「ザイオンの穴」を埋める新守護神・小久保玲央ブライアンこそ、パリ五輪グループステージ突破のキーマンだ
4月のパリ五輪アジア最終予選(U23アジアカップ)では正守護神として大活躍した小久保玲央ブライアンも、その立場がパリ本番にそのままつながるかと言われれば、また別の話だった。この世代には「鈴木彩艶」という絶対的守護神がいるからだ。
好セーブを連発した小久保玲央ブライアン photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
鈴木は2002年生まれながら前回の東京五輪に最年少18歳で選出され、カタールワールドカップ以降の第2期・森保ジャパンでは正GKを務め続けてきた。今年1月のアジアカップでは少々苦戦したが、それでも飛び級でさまざまな世界を経験している。つまり、経験値ではずば抜けている鈴木がこの世代にいることは、安心材料のひとつでもあった。
だが、夏の移籍市場と時期的に被り、クラブに拘束力のない五輪本番において、確実に招集できる選手などはいない。6月のアメリカ遠征でのU-23アメリカ戦では小久保がフル出場し、メディアも「鈴木はどうしたのか」と疑問を持ったが(大岩剛監督は「変な意図はない」と説明)、時間が経つとともに移籍の噂がちらほら聞こえてきた。結局、鈴木はパリ五輪のメンバーに選出されることなく、最近になってイタリアのパルマへの移籍が発表された。
五輪初戦のパラグアイ戦に向けて、最後の調整試合となった7月17日のフランス戦。ゴールマウスに立ったのは小久保だった。
試合序盤は、高速で迫ってくるアレクサンドル・ラカゼットとジャン=フィリップ・マテタのオーバーエイジの2トップに翻弄された。相手が勝手に外してくれたと表現する向きもあるが、絶妙に小久保が間合いを計り、シュートミスを誘った結果に見えた。47分にはミカエル・オリーズにミドルシュートを許したものの、その後も好セーブを披露。特にハイボールに対しては、身長とリーチのアドバンテージを感じさせた。
また、82分にはカウンターから相手選手と1対1になるが、「自分は1対1(の強さ)も特長としている」と冷静に対応し、シュートをひざで食い止めた。90分を通して日本は必死に守り、どうにか勝ち点1(に相当する引き分け)を手に入れた。
【まるで少年漫画のようなチームスピリット】攻め込まれながらも失点を1に抑えたことに、小久保は手応えを感じつつ課題も口にした。
「ラカゼット選手やそういう選手が(ゴール前に)降りてきた時に、そのまま(マークを)引き連れちゃうと相手の中盤の選手が背後を狙っているので、そこのケアをもっと自分がコーチングしなければ。任せるだったり、行ききるだったり、誰かがカバーに入るっていうところを、初戦まで残り少ないですけど、合わせていかなきゃいけないなって思っています」
五輪本番もスタメンGKは小久保に決まりだろう。だが、かといって小久保自身には、意外なほど気負いがない。
「このチームにとっていつでも力になりたいなと思っているので、それはベンチに座っていても変わらないです。でも、一番手で出られるならうれしいので、勝つことを最優先に、自分が少しでも力を添えられればと思います」
キーパーという1試合にひとりしか出場できず、しかもほとんどの場合、大会中にそれが変わることはないポジション。だが、「俺が絶対に試合に出る!」という気持ちは、ここにくると薄れるのだという。
「15〜16歳で代表に呼ばれ始めた時は、やっぱり『自分が!』じゃないですけどアピールしていこうって気持ちでした。だけど、この代表のこの雰囲気で、そんなことは言えない。正キーパーという自覚より、なにより出たら『俺、やりますよ!』っていう気持ちに心の底から思えるんです。もう、それは本当に嘘なしで。
シント・トロイデンだったら、正キーパーとしてしっかり自分の存在を出さなきゃいけないって思うかもしれないですけど、ここではそんなのを出したくないし、出す気にならない」
だからこそ、U23アジアカップでは優勝という結果を出せたし、五輪でもみんなで頂点を目指そうという一体感があると強調する。
「チームはすごい雰囲気がよくて、U23アジアカップ(五輪予選)ではそれが結果になった。全員で勝って優勝しようっていうチームに近づいているなと思います」
まるで少年漫画のようなチームスピリットを、小久保は熱く語った。この日のフランス戦で対峙したラカゼットやマテタのような圧倒的なオーバーエイジの個の力はなくても、彼らは本気で頂きを目指している。