アダルト系サイトで相次ぐ決済不可……危惧される大手カード会社の「ネットコンテンツ支配」の中身

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「表現」と「規制」の対立はいつの時代でもあるもの。だがここ数年、その構造が大きく変わってきている。規制は国など権力側が決めるもので、そのルールの中でやりたいことをやっていく――という構図ではなくなっているのだ。特に、時代の影響をいち早く受けるアダルトコンテンツにおいてその動きは顕著だ。

象徴的なのが、ここ数ヵ月で度々ニュースになっている“ECサイトにおけるアダルトコンテンツの支払いで大手のクレジットカードが決済不可になる”という現象だ。世界5大カードといわれる「アメリカン・エキスプレス」、「ジェイシービー」、「ダイナースクラブ」、「ビザ」、「マスターカード」のうち、日本発のジェイシービーをのぞく4社のカードが決済に使えなくなっているというのだ。最近では今年6月、業界大手であるDMM系成人向けECサイト「FANZA同人」でビザカードによる決済が停止され、7月10日現在も続いている。

アダルト系ではないが、ニコニコ動画の会員サービス「ニコニコプレミアム」においても、昨年末からマスターカードでの決済が停止され、今年に入り、アメリカン・エキスプレス、ダイナースクラブ、ビザの3ブランドのカードも決済不可となっている。

アダルトカルチャー取材歴10年のフリーランス記者、A氏は言う。

「これまで、お上――政府によるアダルトコンテンツの規制は恒常的に行われてきました。1980年代のビニ本規制、その後に生まれたアダルトビデオの規制、AV新法も規制にあたるでしょう。それはそれでさまざまな問題をはらんでいましたが、今、我々が直面しているのはまったく別の規制です」

自社でECサイトを持っている某メーカーのECサイト管理担当者B氏がA氏の言葉を継ぐ。

「このネット時代、文化・流通を仕切っているのは政府ではありません。カード会社です。日本における大手国際ブランドのクレジットカードのシェアは、ビザとマスターだけで実に約7割。国内でカード決済される金の流れの70%を、この2社が握っているということです。ビザやマスターカードが使えないとなると、国内ブランドのカードか電子マネー決済などで代用するしかない。ただ、そこもいずれ規制をかけられるかもしれず……」

どうしてこんな状況に追い込まれてしまったのだろうか。元AVメーカーの監督で、現在は同人系ビデオの制作で億に迫る売上をあげているという独立系映像クリエイターのC氏はアメリカでのある訴訟を挙げた。

「4年ほど前、ニューヨークタイムズの記事が発端となって『Pornhub』というアダルトサイトが大きな批判に晒されました。未成年の女性の動画が投稿されていたとして『Pornhub』の親会社が訴えられているのですが、その裁判でカリフォルニア州連邦地裁はビザに責任の一部があるとした。『Pornhub』の関連会社から発生する支払いをビザが処理していたことに言及し、“児童ポルノの収益化を意図的に支援した”と指摘したのです。大手国際ブランドのアダルトコンテンツに対する風当たりの厳しさを考えると、あの事件が規制開始のキッカケだったのではないかと私は考えています。

アダルトグッズ系に対しては、まだそこまで厳しくありませんが、問題は検索ワードの規制が強まっていること。『近親相姦』など倫理的な問題があるものは当然にしても、この5月、6月ごろから『制服』がNGになったのはやりすぎなのではないか。“アダルトへの規制が進んでいる”という一元的な問題ではないのです。表現の自由の制限につながりかねない規制と戦おう、と声を上げた政治家もいらっしゃるのですが、何しろ相手は世界的なカード会社。何とどう戦えばいいのか……」

クレジットカード決済について詳しい、ファイナンシャルプランナーのD氏は「意外にも、欧州系のカードは日本ほどアダルト系を拒絶していない」と打ち明ける。ならば、海外の決算会社を使っているカードを使えばいい――かといえば、「そう単純ではない」とD氏が首を振る。

