広島県尾道市と愛媛県今治市を繋ぐ全長約60kmの道(自動車専用道路)「瀬戸内しまなみ海道」。7つの橋には自転車・歩行者道が併設されていることから自転車で横断でき、瀬戸内海に浮かぶ多島美を堪能できるため、世界各国からサイクリストが訪れる聖地として定番のスポットとなっている。なかでも玄関口となる尾道は、ノスタルジックな景色が楽しめる港町だ。古寺が点在し、周辺には階段が張り巡らされ、「坂の街」とも言われる。そこから渡し船を使って約5分で到着する向島(むかいしま)は、本島と距離も近く、気軽に島旅が楽しめるエリアだ。ここでは、そんな尾道・向島のロケーションを生かした、絶景カフェを巡る旅のモデルコースをご紹介していきたい。

広島県尾道市と愛媛県今治市を繋ぐ全長約60kmの自動車専用道路「瀬戸内しまなみ海道」。7つの橋には自転車・歩行者道が併設されていることから自転車で横断でき、瀬戸内海に浮かぶ“多島美”を堪能できるため、世界各国からサイクリストが訪れる聖地として定番のスポットとなっている。なかでも玄関口となる尾道は、ノスタルジックな景色が楽しめる港町だ。古寺が点在し、周辺には階段が張り巡らされ、「坂の街」とも言われる。そこから渡し船を使って約5分で到着する向島(むかいしま)は、本島と距離も近く、気軽に島旅が楽しめるエリアだ。ここでは、そんな尾道・向島のロケーションを生かした絶景カフェを巡る旅のモデルコースをご紹介していきたい。

フランス・ブルターニュの港町を思わせる海岸沿いのガレット専門店へ

店の前には、山と船が点在

旅のはじまりは、向島に位置するクレープとガレットの店「Les Dix-Sept Bateaux(レ ディセット バトー)」から。フランス語で「17艘(そう)の舟」を意味する同店は、海外のリゾート地のような景色が広がる立花海岸沿いにある、隠れ家のようなカフェだ。

物語の中に登場しそうな佇まいの外観

到着するとまるで絵本から飛び出してきたような、異国情緒あふれるちいさな建物が出迎えてくれた。店内では、フランス・ブルターニュ地方の伝統料理であるガレットとクレープが味わえる。

センスあふれる店内の家具は、店主がフランスで買い付けたものも複数あるという

建物は2階建て一軒家となっているが、絶景を楽しむなら2階席がおすすめだ。カウンター席とテーブル席があり、ガラス張りの大きな窓から絵画のように切り取られた、美しい海を眺めることができる。

海岸沿いならではの雰囲気を生かし、物語を感じさせる店を作りたい

ブルターニュの田舎町にある店をイメージした、カントリー感あふれる店内

東京・表参道のフレンチレストランで腕を磨いた経歴を持つ店主兼シェフの桐生祐介さんは、コロナ禍に「都市部ではない場所に店を開きたい」と思い立ち、全国で物件を探し回っていたところ、この場所に辿り着いたという。元はパン屋だった空き家をリノベーションし、2023年夏に同店をオープンした。

「初めてこの海岸沿いの風景を見た時に、以前足を運んだフランス北西部のブルターニュの港町と重なるところがあったんですね。そこで、景色から着想を得てブルターニュの郷土料理・ガレットが主役の店を出店しようと考えました。どこか物語性を感じさせるような店を目指していけたらと思っています」

海外の港町を想起させる、ノスタルジーな雰囲気がたまらない

カウンター席からは、停泊している漁船や山々のほか、尾道のモンサンミッシェル(フランス西海岸にある小島で島全体をおおうように修道院が建つ。世界遺産に登録)と呼ばれる「向島新四国 第三十八番 金剛福寺」も眺めることができるので、ぜひ外の景色に注目してみてほしい。

手作りの季節のスープと、フレッシュなシードル

季節によって入れ替わる「シーズンガレット」は、日替わりのスープやデザートのクレープ、シードル付きで3500円(単品1450円)だ。アツアツのガレットが出来上がるまでの間、フルーティなシードルと季節のスープを味わおう。

取材時のガレットは2名でシェアする、特別仕様の盛り付けに変更してもらった

そして、いよいよ主役の「シーズンガレット」の登場だ。濃厚な広島県産サーモンや歯ごたえのいいアスパラ、甘酸っぱいネクタリン(モモのような果実)とハーブがトッピングされている。表面はパリっと、なかはもちもちに焼き上げたガレットに、大ぶりのごろごろとした具材が組み合わさり、食べ応えたっぷりだ。

見た目にも華やかなアツアツのクレープ

デザートのクレープも見逃せない。バターがふんわり香るもちもちのクレープと、ジューシーな桃やマスカット、爽やかなミントが絶妙なハーモニーを奏でる。

潮風香るテラス席で優雅なひとときを 

心地よい風に吹かれながら食事が楽しめる
テイクアウトのガレットは200円オフ


店先には、テーブルセッティングが目を引くテラス席もある。海岸沿いでのテイクアウトも楽しめるので陽光に照らされ、キラキラと光る水面を眺めつつ、好みのスタイルでガレットを満喫しよう。

