取り組んでくれます。
このように、休み方を知らない子どもは意外と多くいます。
休み方を知ることで、環境に適応できるようになることも
一方で、疲れたときの適切な休み方を教えることで、環境に適応できるようになる子どももいますので、この方法はおすすめです。
特に、発達障害の子どもは、周囲に過剰に気を遣って活動に参加をした結果、定型発達の子ども以上に疲労を抱えてしまう子もいます。
ですから、休み方を学んだり、クールダウンスペースを設置して、定期的に休める体制づくりをすることも大切です。
不登校の子どもの中にも、学校生活の疲労が大きすぎるために、登校拒否するケースもありますので、あえて学校生活の中で、休憩時間をつくることで、登校が継続することもあります。
ちなみに、著者自身も多動があり、常に何かをしている状態がスタンダードでした。学校の休み時間も、会社の休憩時間も、常に何か作業をしているため、「休む」という感覚を知ったのは 30歳のときでした。
気づいたときは衝撃でしたが、脳の特性が異なると、このような当たり前と呼ばれる現象に気づくことにも、彼らは時間がかかってしまうのです。
だからこそ、支援者とのコミュニケーションを通して、気づいていないことを教えてあげることが重要だと言えます。
感情で説明されると伝わりづらい
ASDの子どもは、目に見えない感情など、概念の理解が苦手なことがあります。
そのため、廊下でボールを投げるなど危ない行動をしているときに、「小さい子が怖がっているでしょ!」と伝えても、「俺は、怖くはないしな……何が嫌なんだろ」と、気持ちによる言い方がうまく伝わらないことがあります。
そこで、「ボールが窓に当たって割れたら 2万円の罰金だよ」「怪我したら、病院に行くから。給食のカレー食べられないよ」など、損得を基準とした伝え方は、気持ち/感情に関係なく、デメリットが明確なため、「それはしないほうがいい」と理解するのが簡単になります。
もちろん、気持ちを教えることは悪いことではないので、損得で納得する言葉と一緒に、「ボールは外で遊べば得だし、小さい子も安心だね」など、損得+気持ちをセットにして伝えると良いでしょう。
数字は曖昧さを減らす有能ツール
発達障害の子どもは、「ちゃんと/しっかり/丁寧に」など、曖昧な言葉で言われると、曖昧さを理解できず、混乱してしまうことがよくあります。
また、大人も曖昧な言い方はしない、と心がけていても、「どう伝えればいいか」と迷ってしまうこともあります。そこで、1つの方法として、数字を使って説明することがおすすめです。
「ちゃんと手を洗いなさい」ではなく、「10秒水で手洗い、ハンドソープをつけて20秒モミモミ、10秒で泡を洗い流す」と数字で伝えると明確になり、行動に移しやすくなります。
「大人の指示を理解できない」「行動が定着しない」と支援者が悩んでいるケースでは、単純に指示が曖昧で伝わっていないケースが多いので、数字で説明することで適切な行動が定着しやすくなる効果もあります。
良い行動にも注目することで改善することも
ちなみに、日々の生活や思考を数字で置き換えて理解をすることは、ほかの場面でも有効です。
たとえば、ADHD/注意欠如・多動症の診断基準を確立した、コナーズ博士は、「ADHDは普通の子どもより、何倍も行動する。
だからこそ、良い行動と悪い行動の割合は、ほかの子どもと同じにもかかわらず、悪い行動が何倍にもなっているから、悪い子どもと間違えられてしまう。
良い行動にも注目する(写真提供:Photo AC)
しかし、良い行動も何倍もしているのだから、こちらに注目することで、彼らの行動が劇的に改善する」と紹介しています。
このように、数字を使って、発達障害の子どもの行動を理解したり、「1日3回叱ったら、1年間で1095回か……」のように、大人の行動を振り返ることも、発達障害の子どもとの関わりを見直す際はおすすめです。
ASDは、自身の興味関心へのこだわりが強い傾向があります。こんなときは、半分以上、できれば 割は本人のやりたい遊びに没頭させてあげましょう。
もちろん、大人もその世界に入って遊ぶことが大切であり、「好き」という気持ちを生かすことは、すべての場面で重要です。ただし、他者と折り合いをつける社会性も、自立には必要です。
だからこそ、残りの3割は、大人から遊びを提案して、社会性を伸ばす機会をつくってあげることが必要です。
後ほどその具体的な方法についてはご紹介していきますが、時間をかけて関わることで、子どもは社会性を次第に育めるようになります。
※本稿は『「できる」が増えて「自立心」がどんどんアップ! 発達障害&グレーゾーンの子への接し方・育て方』(大和出版)の一部を再編集したものです。