東京をさまよう「中年ピーターパン」の正体…中年ティンカーベルもいるよ!昭和の価値観”フック船長”はポリコレワニが美味しくいただきました

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 厚生労働省によると、2023年の東京都の合計特殊出生率は0.99と、ついに1.0を下回った。この極端な少子化の要因について、エックスでのフォロワー数が4万人を超える人気ネット論客のポンデベッキオ氏は「東京は中年になってもピーターパン、ティンカーベル気分の男女が溢れているからだ」と分析するーー。

東京都の出生率0.99の衝撃…日本全体でも1.20で過去最低

 日本が抱える最も大きな問題、それが少子化だ。

 平成後期はなんとか踏みとどまっていた日本の出生率であったが、コロナ禍を経て急落した。厚生労働省によると、2023年の日本の出生率は過去最低の1.20まで低下したという。東京の出生率においてはなんと0.99だ。東京に隣接する首都圏内の都市の出生率も、軒並み全国平均以下となった。

 結婚適齢期の男女がひしめき合う東京で、なぜこれほど低い出生率なのか。その最たる原因が非婚化である。既婚者世帯の子供の数は概ね2人弱で推移しているにもかかわらず出生率が低下してしまうのは、結婚する男女そのものの数が減っているからなのだ。

子育て費用がかかりすぎる現状…ペアローンに中学受験、幼児教育とてんこ盛り

 なぜ東京の若者たちは結婚しない、もしくはできないのか?

 その要因の一つが育児のハードルの上昇だ。東京で子育てをすることは、非常に高いコストがかかる事態になっているのである。結婚する大きな目的の一つが自分の分身である子供を授かり、夫婦で育てていくことだ。しかし東京ではその子育てに必要なお金や労力が上がりすぎているのだ。結婚しても子供を育てていくことができそうもない、育てていく自信が持てないとなれば、若者の結婚へのモチベーションが下がるのも無理はないだろう。

 ファミリー向けの分譲マンション価格が高騰し、今やペアローンは当たり前になっている。子供を授かって以降も夫婦で仕事と育児を両立していかなければならない。さらに私立中学受験に挑む家庭の割合も増加している。地方都市では私立中学受験率が10%にも満たないであろう程度なのに対して、東京首都圏の私立中学受験率は25%に迫る勢いだ。コアネット教育総合研究所「2024年首都圏中学入試総括レポート」によると、2024年度首都圏の中学受験率は22.7%と過去最高を更新したという。東京の一部地域では今や中学受験は当たり前になりつつある。ペアローンを払いながら子供の学費も工面しなければならないのである。

 さらに育児のハードルアップはお金の面だけに留まらない。育児のアップデートにより、子育てにかける手間暇がどんどん増えて行っているのである。栄養価の高い食事、歯科矯正から頭蓋骨の矯正、知育や幼少期からの英語教育など、昔のような愛情さえ与えて育てれば十分とはいかなくなっているのである。

核家族化で「ジジババ育児ヘルプ」をしてもらえない

 そしてトドメとなるのが核家族化だ。地方から大学進学や就職で上京して移住する若者が非常に多い東京では、結婚後に育児をジジババにサポートしてもらうことができないのである。筆者の周囲でフルタイム共働きをバリバリこなしながら子供を2~3人育てて余裕ある生活をしている夫婦のほとんどが、“ジジババ育児ヘルプ”を利用している。

 地方というサバンナの王、マイルドヤンキー家庭が子供を3人も4人も育てられるのは、両家のサポート、“クアッドジジババヘルプ”を利用できるからに他ならない。ベビーシッターサービスなども東京では受けられるとはいえ、とても需要を満たすだけの供給が追い付いていないのが現状だ。

 上記のように東京で結婚して子育てをしていくことは、平均以下の稼ぎしかなく、実家も頼れない男女にとってはあまりに高すぎる壁となってしまっているのだ。結婚後の生活に夢を見られない男女が溢れてしまうのも無理はないだろう。

“東京ピーターパンシンドローム”