穏やかな街並みと瀬戸内海を眼下に望む、気鋭のチョコレートメーカー

高台に建つ店内からの雄大な眺め

次に向かったのは、立花(たちばな)海岸から車を6分ほど走らせ、山道をぐるりと回って辿り着く、高台に建つチョコレートメーカー「USHIO CHOCOLATL(ウシオ チョコラトル)」。建物にはチョコレート工場とカフェが併設され、窓からは向島の街並みと壮大な瀬戸内海を見下ろすことができる。

ポップなテイストの内観。壁には地元アーティストの作品が並ぶ

チョコレートは、豆本来の風味を生かすため、コーヒーではポピュラーな「シングルオリジン(単一農園・単一品種)」を採用。使用する材料はカカオ豆と砂糖のみを使うことをモットーとしている。スタッフ自ら世界中に足を運んで農園主と直接コミュニケーションを取り、厳選した豆を仕入れ、焙煎から販売までを一貫して行っているところが特徴的だ。

カカオ豆の味を生かした、個性的なフレーバーとパッケージ

六角形が目を引く、6種のチョコレート

チョコレートのフレーバーは、向島の乾燥温州蜜柑と有機アーモンドをグアテマラのカカオに合わせた「海と太陽」(1544円)や、「大徳醤油」の醤油の搾り粕とホワイトチョコを掛け合わせ、うま味のある味わいに仕上げた「醤油の向こうホワイト」(1728円)など、ユニークなものばかり。
「個性的なパッケージデザインは、ブランドと繋がりのあるアーティストが手がけています。チョコレートの味わいからデザインを考えることもあれば、デザインに合わせてフレーバーを開発することもありますよ」と、「USHIO CHOCOLATL」のスタッフ。

口いっぱいにカカオの香りが広がる「カカオソーダ」

店内で一息つくなら、チョコレートだけでなく「カカオソーダ」(660円)にも、ぜひトライしてみてほしい。カカオ豆を使ったオリジナルのシロップをソーダで割ったドリンクは、スパイシーな味わいでどこかチャイのようでもある。のど越しはシュワっと爽やかで暑い季節にぴったり。

海運倉庫をリノベした、サイクリストに人気のカフェとは?

リノベーションによって、生まれ変わった海運倉庫

最後に辿り着いたのは、「USHIO CHOCOLATL」から車で24分の複合商業施設「ONOMICHI U2(オノミチ ユーツー)」だ。「県営上屋(うわや)2号倉庫」という名称だった海運倉庫を、建築家の谷尻誠さん代表を務める「SUPPOSE DESIGN OFFICE」がリノベーションし、2014年に誕生した。施設の中にはサイクリストに人気のホテルやレストラン、ベーカリーのほかバー、セレクトショップなど多彩なショップが集結している。

彫刻家・名和晃平氏監修のアート「Molecular Cycle」が入口で出迎えてくれる

数々のショップの中で、今回特にご紹介したいのは、瀬戸内の小規模ロースターの豆から選べるコーヒーやスイーツなどが楽しめる「Yard Cafe(ヤード カフェ)」である。

窓から港を望む「Yard Cafe」の内観

貨物船が停泊するデッキで、心穏やかな時間を

散歩したりサイクリングしたりするのに最適なデッキ

カウンター席やテーブル席もあるが、暑さが気にならなければ、絶景が楽しめるテラス席をおすすめしたい。周辺に停泊している貨物船や全長386メートルの「尾道大橋」なども遠くに眺めることができ、寛ぎつつダイナミックな景色が堪能できるのだ。

テラス席にはベンチのほか、ゆったりできるソファもある

海に面したサイクルスルーでは、サイクリストに向けてボトルウォーターチャージもできるので、しまなみ海道をサイクリングした後にも立ち寄りやすいのがうれしい。

尾道の旬を感じる、クラフトアイスクリームは必食!

「レモンアイス」と「カフェラテ」(622円)

メニューでいちおしは、広島県神石高原町(じんせきこうげんちょう)で放牧酪農を営む「相馬さんの牧場のアイスクリーム」だ。同牧場の濃厚なミルクをベースに、尾道の季節の食材を使って工房で手作りしている。この日は「瀬戸田おおもと農園」のレモンを使用した「レモンアイス」(シングルカップ479円)をオーダー。果汁の爽やかで上品な味わいと、くちどけのよさがクセになる。ところどころ入っている、レモンの皮の食感も楽しい。

心と身体のサイクルを整える「HOTEL CYCLE」の客室

カフェ巡りを満喫したら、そのまま施設内でホテルステイを楽しむのもおすすめだ。サイクリストに向けた客室は、自転車をかけるハンガーが付いているほか、自然素材をふんだんに使用することでリラックスできる空間を演出している。自転車レンタルもできるので、宿泊した翌朝サイクリングを楽しむのもいいだろう。

暮らしに寄り添う雑貨や食品も販売している

施設内にカフェをはじめとする様々なショップやホテルを組み込むことで、倉庫全体で尾道の「まち」を表現しているという、「ONOMICHI U2」。地域との連続性を大切にし、尾道らしさを凝縮したスポットに、ぜひ一度足を運んでみてほしい。

文・写真/中村友美

フード&トラベルライター。東京都生まれ。美術大学を卒業後、出版社で編集者・ディレクターを経験後、現在に至る。15歳からカフェ・喫茶店巡りを開始し、食の魅力に取り憑かれて以来、飲食にまつわる人々のストーリーに関心あり。古きよき喫茶店や居酒屋からミシュラン星付きレストランまで幅広く足を運ぶ。趣味は日本全国の商店建築巡り。