“自己責任での使用”が大前提…Temuって大丈夫? 専門家に聞くシェア急拡大中の通販サイトの評判

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EUは最高レベルの監視対象のプラットフォームのリストに追加……

’23年7月に日本での展開を開始し、急速に利用者を増やしている中国発のショッピングモール型通販サイト「Temu」。ファッション、日用品、家電、家具など、取り扱う商品は幅広く、“安さ”が売り。なかには100円を切る商品もあり、その安さは尋常ではない。

ネット上に「怪しい」といった書き込みも多く見られることから、小心者の筆者は尻込みしていた。ところが最近、「TemuならAmazonの半額!」なんて記事を目にすることが増え、無関心を装えなくなってきた。

果たしてTemuはどんなサイトなのか、どう利用するのが賢いのか。日ごろからTemuを頻繁に利用しているネット通販コンシェルジュの遠藤奈美子さんに話を聞いた。

47ヵ国で展開…米国・英国ではダウンロード数がAmazonを抜いて1位に

Temuは中国EC大手「ピンドゥオドゥオ」を傘下に抱えるPDDホールディングスが“国外向け”に展開する通販サイト。日本版アプリや公式サイトは日本語で表記されているため、見た目は、国内の通販サイトと何ら変わりない。

「スタートして約1年の日本では、まだTemuの呼び方は定着していないようで、今のところ、“ティームー”または“テム”と呼ばれています。 

 ’22年9月に米国でサービスを開始し、現在は世界47ヵ国に進出しています。米国やイギリスでは、’23年1〜9月のアプリのダウンロード数がAmazonを抜いて1位になったほどの、大注目の急成長サイトだと言えます」 

人気の理由は、とにもかくにも“安いこと”にある。 

『こんな物がこの値段で買えるの?』と疑いたくなるようなものがたくさんあり、割引セールやクーポンの配布も頻繁に行われています。 

圧倒的に商品数が多いため、日本ではあまり見掛けないようなユニークな商品がたくさんあり、購入したものが人とかぶらないのも嬉しいところ。 

私自身も月5〜6回は利用しています。気に入ったものが国内のショップで見つからないときも、『Temuならあるかも』と思って探すと本当にある(笑)。Amazonに出店している事業者がTemuを仕入れ元にしているケースもあるため、最近は、欲しいものを探すときには、まずはTemuで検索するようにしています」

遠藤さんが特に購入するのは、アクセサリーや雑貨・インテリア用品。先日は、撮影にも使えるスタンド型のライトを1040円で購入した。

安さや品数の多さに加え、アプリやサイトの作りがよく出来ていて、使いやすいことも人気の理由だと分析する。

「アプリを開く度にクーポンが出てきたり、割引率を決めるルーレットが出てきたりと、ゲーム的な要素もあり、とにかく引き込まれます。開く度に使いたくなるような仕組み作りがすごくうまい。 

わかりやすい上、楽しみもプラスされるので、ストレスなく買い物ができます」

セキュリティ面にも力を入れており、今年に入って利用者に不安を感じさせないための対策を講じた。

「’24年4月に、オンライン詐欺やサイバー犯罪対策を目的に、なりすましやオンライン詐欺の撲滅に取り組む国際機関である Anti-Phishing Working Group(APWG)に参加することを発表しました。顧客データの保護と安全なショッピング環境を提供するというTemuの本気度があらわれているといえます」 

Temuでの購入は「個人輸入」扱い

こう聞くと、いいことずくめで特段、怪しいところは見受けられない。

とはいえTemuはあくまで海外通販サイト。商品のほとんどが中国製でそのすべてが中国から届けられる。すなわちTemuでの購入は“個人輸入”扱いになるということをしっかり押さえておきたい。

