人の話を「聞くこと」と「聞かないこと」の両立が夢を叶える秘訣!?成功者の持つ、「ありがた迷惑」に邪魔されないための「判断基準」
近年注目が集まっているアントレプレナーシップ。「起業家精神」と訳され、高い創造意欲とリスクを恐れぬ姿勢を特徴とするこの考え方は、起業を志す人々のみならず、刻一刻と変化する現代社会を生きるすべてのビジネスパーソンにとって有益な道標である。
本連載では、米国の起業家教育ナンバーワン大学で現在も教鞭をとる著者が思考と経験を綴った『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』(山川恭弘著)より抜粋して、ビジネスパーソンに”必携”の思考法をお届けする。
『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』連載第46回
『企業の寿命はたったの「30年」!?「JT」「任天堂」「サンリオ」有名企業の歴史から紐解く、この先の時代で「必要」とされる人材像』より続く
生まれながらの起業家
10年以上、大学で起業道を、失敗学を教えていると、本当に数多くの学生、起業家に出会います。教え子でなくても、起業家、あるいは起業家の卵に会うことは日常茶飯事です。
もちろん、さまざまな人がいます。大学に入る前にすでに起業している人もいれば、在学中に起業する人、それで失敗して再チャレンジの準備をしている人。本当にカラフルです。
その中には一定数、生まれながらの起業家:Natural-Born Entrepreneurとでも呼ぶしかない人もいます。息を吐くように事業立ち上げを連発する。一見すると、何も考えていないようにも見えます。
「やりたいことがある」「叶えたい夢がある」、それを実現するために、「それができそうな会社に入って、出世して、権限を得て、実現する」よりも、起業したほうが早い、いや、起業しないと実現できない。そう「感じる」から、彼らは起業します。
よく、ティーンエイジャーで起業して話題になる人がいます。その人たちの中には、一定の割合で、「周りの大人に担ぎ上げられている人」がいます。一方で、一定の割合で、生まれながらの連続起業家もいます。彼らには年齢は関係ない。自分が学生であるだとか、手元に資金がないだとか、そういうことは関係ないのです。
叶えたい夢がある。だから、一歩踏み出す。
それだけです。
起業は「手段」に過ぎない
先日、日本でのイベントでスピーカーとして登壇した日本人の起業家がいました。
まだ若い女性ですが、高校生のときに、肌が弱くて市販の化粧品が使えない妹でも使える化粧品を作りたいと、学校の施設を使って試作品を作り始めます。そこから、あっという間に起業してしまうのです。ここで、「当たり前の大人」ならどうなるでしょう。
・市場調査をしてみよう
・競合となる大手化粧品会社の状況、同じような自然派化粧品会社の状況を調べよう
・薬機法について調べよう
・製造は工場に委託することになるから、誰かの助けを借りなければ
・販路はどうしよう、広告はどうしよう
・売れるだろうか
こんな不安が当たり前に頭をよぎります。そして、もしこの女性がそのような考え方の持ち主だったら、それぞれの「専門家」の話を聞き、周囲の大人に相談し、資金集めをどうしようかと悩み、あっという間に10年が過ぎ、どこかの化粧品会社で働いている、かもしれません。
それはそれで、一つの方法です。大手化粧品会社のリソースを使って、「肌が弱い妹でも使える化粧品を作る」という選択肢も十分すぎる価値があります。
しかし、その彼女は、こともなげに、起業し、化粧品を作り、販売しています。「資金集めはどうしましたか」「薬機法にはどう対応しましたか」「製造工場などはどうやって探しましたか」、こんな質問には、実はまともな答えは返ってきません。
「そこは、周りの人が助けてくれたんです」
と笑うのです。もしも彼女が、行動する前に、一歩踏み出す前に周囲の大人に相談していたら、「どうしたらいいですか」と聞いていたら、ほとんどの大人は止めたかもしれません。
「ちゃんとお金をためてからやったほうがいいんじゃない」
「手伝ってくれる人を集めてから」
「専門的なことを勉強してから」
「どうせ無理だから」
しかし、彼女は聞かなかった。いえ、聞かなくても、そういったことを言う大人はいたはずです。でも、意に介さなかった。なぜなら、彼女にとって、「夢を実現するため」の行動は当たり前すぎることであり、起業はその手段にすぎないからです。
何を悩むことがある?そう感じていたでしょう。
人の話を聞かない起業家
一方、踏み出して行動する彼女の周囲には、それを手伝おう、一緒に夢を叶えようとする人が集まってきます。5人の変態も集まってきたはずです。
それぞれの専門性をもつ同志です。事務的なことが得意な人もいたでしょうし、薬機法に詳しい人、製造業に詳しい人、資金調達に長けた人、マーケティングの専門家、多様な人がどんどん集まってきたでしょう。
今度は、彼女は彼らの話を聞いたのです。それは「夢を叶える話」だからです。先程の大人たちは、「夢を止める話」ばかりでした。悪気はありません。
彼女がもしも失敗したら、かわいそうだから。もっと「ちゃんとしたほうが」うまくいくと思うから。そう思って「助言」しているのです。実際には助けていません。ただ、止めているだけなのです。そのような言葉に耳を貸す選択肢は、彼女にはありません。
彼女は、夢を叶えるための話には、十分すぎるほど耳を貸すでしょう。それが「5年待て」という言葉でも、彼女が納得できる、夢を叶えるための手段だったら、それを選んだはずです。
優れた起業家は、人の話を聞かないし、聞くのです。
『成功事例踏襲の「ワナ」に陥らないために知っておきたい「世界のTOYOTA」の”KAIZEN”精神の正体』へ続く