〜 2024年「中堅企業の候補企業」調査 〜

 本日(9月2日)施行される産業競争力強化法の一部改正で、「中堅企業」が定義された。政府が想定する中堅企業は約9,000社だ。東京商工リサーチ(TSR)は独自基準で「中堅企業に近い中小企業」を中堅企業「候補企業」(以下、候補企業)として抽出したところ、全国に7万7,614社あることがわかった。中小企業基本法に準じて定義された中小企業102万5,060社の7.5%を占める。
 候補企業を産業別でみると、最多は建設業の2万5,849社で全体の3割超(構成比33.3%)を占めた。また、産業別の候補企業率は、卸売業の13.3%が最高で、唯一1割を超えた。

 政府は産業競争力強化法を一部改正し、従業員数2,000人以下で中小企業を除く企業を「中堅企業」と位置付け、支援策を講じる。中堅企業は国内での事業・投資を拡大し、賃上げや雇用拡大などを通じ、国内や地域の経済に好循環をもたらすことが期待されている。政策対応の例としては、成長投資への補助金や賃上げ促進税制などへ中堅企業枠を創設する。
 従来、中小企業向け支援があり、資本金や従業員数を抑えて中小企業に留まる動きもみられた。だが、その弊害として企業の成長が滞り、生産性や収益性の低迷も招いていた。今回の法改正で、中小企業の成長意欲を促し、中堅企業へのステップアップの契機になることが期待される。
 政府が「中堅企業元年」と位置付ける2024年を起点に、中堅企業への本格支援の広がりが国内企業の活性化に繋がるか注目される。

※ 東京商工リサーチが保有する企業データベースから、直近の従業員数・資本金が判明している企業を抽出、分析した。

※ 中堅企業は、中小企業(中小企業基本法で規定)に該当しない従業員数2,000人以下の企業。
※ 法人格は、株式会社、合同会社、有限会社、合資会社、合名会社を対象とし、従業員数は正社員数を採用した。


中堅企業「候補企業」、7万7,614社

 直近1年間で、中堅企業に仲間入りした中小企業の従業員増加率を基準として、候補企業を選定した。
 TSRの企業データベースにおいて、2024年7月末で中堅企業に該当する企業は9,169社。このうち、2023年7月の時点では294社が中小企業だった。
 294社の5年前(2018年)と2023年の従業員数を比較し、中小企業基本法に基づいて4業種ごとに従業員増加率の平均値(基準増加率)を算出。2024年7月時点のTSRの企業データベースに登録されている中小企業(102万5,060社)のうち、5年前(2019年)からの従業員増加率が基準増加率を上回る7万7,614社を候補企業とした。


中堅企業「候補企業」 産業別の最多は建設業、候補企業率では卸売業がトップ

 産業別の候補企業数は、最多が建設業の2万5,849社(構成比33.3%)。次いで、卸売業1万5,655社(同20.1%)、サービス業他1万83社(同12.9%)の順で、上位3産業が1万社を超えた。
 一方、最少は金融・保険業の764社(同0.9%)だった。次いで、農・林・漁・鉱業が1,246社(同1.6%)で2番目に少なかった。
 産業別の中小企業に占める候補企業率は、最高が卸売業の13.3%で唯一、1割を超えた。次いで、社数が2番目に少なかった農・林・漁・鉱業9.6%、最少の金融・保険業9.0%、最多の建設業8.5%の順で、4産業が全体平均(7.5%)を上回った。一方で、最低は製造業の4.9%で、小売業5.70%、サービス業他5.76%が続く。
 卸売業は、候補企業の選定基準とした基準増加率が23.5%で、全体の87.4%より63.9ポイント低く、中堅企業予備軍に該当した割合が他業種より高くなった。


地区別 候補企業率は北海道がトップ

 地区別では、関東が2万9,731社で全体の約4割(構成比38.3%)を占めた。次いで、近畿が1万3,156社(同16.9%)で続き、上位2地区が1万社を超えた。このほか、九州が9,048社(同11.6%)、中部が8,300社(同10.6%)の順。一方、最少は北陸の1,862社(同2.4%)、四国2,187社(同2.8%)、中国4,117社(同5.3%)の順で少ない。
 中小企業に占める候補企業率は、北海道が8.8%で最高。農・林・漁・鉱業やサービス業他の比率が全国より高く、候補企業率を押し上げた。次いで、九州8.7%、近畿8.5%、関東7.9%の順で、上位4地区が全体の候補企業率7.5%を上回った。一方、最低は東北の5.8%で、北陸6.10%、中部6.19%、中国6.2%、四国6.3%の順で低い。


業績別 「増収」企業が7割を占める 「増収増益」も半数に迫る

 候補企業のうち、2023年1月期以降の業績データを5年前と比較可能な3万970社を対象に、売上高と当期利益の推移を分析した。
 候補企業は、比較的業績が堅調な企業が多いのが特徴だ。「増収増益」は1万4,114社で、全体の45.5%を占めた。次いで、「増収減益」が7,457社(構成比24.0%)、「減収減益」が5,714社(同18.4%)、「減収増益」が2,916社(同9.4%)で続く。
 売上高は、増収が2万1,746社(同70.2%)と7割を占めた。一方、減収は8,792社(同28.3%)、横ばいが432社(同1.3%)だった。
 当期利益は、増益が1万7,148社(同55.3%)で半数を超えた一方、減益は1万3,275社(同42.8%)、横ばいは547社(同1.7%)だった。
 候補企業は、業容拡大と従業員数の増加が並行した成長過程にあることがわかる。


業歴別 10年以上20年未満が最も多く、50年未満が7割超を占める

 業歴別では、最多が10年以上20年未満の1万9,105社(構成比24.6%)で、4社に1社を占めた。次いで、20年以上30年未満が1万3,659社(同17.6%)、30年以上40年未満が1万937社(同14.0%)、40年以上50年未満が8,130社(同10.4%)、50年以上60年未満が8,124社(同10.4%)、10年未満が6,817社(同8.7%)、60年以上70年未満が4,288社(同5.5%)で続く。100年以上の老舗企業も1,656社(同2.1%)あった。
 業歴50年未満は5万8,648社(同75.5%)にのぼる。10年未満を除き、業歴10年以上20年未満をヤマにして、業歴が長くなるほど社数が少ない分布となっている。
 候補企業は、比較的に業歴が浅い企業が中心で、強みを持つ事業分野で生産性を高めた企業が、成長余地を残している特徴を浮き彫りにしている。