「決済はできても、ECサイトがカード会社に支払う決済手数料の料率が欧州系を使うと高くなるので現実的ではないのです。手数料が国内の3倍になるケースもある。そうなるとECサイト側に儲けが残りませんから……」

各社はどう対応しているのか。前出・B氏が嘆く。

「国内大手のジェイシービーさんは、今のところアダルトコンテンツに目立った規制はかけていない。頑張ってほしいです。ただ、個人的には結局、ジェイシービーさんも“右へ倣え”となるのではないかと危惧しています。PayPay(ペイペイ)など電子マネーで決済しているサイトがあり、それら代替サービスに期待をかけたいところですが、こちらも規制がかかるのは時間の問題でしょう。

中国系のカード会社、中国系の電子マネーならばどうか。アリババグループのAlipay(アリペイ)が参入するという噂があり、そこに望みを持ちたくはあるものの、中国系は実は日本よりも規制が厳しい。突然、政府の命令で取引が止まったりする。アダルトコンテンツの決済に使えるとは思えません。あと、中国系は不正も怖い。クレジットカードにまつわる不正の半分以上が中国系といわれており、そんな中で中国系カードで決済するのはリスクと考えざるを得ない。アダルトコンテンツ関係でのカード決済は全滅する、と考えるほうが現実的かもしれません」

業界のフロントラインにいる人々は、どう現実に対処しているのか? コスプレ系同人AV販売サイトの大手「DL.Getchu.com(ディーエルゲッチュコム)」の企画開発室室長・OH氏に聞いた。

「ウチも姉妹サイトの『Gyutto.com』でのビザ、マスター、ジェイシービーの決済を突然、止められまして……。全収益の7割がカード決済によるものだったので一瞬、眼の前が真っ暗になりました。なんとか、銀行振り込みなど他の決済方法でその期間の損失拡大を食い止め、5割程度のマイナスで済ませました。その後、マスターとジェイシービーで決済できるようになって、なんとか売上は以前の水準まで戻りました。

最近、大きな問題になっているネットからのDDOS攻撃(複数のPCからWebサーバーなどに対し、大量のパケットを送りつけて正常なサービス提供を妨害するサイバー攻撃)もありました。大規模なものでなかったので対処できたのですが、規制に加えてそういう攻撃までケアしなければならない。本当に大変な時代です」

これからの未来に、どうやって対処していくのか。OH氏が続ける。

「アダルト決済専門のカードや電子マネーができればなあ、なんて思っています。それが普及するかといったら難しいでしょうけど。現実的には、規制に対応しつつ、現在の売れ線、例えば地下アイドルものとかVチューバーものとか、これから伸びるだろうものに力を入れて開拓していくしかないでしょうね。あとは、リアルイベント系ですね、イベントにお客さんが戻ってきていて、コロナ禍以前の状態に近い。期待できるコンテンツです。インターネット中心の今、リアルイベントに未来を見るというのも皮肉な話ですが。

自社コンテンツを作り、ウチのファンになっていただくというのが大事だと思っています。そうすれば決済もウチに合わせた形を選んでいただけるでしょう。そのために、コンテンツに出演し、制作に協力してくれる方も応援したい。大変な時代ですが、お金にはなるのでぜひ。可愛い女の子、男の子でもOKです! Xなどからぜひご連絡を」(OH氏)

もちろん過激な性表現は許されるものではない。しかし「好きなもの」を守るため、今、現実世界で何が起ころうとしているのか先取りしておくのは大切ではないだろうか。

取材・文:来栖美憂
くるす・みゆう フリーライター。人文、社会問題、サブカルチャーなどを主な守備範囲とし、雑誌・新聞・ネット等、メディアを問わず、記事の取材・執筆を中心に活躍。著書多数。

取材協力:同人作品ダウンロードサイト・DL .Getchu.com(ディーエルゲッチュコム)
URL:dl.getchu.com
X ID:@dl_cosplayer