ちなみにAmazonも海外(アメリカ)が本拠地の企業だが、日本国内での販売(Amazon.co.jp)は、日本の現地法人アマゾンジャパン合同会社が運営している。

では、 “個人輸入”の場合、注意すべき点は何か。

個人輸入では、日本への輸入が禁止されている商品もあれば、医療品や医療機器、化粧品など輸入できる数量(個人での使用が条件)が制限されている商品もあります。例えば、医薬品は1ヵ月以内、化粧品は標準サイズで1品目24個以内と決められている。まとめ買いには注意が必要です」

品目や金額によって関税も発生する。

「海外通販で購入した商品を輸入する際には、日本の税関で関税と輸入消費税が発生しますが、一般的に個人輸入の課税対象になるのは、『商品価格×60%=1万円以下』の商品。そのため、購入金額が日本円換算で1万6666円以下なら関税も消費税もかかりません。 

仮に購入金額が1万6666円を超える場合には、国内で買い物するときと同じ10%の消費税がかかると思ってください。関税は品目によって税率が決められていて、化粧品など関税が免除されている品目や、革製の靴など30%の関税がかかる品目もありますので、税関のホームページで確認するといいでしょう」 

“ブランド品”は扱っていないが、サイトには有名ブランドの名前やロゴを模したプリント入りの商品が並んでいる。偽物と知りつつ面白いからと安易に買うと、税関で没収される可能性もあるので気をつけたい。

国内通販に比べると梱包も厳重とは決して言えない。

段ボールなどに梱包はされておらず、袋に入れられて届きます。袋を開けると、商品によっては箱に入っている場合もありますが、厳重に梱包されているわけではないので、割れやすいグラスの類いは避けたほうがいいかもしれません」

また、基本的なことだが、商品を買うときは、商品画像だけでなく説明までしっかり目を通し、素材やサイズなどの記載を確認しておこう。

「ほかの購入者のレビューは必ず目を通してください。悪いレビューが並んでいたりレビューが付いていなかったりするものは購入を控えたほうがいいかもしれません。また、電化製品は海外とコンセント形式や電圧などの規格が異なることがあるため、注文前に日本で使用できる規格かどうか、十分に確認してほしいですね」 

「返品保証」「返金保証」もTemuの売りだけど……

Temuの商品の安さはどれほどなのか。

ざっとサイトを見回しただけでも、ヘッドフォンが718円、LED懐中電灯が538円と、確かに激安。UV保護用冷却アームスリーブ1組が64円という理解不能な価格もあった。

しかも送料は無料で、最低注文金額が1400〜2800円(キャンペーンや割引などさまざまな要因で変動)。ちなみにAmazon(通常会員)の場合、送料が無料になる基準額が今春、引き上げられて3500円以上に。ただし、それ以下でも注文は可能だ。

それにしてもなぜ破格な安さで商品を提供できるのか。

「店舗などにかかる固定費や人件費、中間マージンや手数料、輸送費など、通常かかるあらゆるコストの削減を行っているといわれています。製造コスト、流通コスト、マージンを省いたビジネスモデルを構築できているのでしょう。 

想像ですが、原価が30%くらいだとして、本来、そこに加わるコストをすべて省き、20%の利益を載せて50%で販売する、というイメージではないでしょうか。 

また、Temu側で商品の出品価格を指定したり、複数の出品者で入札を行ったりと、価格が安い出品者のみ販売できるような仕組みを導入しているとも聞きます。徹底的に安さにこだわった戦略をとっているのだと思います」 

「コストの削減」と聞くと、心配になるのが削減された部分にかかるリスクだ。

「コストの削減は、商品の検品など、当たり前に行われることを省くということでもある。激安の海外通販を利用する場合は、安い分、リスクは高くなると思ってください」

それだけに、粗悪品が届いたときの対応は気になるところだ。

「届いた商品に不具合があった場合や、思っていたものと異なる商品が届いたときの返品や返金は、カスタマーサービスが対応してくれます。Temu は返品保証、返金保証なども売りにしており、対応も早いと聞きます。ほかの海外通販サイトと比較しても、安心感は高いと思います。 

