Image: Dominic McAfee

カキの赤ちゃんにも人間の騒音は聞こえているらしい…。

人間活動による不自然な音は、カキの赤ちゃんがついのすみかを探すために頼りにしている海の自然な音をかき消しているそうですよ。

自然な音の減少と不自然な音の増加

オーストラリアのアデレード大学に所属する研究チームが英国王立協会紀要に発表した論文によると、カキの幼生が定着するための場所を見つける目安にしている海の自然な音を、海運や機械、建設作業などの人為的な騒音がかき消してしまい、カキの繁殖を妨げている可能性があるとのことです。

海洋生物は、移動や補食の回避、コミュニケーション、エサ探しなど、さまざまな活動に海中の自然な音を利用しています。そのため、船の航行音や沿岸地域の人工的な騒音にとても弱いのだそう。

海洋生物の生息域は減少傾向にあるため、海中の自然な音は小さくなる一方で、人間活動による騒音は大きくなるばかり。カキの幼生にとって、海がどんどん生きづらい環境になっています。

自然音の強化でカキ礁再生

研究チームは、オーストラリア各地で失われていく生態系を復元させる活動の一環として、カキ礁の再生を目指しているそうです。今回の研究では、海の自然な音を強化してカキの幼生に聞かせた場合の効果を分析しています。

まず、カキ礁再生の実験は海岸に近い岩場で行なわれるため、人為的な騒音の影響を受けるといいます。そこで研究チームは、水槽と海の両方で、人工的に強化した海の音を聞かせた場合と、人為的騒音の妨げがあった場合で、カキの幼生の定着にどのような影響があるかを調べました。

すると、水槽と海洋の両方で、強化した海の自然音を聞かせたカキの幼生は、強化していない自然音と比較して定着密度が2倍から3倍増加しました。一方、人為的な騒音を重ねたケースでは、強化した海の自然音の効果は見られませんでした。

この結果について、研究チームの一員であるドミニク・マカフィー氏は音響効果の潜在的な限界を示していると述べていますが、研究チームは大都市の沿岸や都市部の水路での効果は小さいと認めつつも、人為的騒音が少ない場所での効果には楽観的で、筆頭執筆者のブリタニー・ウィリアムズ氏は

人為的な騒音が少ない場所では、音響の強化によって定着を促進しています。カキ礁再生を成功させる鍵はそこにあります。

とプレスリリースで話しています。人間が仲介者としてカキの赤ちゃんに最適な環境を見つけてあげる必要がありそうですね。

カキが持つ驚きの能力

カキと聞けば、レモンを搾った生ガキや、カキフライ、カキの天ぷらなど、食べ物のイメージがあると思います。でも、カキは海洋生態系にとっても、私たち人間にとっても重要な役割を果たしているんですよ。

まず、ろ過能力を発揮して、海の水質と栄養循環を安定させます。また、防潮堤になって海岸の浸食を軽減してくれています。しかも、カキ礁の成長速度は海面上昇をも上回るのだとか。成長する防潮堤! さらに、稚魚や無脊椎生物を捕食者から守る避難場所になっています。さらにさらに、干潮時には、貝殻によってできる日陰が周辺より10度以上も気温を下げます。そして、地球沸騰化時代の貴重なCO2吸収源でもあるんです。

カキ、万能過ぎやしませんか。

オーストラリアでは、ヨーロッパ人の入植以来、カキを含めて貝礁が90%以上失われたそうです。こんなに生態系と人間の生活を支えてくれる縁の下ならぬ海の中の力持ちをこれ以上失うわけにはいきませんよね。

ここはひとつカキに感謝して、人間はもうちょっと静かにしてあげませんか。

Source: Williams et. al 2024 / 英国王立協会紀要

Reference: University of Adelaide, The Conversation, PLOS One