退陣表明する岸田文雄首相(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP)

岸田文雄首相の突然の総裁選不出馬表明で、自民党総裁選の「ポスト岸田」レースは、お盆明けの19日から一気に本格化する。同日には「コバホーク」と呼ばれる小林鷹之前経済安保担当相(49)が他候補に先駆けて出馬表明する構えで、国民的人気の高さを誇る石破茂元幹事長(67)と小泉進次郎元環境相(43)も「推薦人確保のめどがついた」として出馬表明を急ぐ。

さらに、茂木敏充幹事長(68)、高市早苗経済安保担当相(63)、河野太郎デジタル担当相(61)、斎藤健経済産業相(65)らも出馬を目指しており、大乱戦必至の状況だ。

そうした中、野党も含めた政界全体が注視しているのが、新政権発足直後の「冒頭解散」の可能性だ。9月中下旬の国連総会やアメリカ大統領選、さらには参院岩手補欠選挙も含めた内外の重要政治日程からみると「冒頭解散断行への日程はまさに綱渡りだが可能性は十分ある」(自民長老)との見方が広がる。

そこで、ちょうど3年前に岸田首相が今回と同様の窮屈な日程をかいくぐって「10・14衆院解散」を実現したケースと対比する形での、「冒頭解散」の可能性をシミュレーションしてみると……(具体的日程は下記を参照)。


「冒頭解散」には「9・20総裁選投開票」が必須

まず、冒頭解散の可否に直結するとみられるのが、総裁選の日程。20日に総裁選管理委(逢沢一郎委員長)が発表、同日午後の総務会で正式決定する段取りだが、これまでのところ「9月5日告示・20日投開票」の日程が本命視されている。これがもう1つの案の「9月12日告示・27日投開票」となれば、「冒頭解散は極めて難しくなる」(自民幹部)との見方が広がる。

そこで、前者の日程でシミュレーションすると、9月20日の総裁選投開票で勝利した新総裁は同30日召集の臨時国会冒頭での首相指名・組閣・新政権発足という日程が有力だ。というのも、総裁選自体が大混戦で、「投票箱を開けてみなければ結果が分からない」(政治ジャーナリスト)だけに、「結果を受けてからスタートする党・内閣人事での党内調整に、1週間は必要」(自民幹部)とみられているからだ。

その場合、新総裁が首相指名を受けて組閣し、新政権を発足させられるのは30日夜となる。そこで注目されるのが同夜の皇居での新内閣認証式を受けての新首相記者会見の内容だ。というのも、2021年10月4日に新政権を発足させた岸田首相は、同夜の初会見で「10月14日の解散」を宣言したことで、衆院選の10月31日投開票を実現した経緯があるからだ。

岸田首相の「解散予告」は過去に例のない“奇策”

首相が事前に解散時期を明言したケースは2012年11月14日の野田佳彦首相と安倍晋三自民党総裁(いずれも当時、安倍氏は故人)との党首討論での野田氏の「11月16日に解散します」宣言が記憶に新しいが、3年前の岸田首相の「事前解散宣言」は総務省選挙課と事前に調整した上での過去に例のない「奇策」だった。

そもそも政界では「首相は解散と公定歩合は嘘を言ってもよい」とされ、「首相が『解散』と言った瞬間から日程設定がスタートするのが政界の常識」(自民幹部)だった。

しかし、岸田首相は「10日間も先でも解散断行を明言すれば、『公職選挙法上はその発言の時点で解散したとみなされる』との総務省見解を踏まえての決断だったのが真相」(岸田首相側近)とされる。

このため、新首相が同じ手法を踏襲すれば「9月30日に10月10日の解散断行を明言することで、参院岩手補選と同日の10月27日衆院選投開票が可能になる」(同)わけだ。

人気者の新首相なら“電撃解散”のメリット大

もちろん、「すべては新首相の決断次第」(政治ジャーナリスト)だが、「石破氏や小泉氏のような国民的人気が高い人物が新首相になれば、“電撃解散”のメリットは大きい」(同)のは否定できない。だからこそ、野党側も「自民が顔を変えた途端の『冒頭解散』は十分あり得る」(立憲民主幹部)と警戒心を露わにするのだ。

ただ、一般国民からみれば「まさに永田町でしか通用しない政治手法。首相はもとより新内閣の閣僚は、衆参予算委質疑での野党との政策論争を尽くした上で国民の審判を仰ぐのがあるべき姿で、一方通行の代表質問だけで衆院解散というのは邪道の極みで国民の政治不信を拡大させるだけ」(閣僚経験者)との厳しい指摘も少なくない。

このため、新首相は「冒頭解散による政治的メリットとデメリットをどう考えて判断するかで、トップリーダーとしての資質が厳しく問われる」(自民長老)ことは間違いなさそうだ。

(泉 宏 : 政治ジャーナリスト)