申請も簡単。“注文履歴”に返品、返金の表示があるので、スマホの操作だけで完結します。必要であれば写真を撮って画像を添付して送信し、申請すればいい。認められればすぐに返金もされます。 

とはいえ手間暇はかかるので、それもリスクの一つではありますね。 

ちなみに私はこれまで60回ほど注文していますが、商品の画像とイメージが違っていたことはあってもすべて許容範囲(笑)。粗悪品にあたったことはなく、むしろ価格帯から想像していた以上に質の高いものがほとんどでした」 

「日本の安全基準に合格した製品ではありません」……“自己責任での使用”が個人輸入の大前提

もっとも近年、玩具や電化製品など、海外通販で購入した商品の事故が多発している。一足早く日本にも上陸し話題を呼んだ中国発の通販サイト「SHEIN」の場合は、韓国で発売された下着や水着、浮き輪などから発がん性物質が検出されたという報道があったばかりだ。

こうした報道を見ると、体が触れるものや、子どもが扱う玩具などの購入はためらう人も多いのではないだろうか。

「個人輸入の場合、購入した商品は『自己責任』で使用することが大前提にあります。例えば日本のAmazonで購入した商品に何か事故があった場合、責任は日本のAmazonに問うこともできますが、海外通販の場合は期待できません。 

海外通販で体や健康を害する可能性のある商品を購入する際には、安全性に問題がないか確認した上で、購入・使用するといった消費者の意識が必要だと思います」 

現時点(8月半ば)では、日本国内でTemuの商品の安全性を問題視する声は上がっていないが、米国では自国の安全基準を満たしていないことで子供用のパジャマがリコールになったケースもあるという。「日本ではまだ調査が追いついていないということかもしれませんので、これから出てくる可能性は当然あります」と遠藤さん。

「そもそも輸入品というのは、日本の安全基準に合格した製品ではありません。そのため、購入には慎重になったほうがいいものもあります。 

例えば、口に入れてしまいかねない赤ちゃんやペットに関する商品、直接、肌に触れる商品、事故が起きたら人体に影響が起きかねない商品など。化粧品も日本で認められている成分が使われているとは限りません。 

それを念頭に置いた上で購入を決めるのであれば、リスクを最小限に抑えるためにも、衣料品であれば洗ってから、小物類であれば拭いてから使うことをおすすめします」 

海外通販を利用する際には、消費者一人一人が購入前に慎重に検討することはもちろん、今後は、「海外通販に向けた日本の管理体制も問われるはず」と遠藤さんは言う。

さて、こうして見ていくと、いろいろ気をつけるべきことはあるが、それさえ抑えておけば、満足いく買い物ができそうな気がしてきた。

日本に上陸して丸一年、Temuの正体が少しずつ明らかになってきた今が、個人輸入初心者には始めどきなのかもしれない。

「物価の高騰が続く米国で大ヒットしたのは、それだけ安さに魅力を感じている人が多いからです。 

もちろんデメリットはありますが、Temuの安さや利便性のメリットはそれらを圧倒するほど大きい。今後は日本でもAmazonや楽天を抜いてトップに立つほどの勢いが感じられる。日本のEC事業者ももっと頑張らないと、追い越されるのは時間の問題ではないでしょうか」

遠藤奈美子 ECアナリスト・ネット通販コンシェルジュ。トゥインクルスプリンクルジャパン株式会社 代表取締役で All About「通販・ネットショッピングの活用法」ガイドとしても活躍中。高校卒業後、単身渡米しアメリカの大学で心理学を専攻。帰国後は外資系医薬品卸会社を経てインターネットショップ運営企業に入社し、執行責任者としてショップ運営全般を担当。その後、MBA(経営管理修士)を取得。コンサルティング会社にて自治体や省庁などへのIT活用コンサルティング業務に従事。現在はメディア出演やコンサルティングなど幅広い業務を行う。著書に『50歳からのネットショッピング』。

取材・文:辻啓子