首都ワシントンで開かれた反イスラエルデモに参加したサイモン・サンディーンさんは、現時点ではハリス氏に投票しようと考えている(写真:筆者撮影)

「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」、地球の気候変動デモ、そしてイスラエルと軍事組織ハマスの戦争に反対する大学のデモーー。アメリカの最近の市民運動は、若い人が常に強力にリードしてきた。

2020年にはバイデン氏を大統領に当選させるマシーンとなり、2022年中間選挙では共和党優勢と予想された「レッド・ウェーブ(赤は共和党の党色)」を阻んだ。2024年大統領選挙では、どんな動きをするのだろうか。声を拾ってみた。

「2大政党制がぬくぬくと長く続きすぎた」

バイデン大統領(81)が大統領選撤退を発表し、指名したカマラ・ハリス副大統領(59)が、トランプ前大統領(78)と対決する。バイデンvs.トランプでは「高齢対決」が問題視された。しかし、若者の中にはハリス氏が候補になっても、民主・共和の2大政党いずれかの候補を選ぶことに躊躇する「ダブルヘイター」がいる。

ニューヨークでバーテンダーをしながら音楽活動をするブレンダン・マッケンナ氏(24)は、「2大政党制が、ぬくぬくと長く続きすぎた」と言う。

「労働者階級を欺き、言葉を尽くしてきちんとした説明もせず、お高くとまった貴族の家がお互いに歪み合っているだけにみえる。結局、金持ちとウォール街の救済ばかりしてきた」

東部マサチューセッツ州で大学を出たものの、定職はなく、生活は苦しい。若い人の間では「悲観」「不信」が広がっているとマッケンナ氏。2022年、ボストンで行われた大規模デモに弟と参加した。連邦最高裁判所が、アメリカで長年、女性の人工妊娠中絶権は合憲だとしてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を下した。その判断に反対するデモだった。

しかし、マッケンナ氏が目にしたのは、警察が平和なデモ参加者を蹴散らし、逮捕者まで出る光景だった。上空を警察のヘリが行き来し、州兵までが姿を現した。彼にとっては、戦場みたいだった。


ワシントンのデモで24日、警察に催涙ガスを浴びた人々(写真:筆者撮影)

「コロンビア大でも今年、警察が100人もの学生を逮捕した。こんな過激な仕打ちを受けると、不満や悲観的な考えが募り、前向きな姿勢で政治を信じる気にはならなくなる」


若者のムードは「悲観」や政治への「不信」だというブレンダン・マッケンナ氏(写真:筆者撮影)

「選挙なんてジョーク」

7月24日(米東部時間)、ワシントンであった反イスラエルデモで出会った若い人にも話を聞いた。訪米中のネタニヤフ・イスラエル首相が同日、連邦議会議事堂の上下院合同会議で演説するのに合わせて、停戦を訴え、アメリカがイスラエルを支援しているのを批判するデモだ。

中西部ケンタッキー州から1人で車を運転してきたというアイリスさん(26)は、議事堂方向を見ながら、有名なドーム屋根から炎が出ている油絵を描いていた。腐敗した議会が、内側から崩壊して、人々が見守る中で炎を吹き出す光景だという。

「選挙なんてジョーク。結局、金持ちや企業が莫大な政治献金をして、当選させたい人を選ぶだけ。ハリスにしても、バイデンと同じでイスラエルに武器を売るのをやめる訳ではないのだから」


連邦議会議事堂が内部から崩壊し火を吹く絵を描くアイリスさん(写真:筆者撮影)

アートの教師になりたくて大学に進学したものの、経済的に厳しく中退した。教師になったところで、給料は十分ではないと言う。本屋で働きながら、腐敗した政府を宇宙に放り出すという小説を書いている。

「アメリカは、パレスチナの大学、病院を爆撃する資金を出し、大量殺戮(ジェノサイド)のために国民の税金を使っている。それが我慢できない」

インフレ、学生ローンが払えないなどアメリカ国民が経済的に困窮していることにフラストレーションを感じているのは、共通項のようだ。

イスラエルへの武器供与に強い不満

自殺願望があり、9年も治療を受けているというサイモン・サンディーンさん(19)も大学に進学していない。ペンシルベニア州から妹とデモに駆けつけた。ハリス氏が「今のところベスト」と言い、投票するつもりだ。しかし、ハリス氏がバイデン氏に指名される前は、投票を躊躇していた。

「バイデンがイスラエルに武器を送り、ジェノサイドが行われている事実には打ちのめされた。ハリスは、検察官時代に性犯罪者を強く取り締まっていたと聞いて、投票してもいいかと思う」

ペンシルベニア州からのアーティスト、アガスタ・メイさん(30)は、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(無所属)の名前を投票用紙に書くという。

「アメリカ国民として、私が払った税金をイスラエルにやらずに、返して欲しい。都会に出るたびにホームレスが増えていて、お金をせがみ、通りで寝ている。買い物に出るたびに物価が上がっている。政治家は予算がないと言うけど、イスラエル支援は続けている。退役軍人がトラウマに苦しみ、薬物摂取で死ぬ人も毎日いる。教育予算も足りない。国民にお金を使わないで、イスラエルというのは納得がいかない」

ケネディ氏はイスラエル支持を表明しているものの、「アメリカ・ファーストの彼は、戦争を終わらせたいと言っている」と期待をかけている。


R・F・ケネディ・ジュニアのTシャツをオンラインで買ったアガスタ・メイさん(写真:筆者撮影)

共産主義政党である社会主義解放党(PSL)の若い人たちは、猛暑の中の集会で、人々にペットボトルの水を配り続けていた。彼らは、PSLのクローディア・デ・ラ・クルーズを大統領候補に、カリーナ・ガルシアを副大統領候補に立てて、投票するという。インスタグラムなどで若い人の支援が増えている。

2大政党に対する拭えない不信感

ニューハンプシャー州で史跡のガイドをしているアレックス・ウィリー氏(33)は、水の補給所を切り盛りしていた。

「第3党の候補者は、当選しないと言われるが、当選することだけが重要ではない。真に労働者階級のことを考えて支援する大きな運動を起こすことが大切なんだ。クローディアとカリーナは、真の労働者階級出身で、女性の解放運動家で、とても誇りに思う。ハリスやトランプとは違う。労働者階級を搾取する2大政党は、僕の価値観とは相容れない」


アメリカの2大政党制に挑む労働者階級の運動に期待するアレックス・ウィリー氏(写真:筆者撮影)

ニューヨーク・タイムズの選挙アナリスト、ネイト・コーン氏は、バイデン氏の支持率が2023年、18〜44歳の有権者、黒人、ヒスパニック、非白人のすべてで、2020年よりも下落したとしている。ハリス氏が、その支持率低下を上昇に変えられるのか、コーン氏は注目している。

しかし、カギを握る若い人の「悲観」「不信」はどうやって払拭できるのかは不透明だ。ニューヨーク・タイムズが24日発表した支持率は、トランプ氏が48%、ハリス氏が46%となっている。


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(津山 恵子 : ジャーナリスト)