中国や韓国に比べると日本の将来は明るい…エミン・ユルマズ氏が「日本の少子高齢化は気にしなくていい」と断言する理由

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円安・物価高が直撃する中、日経平均が大暴落を記録するなど、経済の先行きに不安が高まっている。国内の少子高齢化を悲観する声も多いが、日本経済は果たして大丈夫なのだろうか。

第一生命経済研究所の永濱利廣氏との共著『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(講談社+α新書)を刊行したエコノミストのエミン・ユルマズ氏が、日本経済の見通しを解説する。

「日経平均大暴落」を気にする必要はない

8月5日、日経平均が一時4400円も大暴落しました。決して日本経済の先行きが危ないというわけではありませんが、目先の株価は上げたり下げたりを繰り返す可能性が高くなっています。

日本株の特徴として、アメリカ株、特にナスダック指数と相関性が高いという点があります。ナスダック指数はハイテク銘柄が多く、日本株も半導体産業が株価を押し上げているため、連動して動きやすいのです。

目下、アメリカの景気後退リスクが高まっています。もしそうなればアメリカ株は大きく調整しますので、日本株もその影響で「連れ安」となるでしょう。

ただ、長期的に見れば、日本株は相変わらず有望な投資対象です。日経平均は近いうちに5万円台に乗せるでしょうし、インフレも考慮すればいずれ日経平均が30万円になってもおかしくありません。

「円安は日本経済にプラス」は本当か

私は日本株について極めて楽観的ですが、日本経済にまったく課題がないというわけではありません。

日本が抱える課題の一つは「円安」でしょう。特に今年は一時1ドル=161円という極端な円安となり、エネルギーをはじめさまざまな物価を押し上げています。

「円安は日本経済にとってプラス」という意見もあります。輸出や日本への直接投資が増加するからです。

実際、今年に入りインバウンド観光客の大幅な増加が注目されています。インバウンドの市場規模は約7兆円とも言われ、自動車産業に次ぐ「第二の産業」となっています。

また、日本への直接投資も増えています。グーグルやオラクルといったアメリカのハイテク企業はこぞって日本国内にデータセンターを新設することを発表しています。その結果、ニデックなどデータセンターの冷却システムを提供する企業の株価や、消費電力の増加を見込んで電力会社などの株価が上昇しています。

政府・日銀が円安を望んだ

ただ、今年の円安はあまりにも急激・大幅だったので、デメリットがメリットを上回っていると思います。

日本企業はあまり値上げしないことで有名です。そのため、円安によって輸入物価が上がっても、値上げをせず耐えている場合が多いのです。円安が水面下で企業の業績を押し下げ、日本経済の体力を奪っている可能性は高いと思います。

なぜ円安が進んだのか。簡単に言えば「政府・日銀が円安を望んだ」からだと思います。

日本では2013年以降、「異次元金融緩和」を実施しています。当時は大幅な円高でしたが、これによってドル円相場を円安に持っていくことに成功しました。

円安インフレで債務圧縮を狙う財務省

ただ2022年にアメリカFRBが利上げを開始すると、日米金利差が拡大し円安が進みすぎてしまいました。

結局、日銀は7月に利上げに踏み切りましたが、本来はもっと早くに動くべきだったと思います。

政府にとって、円安でインフレが進むのは「望むところ」です。

日銀は2%の物価目標達成が至上命題です。一方、政府、特に財務省にとって、インフレが進むと政府の債務残高が減るため、大助かりです。

逆に利上げすると政府の国債利払い費が増えるため、財政運営がやりにくくなってしまいます。

要するに、政府は円安でも困ることはありません。困るのは物価上昇が直撃する「国民」だということです。

ただ、政治家は国民の声に敏感に反応します。彼らが政府・日銀に圧力をかけ、その意向が無視できなくなった結果、日銀は利上げに踏み切ったのではないでしょうか。

日本の合計特殊出生率は過去最低の1.2

日本経済の構造問題として、もう一つ重要なのが「少子高齢化」です。

6月に発表された日本の2023年の合計特殊出生率は1.2と過去最低を記録しました。特に東京の出生率は0.99と、1を下回っています。

長年の少子高齢化によって日本の人口は減少局面に入っています。特に生産年齢人口が急減し、日本国内の市場が縮小したことで、日本企業は生産能力の削減を迫られています。海外進出に活路を見出そうとする企業も多いです。

特に目先の課題となっているのが「人手不足」です。日本商工会議所の2023年の調査では、約70%の中小企業が人手不足で、約60%は事業に影響する状況と回答しています。

「AIが仕事を奪う時代」がやってくる

ただ、「少子高齢化」は悪いことばかりではありません。特に日本にとっては、むしろアドバンテージになる面も大きいと予想しています。

今、世界には「自動化」の巨大な流れが起きています。

ロボット技術の進歩によって、人間の仕事をロボットが代替できるようになっています。それにAIの進歩が加わり、いずれ人間の仕事が奪われる懸念さえ高まっています。

前回の記事で「AIバブル」について触れましたが、現状の「生成AI」への評価はバブルだと思いますが、長期的に見て、AI関連技術が今よりも発展するのはほぼ間違いないでしょう。

これまでの資本主義には労働集約的な面があったので、「安い労働力を大量投入」するほうが有利でした。そのため、「人口の多い国」ほど経済発展しやすかったのです。

ただ、これからは「自動化」の時代です。ロボットやAIが働いてくれるので、人手が少なくても経済発展は可能です。

日本は人手不足に悩んでいるので、ロボットやAIの導入にメリットがあるため、今後一気に普及する可能性があります。実際、スーパーなどではセルフレジが急速に増えています。関連産業にとっては急成長のチャンスです。

むしろ、例えば中国のように人口が多すぎる国にはリスクがあります。

ロボットやAIに仕事を奪われるので、全国民に仕事をあてがうことが難しくなります。失業手当や生活保護、ベーシックインカムなど、社会保障の支出が増え、その国の経済成長の足を引っ張るでしょう。

むしろ中国・韓国のほうが少子化がひどい

2つ目の理由は、いまや世界中が少子高齢化に直面しているという点です。

かつて「人口ボーナス」で大きく経済発展した中国や韓国は、いまや世界で最も少子高齢化が深刻な国です。

韓国の2023年の合計特殊出生率は0.72と、日本の1.20を大きく下回っています。ソウルに限ると0.55人と、かなり厳しい状況にあります。

今年に入っても韓国の出生率は前年を下回る状況が続き、2024年通年の出生率は0.6台と、過去最低を更新する見込みとなっています。

欧米先進国も多かれ少なかれ同様の傾向があるほか、新興国でも少子高齢化が進んでいます。私の出身国トルコも近年出生率の低下が続いており、2022年の出生率は約1.9と、2を割っています。

このように、少子高齢化は世界的な流れであり、日本だけ抱えているハンディキャップではないのです。

後編記事『「日本は島国だから…」エミン・ユルマズ氏が国際社会で「日本の安定感が際立っている」「少子高齢化も強み」と主張するワケ』へ続く。

「日本は島国だから…」エミン・ユルマズ氏が国際社会で「日本の安定感が際立っている」「少子高齢化も強み」と主張するワケ