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厚生労働省が発表した「令和5年 賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の平均賃金は男性が350.9千円、女性が262.6千円だったそう。このような状況のなか、タイムズ紙のコラムニストの経歴を持つジャーナリストのアナベル・ウィリアムズさんは、「世界経済フォーラムによれば、現在のペースだと、男女間の賃金格差を解消するためには<257年>かかる」と話します。今回は、アナベルさんの著書『女性はなぜ男性より貧しいのか?』より一部引用、再編集してお届けします。

【書影】男女間の賃金格差が生まれる根本と平等に向けた具体策に迫る。アナベル・ウィリアムズ 翻訳:田中恵理香『女性はなぜ男性より貧しいのか?』

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美のプレッシャー

美のプレッシャーの究極の結末は、少女たちの未来に向けた希望と社会参加の道を狭めてしまうことだ。

4万9000人の女性が対象になった研究によれば、身体的な印象を気にして出勤しなくなったり就職の面接をとりやめたりする女性が、少数ではあるが無視できない割合でいるという。(1)

別の研究では、若い女性の3分の2が、容姿を批判されるだろうからテレビに出たくないと回答している(2)。

これは心配だ。リーダーになるとか、ある分野ですぐれた業績を残すとかいったことは、人目につきやすくなることを意味するからだ。

ソーシャルメディアの理想像

その対極になるが、一部の若い女性はこれまでにも増して、ソーシャルメディアに登場する理想像に表現されるようなキャリアにあこがれる。

インフルエンサーやインスタグラムのモデルに代表される理想像、さらには女性の顔や体、家庭、人間関係やライフスタイルを描いた作品に登場する理想像だ。

イギリスの15歳から19歳の少女1万人にさまざまな職業のリストから理想の仕事を選ぶよう尋ねた研究では、多くの人が、体が強調される職業を選んだという。

魅力あふれるモデルは、63パーセントの少女が選んだ理想の職業であり、また、4分の1がラップダンサーを最上位にあげた(3)。

このデータから、一般に考えられている以上に、美のプレッシャーが女性のキャリア選択に影響を及ぼしていることがわかるだろう。

規範に従わないときのペナルティ

ハイヒールを履き、口紅、マスカラ、頬紅、ファンデーション、アイシャドウをつけること――毎日そして一日じゅう。

21世紀のイギリスで女性が守るべき差別的なドレスコードの例だ。


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この身だしなみ規定はイギリスの人材紹介会社ポーティコのもので、2016年に受付係のニコラ・ソープがローヒールの靴を履いて9時間のシフトに入り、注目を集めた(4)。

この業務では訪問者を案内して会議室まで往復することがあったが、ソープは5センチから10センチ程度のヒールの靴を履くよう言われていて、その日は賃金の支払いなしで帰宅させられた。

ソープは、今後は会社が女性にハイヒール着用を要求しないよう、法律の改正を求める嘆願をオンラインで始め、まもなく15万2000人の署名を集めた。

法律の効力

これを受け議会で調査したところ、差別的な規定はまだ広く浸透していた。

制服着用の規定は性的対象にされていると感じさせるものだとする女性の訴えが寄せられ、また、重い荷物を運ぶ、階段を上り下りして食事を届ける、長い距離を歩くといったことが必要な業務で、ハイヒールを強制されるという声もあった(5)。

調査では、「ハイヒール着用により体が不安定になるのは、コミュニケーションにおける当人の存在感と権威を損ねる」と結論づけた。パワーファッションの話はこれでおしまい、というわけか。

議会の報告書は、いっぽうのジェンダーに負担を課す服装規定は2010年の平等法ですでに禁じられているので、ソープに求められた服装規定は現行法に違反していると述べている(6)。

しかし、差別的慣行が広く行われている証拠が数えきれないほどあるにもかかわらず、政府は法律を強化するのには及び腰で、差別されていると思った人は雇用主を雇用審判所に訴えることができる、と繰り返すだけだった。

政府は雇用審判所に関しても法律扶助を削減している。つまり、多くの女性は雇用主を訴えるだけの経済的余裕がない。だから法律に効力がないのだ。

(1)Emma Halliwell et al., ‘Costing the invisible: A review of the evidence examining the links between body image, aspirations, education and workplace confidence’, Centre for Appearance Research, 2014, https://uwe-repository.worktribe.com/output/806655/costing-the-invisible-a-review-of-the-evidence-examining-the-links-betweenbody-image-aspirations-education-and-workplace-confidence (2020年6月20日アクセス).

(2)Unity Blott, ‘The pink tax strikes again! Girls cost £30,000 MORE to raise than boys’, Daily Mail, 9 November 2016, www.dailymail.co.uk/femail/article-3920148/Study-finds-girls-cost-30-000-raise-boys.html.

(3)Dr Linda Papadopoulos, ‘Sexualisation of Young People Review’,UK Home Office report, 2010, https://dera.ioe.ac.uk/10738/1/sexualisation-young-people.pdf (2020年6月20日アクセス).

(4)Dan Bilefsky, ‘Sent Home for Not Wearing Heels, She Ignited a British Rebellion’, The New York Times, 25 January 2017, www.nytimes.com/2017/01/25/world/europe/high-heels-british-inquiry-dresscodes-women.html.

(5)House of Commons, ‘High heels and workplace dress codes’, Petitions Committee and Women and Equalities Committee report, 2017,https://publications.parliament.uk/pa/cm201617
/cmselect/competitions/291/291.pdf (2020年1月10日アクセス).

(6)同上

※本稿は、『女性はなぜ男性より貧しいのか?』(晶文社)の一部を再編集したものです。