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話す時に言葉が滑らかに出てこない障害「吃音」を持つ人は、日本に約120万人いるといわれています。「悩みを抱える人の希望になりたい」と、吃音と向き合う男性を取材しました。

【写真を見る】「怖い。痛い。苦しい…気づいてほしい」中学時代に綴った思い

カフェのスタッフ全員「吃音者」

「注文を お伺いしてもよろしいでしょうか」
「吃音は 話し言葉が滑らかに出ない、発話障害のひとつです」

7月7日、熊本市で「注文に時間がかかるカフェ」が開かれました。接客するスタッフは全員が吃音者です。店員という立場を通して吃音のことや支援のあり方を知ってもらおうと、全国各地で開かれています。

「最後まで 言い終わるまで待ってください」

熊本での開催を企画した嶋本一平(しまもと いっぺい)さん(20)は、吃音を理由に人と話すことを諦めた過去がありました。

不登校にもなった学生時代 

嶋本さんは小学5年生で吃音を発症し、それ以降人との会話を避けるようになりました。

嶋本一平さん(20)「国語の音読の授業で順番で行を読まないといけないところがあったんですけど、そこで詰まってしまい号泣した記憶がある」

中学時代には、当時の思いを自画像として残しています。

嶋本さん「表の顔と裏の顔。『笑顔の裏には 泣いている』と書いています」

その“裏の顔”は「怖い。痛い。苦しい。どうして。助けて。我慢。気づいてほしいなぁ。」と言葉をこぼしていました。

不登校にもなった学生時代。その時に芽生えた思いが、嶋本さんの行動に変化をもたらします。

嶋本さん「自分ひとりで悩んで吃音を受け入れられなかったので、そういう子が減ってほしい。自分と同じような経験をしてほしくない」

働きながら確信 「伝えることで分かり合える」

20歳になった嶋本さんいま、職場の同僚たちと一緒にランチを楽しんでいます。人生を切り開く一歩として、この春就職する道を選んだのです。

そして、これまで隠してきた吃音を公表することを決意しました。

嶋本さん「面接でも吃音を隠そうかなとギリギリまで思っていましたが、やっぱり言わないと、一番最初に言わないといけないと感じて」

面接を担当した社長や、上司の反応は。

ダイケン 松茂信吾社長「最初の『よろしくお願いします』が詰まっていた印象はあります。ただ、ぼくは“頑張れ”という感覚の方が強かった」

会社の上司「ちゃんと話し合って思いが通じ合えば全く問題がないと思います」

「伝えることで分かり合える」と確信した嶋本さん。そんな時に「注文に時間がかかるカフェ」の取り組みを知り、熊本での開催に名乗りを上げました。

不安を抱えるメンバーたち

「注文に時間がかかるカフェ」に一緒に参加したのは、大学生の藤本莉緒さん(20)と高校生の上津原嵩仁さん(17)です。カフェのオープン前、2人はそれぞれ不安を感じていました。

大学生 藤本莉緒さん(20)「吃音の症状がどのくらい出るか心配です」
高校生 上津原嵩仁さん(17)「不特定多数の人と喋るのが不安です」

カフェでは受付の説明と注文に分かれて接客します。

3人の挑戦が始まりました。

藤本さん「さえぎったり推測して代わりに言ったりせずに 言い終わるまで待ってください」

嶋本さん「他の人と同じように接してくれると、自分も輪に入れているのかなと安心します」

症状が出ても決して隠しません。会話を通して互いに理解を深め、多くの人と話すことで、自分をさらけ出すことへの恐怖心も徐々に薄まります。

藤本さん「国語の授業の音読が一番きつくて、言葉の言い換えができないので」
客「うん、うん」

それぞれのテーブルから聞こえる笑い声。はじめの不安が嘘のようにお客さんと会話を楽しむ3人の姿がそこにはありました。

お客さんも楽しんでもらえたようです。

参加した親子「息子も吃音なので他の吃音の方に接する機会になればと思って」
「オレンジジュースが おいしかった」

自分を変えるための一歩に

カフェを終えた3人は、手ごたえを感じていました。

藤本さん「自分がつっかえながらでも聞いてくれる方がたくさん いらっしゃることをすごく感じたので、前向きになれたと思います」

上津原さん「最初と比べて明確な根拠があるわけではないですが、少し成長することができたと感じます」

嶋本さん「やって良かったです。嬉しい。そういう声を生で聞けるのが一番嬉しい」

自分を変えるため、そして悩みを抱える人たちに届けるため。嶋本さんたちはこれからも思いを言葉に託します。