© Indian in Seyschelles via Instagram.

ソーシャルメディアから軍事動向も知れる時代?

世界の核保有国は、核兵器をどこに隠しているかについて正確には公表していません。核兵器を持っていることは知られたいけれど、その所在地までは知られたくないのです。もちろんそれがまったく関係のないところでわかってしまうのは痛恨。インドのあるヨガイベントの様子がインスタグラムに投稿されたのですが、その写真でインドが艦船から核兵器を撤去したことがわかってしまったんです。

米国科学者連盟の追跡調査

それを判明させたのは世界の核兵器を追跡調査をするアメリカを拠点とする非営利団体「米国科学者連盟(FAS)」。米国科学者連盟の研究者たちは、世界中のどこの国がどれだけの核兵器を持っているか、そしてどこに保管または配備されているかを突き止めるために、様々な方法を使っています。そんな米国科学者連盟がソーシャルメディアを使ってインドの核兵器の移動を突き止めた経緯をサイトで述べています。

「核兵器関連の情報源として、これほど予想外のものは今までありませんでした」と語るのは米国科学者連盟の核情報プロジェクトの副ディレクターMatt Korda氏。「インスタグラムやその他ソーシャルメディアは、何を探せばいいか分かっている場合、手がかりを探すのに最適です。とはいえ、ヨガの写真の中に核兵器の情報を見つけたのとは少し驚きでした」と話しています。

インドの核事情

インドは172発の核兵器を持っているとされていますが、核兵器の備蓄量の面では小規模。ロシアとアメリカはそれぞれ5,000発以上を保有しています。そして他の核保有国と同様、インドも空中発射型、陸上配備型、そして海上配備型の核兵器を保有しています。潜水艦は隠密性が高いため、海上核兵器にとっては理想的な配置場所。インドが最初の核武装潜水艦を進水させたのは2016年になってからで、それまでは海上発射型核兵器を2隻の哨戒艦、INS SuvarnaとINS Subhadraに搭載していました。

この2隻のスカーニャ級哨戒艦に搭載されたミサイルは旧式の設計で、射程が短く、発射直前に燃料を補給する必要があるものです。こういった理由から、専門家たちはインドはいつか艦船搭載型核兵器を潜水艦搭載型に切り替えると想定していました。ただし、それがいつおこなわれるかは不明でした。インドは7隻のスカーニャ級哨戒艦を保有していますが、核兵器を配備するための特殊な装備を備えているのはINS SuvarnaとINS Subhadraのみ。衛星画像を調べていたKorda氏は、核兵器発射に必要な安定装置が艦船のデッキから消えていることに気づいたのです。

しかし、Korda氏は自分が見ている艦船が本当にINS SuvarnaとINS Subhadraなのかは確信が持てませんでした。核兵器を装備したことのない他の5隻の候補があったのと、衛星画像から同型の特定の艦船を見分けるのは困難だったからです。

ひとつのヒントから辿り着いた

しかしKorda氏は、これら艦船が潜水艦ほど秘密性が高くないことに気づきました。「艦船は核以外にも、警備や沿岸防衛など多くの任務を持っています。つまり、通常は誰かが写真を撮る可能性のある場所に航行しているということです。その直感から、私は数時間かけてソーシャルメディアで特定の艦船のキーワード検索をして、誰かが写真を載せていないかを確認しようとしました。そのときに出てきたのがヨガの写真です」と経緯を語っています。

最初のヨガの投稿は、2022年10月にPBSインドが投稿したINS Suvarnaのデッキの写真でした。2番目は2024年2月のINS Subhadraのデッキからの写真でした。両方の写真で安定装置がなくなっているのが確認されています。つまり、インドが核兵器を移動させたことを意味しているのです。

インドはヨガ外交も行っています。なので政府と軍もソーシャルメディアにヨガの写真を多く掲載するのですが、まさかかつて核兵器を搭載していた艦船のデッキも登場してしまうとは...。

過去2年間の投稿で、Korda氏は2隻のスカーニャ級哨戒艦がヨガイベントの投稿の場所になっていることを発見。そしてそれらの投稿では、核兵器が見当たらなかったのです。「インド海軍は練習を定期的におこなっていることから、ヨガ外交から確実に何らかの価値を得ているはずです。おそらく軍事的シグナルや文化外交、もしくは全く別のものかもしれません。しかし、国が目に見えるかたちで核能力を配備していて、その核兵器を取り除けば誰かには気づかれるはずです。そして時に、それが私たちに価値ある情報を教えてくれることもあるんです」とKorda氏は語っています。

続けて「通常、軍事システムについては、演習で航行したり、武器実験をおこなったりなど軍事的なことを実施するのを見て知ることができます。今回のように非軍事的な環境で軍事システム、特に核システムについて何かを知ることは非常に珍しいことです」と驚きを隠せない様子でした。