高橋大輔コーチがフィギュアスケート期待の若手に伝えた細部の美学「地味な練習を始めまーす」
フィギュアスケート・ジュニアの強化選手が集められる強化合宿には毎年、海外からレジェンドスケーターが招かれ講師を務めていた。しかし、今年7月の合宿はシングルとアイスダンスで世界のトップレベルを経験した日本のレジェンドである高橋大輔が務めることとなった。
大阪・関空アイスアリーナで行なわれた全日本ジュニア合宿でコーチを務めた高橋大輔
合宿には、世界ジュニア女王の島田麻央や全日本選手権4位の上薗恋奈、世界ジュニア2位の中田璃士らが参加した。高橋は全体練習だけでなく、個人練習でもスケート靴を履き、コーチと話し合いながら選手のプログラムにアドバイスをする。
ちょっとした頭の動かし方や腕の使い方、足さばきでつくるアクセントを伝えると、ジュニア選手たちの動きがどんどん彩られていく。表現は感覚的なものではなく技術でもある。それが外から見ていてもよくわかる。
全体練習では開始時に高橋が「地味な練習を始めまーす」と宣言し、スケーティングやターン、ステップの基礎にじっくりと取り組んだ。
クロススケーティングとクロスロールの組み合わせも、ただこなすだけでなくしっかりとスケート靴のエッジに乗って押す。コーチたちからのリクエストだというツイズルの練習も、基本的なフォアイン、フォアアウトをはじめ、フリーレッグの位置に変化をつけたさまざまなバリエーションに取り組ませる。
身体の感覚については「プッシュ・シャープ・パッ」というリズミカルな言葉で、押す・速く回る・開くタイミングを指導。グループに分かれて滑るスケーターたちを一人ひとりチェックしながら、それぞれに足りない部分を的確にアドバイスしていく。
バックアウトエッジからフォアインエッジに乗るチョクトーは、エッジの乗り方だけでなく、美しく見えるフリーレッグの扱い方まで教える。正しい技術だけでなく、その先に求められる美しさにまでこだわるところに高橋のスケートに対する美学を感じた。
【長くスケートを続けてほしい】以前、高橋は「コーチになったらすごく細かいと思う」と話していた。全体練習後の囲み取材で実際にコーチングをした感想を聞くと、「1対1でやったらもっと細かく言ってると思う」と笑ったあとにこう続けた。
「ただ、本当にそれくらいの時間がほしいなと思うくらい、いいものを持っている子たちがたくさんいる。こうやって関わることができて、少しでも素敵になってくれたところが見えたりするとすごくうれしいので、参加させていただいてうれしかったですね」
さらに、細かく指導していたスケーティングのこだわりについて聞くと、高橋は笑顔でこう話した。
「(こだわりに)妥協点はないと思う。ただ、選手はルールのなかでやることがたくさんあるので、どれを優先するかというと、ポイントが高い技術が一番になると思う。でも、長くスケートを続けていきたい、今後アイスショーに出ていきたいという目標があるのなら、スケーティングのテクニックを持っていたほうが長く続けていけると思います。身体がまだかたまりきっていない(ジュニアの)うちにそういったところを頑張っておくと、のちのちラクになってくる。
僕自身、(今回の合宿に参加した選手たちも)本当に長くスケートをしてほしいと思っていますし、ジャンプも跳べるしスケートもきれいなスケーターが生まれてくるとうれしいです。(今回の合宿における合格点は)次の日に言ったことをちゃんと気にしているなってわかる練習をしてくれたら合格かな。もうそれが気づきなので」
自身の経験から、「ふだんから(それぞれの選手が指導を受けている)先生がおっしゃっていると思うけれど、毎日聞いていると耳に入ってこないこともある。だから、たまに"よくわかんない人"が来て言ってくれたら『はっ!』となることもあると思う」と高橋は言うが、ジュニアスケーターたちはレジェンドスケーターの一挙手一投足を見逃すまいと、真剣な眼差しで高橋の手本を見つめていた。
世界で戦うシニアのトップ選手も憧れる高橋の技術が、若いスケーターたちに受け継がれていく。