【コトブキ ツカサ】気づいてましたか？「映画のエンドロール」が以前よりも長くなった「意外なワケ」
映画を観ていて「最近、エンドロールが長くなったな」と感じることはないだろうか？ 映画パーソナリティのコトブキツカサさんによれば、そこにはさまざまな事情が絡んでいるという。初の著書『教養として知っておきたい映画の世界』も好評なコトブキさんに、エンドロールが長くなった理由、さらに「そもそも最後まで観ないといけないのか？」という問いに答えてもらった。
途中で席を立つ人もいるけれど……
エンドロールとは、映画の本編が終わった後に表示される、演者やスタッフなどの名前を列挙した一覧のことですが、この上映時間が以前と比べて「長くなったな」と思いませんか？
昔は本編が終わると、「THE END」「終」「fin」「終劇」とスクリーンに出たのち、ほどなくして劇場が明るくなることもありました。
最近では、途中で席を立つ人の姿をよく見かけてしまうほど、少し退屈になるくらいにエンドロールの上映時間を長く感じるケースが多いはずです。特にアメリカ映画で顕著になっています。
エンドロールの歴史を振り返ると、1950年代半ばから1960年代のアメリカ映画では、作品のオープニングに貢献度の高い制作スタッフのクレジットを集約させ、エンディングでは省略するケースが一般的でした。
1970年代に入ると、その様相は変化します。ジョージ・ルーカス監督の「アメリカン・グラフィティ」（1973）は、撮影が進むにつれ制作費が枯渇してスタッフ全員に正当なギャランティが払えなくなりました。
そこでメインのスタッフではない人たちに報酬の代わりとしてエンドロールに名前を載せることを提案し、了承されたそうです。当然ながら、エンドロールの上映時間は、従来よりも長くなりました。
なお、ルーカスは次作の「スター・ウォーズ」（1977）において、今度はスタッフへの感謝の気持ちを込めて、関係者全員の名前をエンドロールに挙げました。
この取り組みがハリウッドの新たな習慣として広がり、エンドロールが長くなったともいわれています。
「フリーランス」の増加も影響している
最近では予算の高いビッグバジェット・ムービーのエンドロールが長くなる傾向にあります。この理由は単純に、制作費が大きい作品は小規模な作品に比べて関わるスタッフが大勢いるからです。
昨今ではVFX（Visual Effectsの略。視覚効果の意）が駆使される作品も多いですが、CGのスタッフ数が増えていることもエンドロールが長くなった理由のひとつです。
とはいえ、エンドロールの最長作品は、トップアスリートによるノーCGアクション「X-ミッション」（2015）で、西部劇「ウエスタン」（1968）の約12分半を抜き、約13分半で記録を更新しました。
最近エンドロールが長くなった理由がもうひとつあります。それは労働組合（ユニオン）との契約です。
これはフリーランスの俳優・スタッフが増えたことや、ビデオやDVDとして作品が後世に残るようになったことも関係しています。
クレジットは、過去にどんな作品に携わったかを証明するものにもなるため、映画業界を支える関係者が所属する各労働組合が、個人名の記載を主張するようになったのです。その結果、映画によってはケータリングのスタッフや清掃員の方々も記載されるようになっています。
そのほか、別の思惑で全スタッフの個人名を記載するケースもあります。
例えば、アメリカのアカデミー賞（受賞者に裸の男性の立像「オスカー像」が贈呈されることから、アカデミー賞は「オスカー」とも呼ばれる）は、主催団体である映画芸術科学アカデミー（AMPAS）会員の投票によって決定します。
現場スタッフはアカデミー会員である場合が多いため、オスカーを獲得したい思惑から全スタッフをクレジットすることで印象をよくしている映画スタジオも一部にあるようです。
このような理由から、特にハリウッド作品のエンドロールは長くなっています。
エンドロールを活用したジャッキー・チェン
エンドロールをあえて効果的に活用するケースもあります。
香港出身のアクションスターで監督・プロデューサーでもあるジャッキー・チェンは、主演映画の本編終了後にNGシーンを流します。
これは観客を飽きさせないようにするためのジャッキーならではのサービス精神の表れであるとともに、「本編では華麗なアクションシーンに見えても、バックヤードではケガも絶えない危険な妙技であり、決して真似をしないでほしい」という観客へのメッセージが込められているそうです。
最近ではマーベルムービー（マーベルコミックを原作とした映画）などでよく目にすると思いますが、本編の終わりに、作品の余韻や楽しさを際立たせたり、驚くような真実を告げる短い映像が差し込まれるケースもあります。
専門用語でいうと、こうした映像がエンドロール中に映し出されることをミッドクレジットシーン、エンドロールの終わりに差し込まれることをポストクレジットシーンと呼びます。
本当に最後まで観なければいけないのか？
かつて、「そもそも映画のエンドロールって観なきゃいけないんですか？」という質問をX（旧Twitter）で受けたことがあります。
スカッと爽快な娯楽性の高い映画であれば、本編終わりに席を立つのもよいかもしれません。一方で、物語の解釈を観客に委ねるような文芸作品では、自分が席を立つ動きで他の観客の思考を邪魔してしまうこともあるため、一定の配慮が必要になるのかもしれません。
ちなみに、映画の試写会ではエンドロールが終わってから席を立つのが暗黙のルールです。僕自身も、エンドロール中にその作品を反芻するので、劇場が明るくなるまで席を立ちません。
アメリカの映画館では本編終わりで会場を出ていく人も多く、「エンドロールの終わりまで席を立ってはいけない」という校則のような思考は、いささか堅苦しさを感じます。
ただし、本編中はもちろん、エンドロール中も、光が気になるのでスマートフォンやスマートウォッチを見るのは我慢してほしいとは思います。
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つづく記事〈日本の映画料金「2000円」は他の国と比べて高いのか？ネトフリと比べて「割高」と思うユーザーも〉では、全国一律「2000円」に設定されている映画料金が、他国と比べて本当に高いのか？ 映画パーソナリティのコトブキツカサさんが考察する。