 しかし、育児のハードル上昇だけが異次元の出生率0.99の原因ではない。これだけ出生率が低下してしまった最大の理由、それが“東京ピーターパンシンドローム”である。

 東京は万人が物語の主人公になれる街だ。豊富なジャンルの娯楽、やりがいのある仕事、日々開発され広がっていく街並み。終わらない成長を続ける大都市・東京に住むことで、自分も成長できているような気分で過ごせるのである。

 街には常に若者が溢れ、人気のレストランは長蛇の列。日々様々な施設で芸術や音楽、アニメなどのサブカルチャーイベントが開催され、テレビやYouTubeで活躍する有名人とすれ違うことも珍しくない。それどころか、素質や運に恵まれれば、自分も有名人の仲間入りが出来る可能性も0ではない。

 SNSを開けば自分と同じ趣味や嗜好の仲間をいつでも見つけることができ、マッチングアプリを開けばハイスペックな異性が選り取り見取りだ。数さえ打てば誰でもリアルで友人や恋人を見つけ、他者とつながることができる。

 独りで暮らすには十分なお金を稼げる仕事に、利便性の良い場所にある単身用ワンルームマンション。安いファストフード店や居酒屋。結婚して生活するにはハードルが高いのに比べ、お独り様が生活するには、これ以上なく東京は過ごしやすい環境が整っている。東京は若者に夢や物語に仲間、住居や食事を与え、社会に出た後も子供のまま純粋に自分の人生を楽しませてくれるネバーランドなのである。

独身のピーターパン、ティンカーベルだらけの東京

 地方から東京へ上京してくる若者は大人になるのを先送りしたい、夢見がちな男女が多いように筆者は感じる。地方都市も昭和に比べれば当然リベラルの風が吹いてはいるのであるが、東京に比べれば結婚して当たり前、子供を持って一人前、といった価値観が強い。そんな地方の古臭い因習に嫌気がさした若者たちの拠り所が東京なのだ。地方に適応できるタイプの男女は住み慣れた地元でさっさと結婚して次のステージへと進んでいく。

 東京のネバーランドには自由に生きたいピーターパンの天敵であるフック船長すらいない。昭和の価値観という名のフック船長は、東京に集ったピーターパンたちに倒され、リベラリズムやポリティカル・コレクトネスというワニたちに美味しく頂かれてしまった。

 かくして、天敵すらいなくなった東京ネバーランドには独身のピーターパンやティンカーベルが溢れることになったのである。

都民自身が現状維持を望んでいる

 もちろんネバーランドから出て大人になり、結婚して子供を育てていく道も選べるが、その先に待っているのは上記にも書いたような厳しすぎる育児だ。気の合う仲間や恋人と楽しく暮らすピーターパン生活を捨てて、フルタイム共働きをしながら子育てをする、厳しい結婚生活に移ることがなかなかできない若者が多いのも致し方ないのかもしれない。

 そして、若者以外の都民たちも東京の少子化という現状に全く危機感を抱いていない。なぜなら、東京には地方から若者が供給されるからだ。都民が子供を産んで育てなくても、地方民がせっせと育てた若者が上京してきてくれるので、東京には若者が溢れているのである。

 話題となった都知事選も、蓋を開けてみれば大方の予想通り小池都知事現職の圧勝であった。小池都知事が就任して以降、東京都の出生率はゴリゴリと下がり続けているが、誰も少子化の問題を小池都知事に問い詰めることはなかった。都民自身が現状維持を望んでいるのである。

中年になってもピーターパンではいられない

 しかしいくら東京ネバーランドが楽しいからといって、時間が経つのを忘れていつまでも空を飛び続けていれば、いつしかそのツケを支払うことになる。物語の中のピーターパンは永遠の少年であるが、東京の空を舞うピーターパンたちは確実に年老いていくからだ。

 結果として、東京の空には四十肩や腰痛を抱えながら必死に空を飛び続けるしかなくなってしまった中年のピーターパンやティンカーベルが溢れることとなってしまったのだ。

 フック船長はワニの腹から聞こえる時計の音に常に怯えていたが、東京の中年ピーターパンたちにとっても進み続ける時計の針は天敵と言えるだろう。人はいつまでも物語の主人公ではいられない。

 ネバーランドの空を舞うのはほどほどにして、ウェンディのように若いうちに現実世界に戻り、地に足のついた人生を歩む道も考えていこう。