日大藤沢・半田南十は百戦錬磨の指揮官も天才と認める超逸材 「守備は源田壮亮、バッティングは鳥谷敬」
全身のしなやかな連動から放たれた打球が、あっという間にライトフェンスを直撃したから驚いた。
ひとつ前の打席で右中間に大きなホームランを叩き込んだその次の打席。高校生なら、それも2年生なら、ふつうはもっと無駄に力が入ってタイミングとスイングが崩れ、引っかけ気味の内野ゴロか、詰まった内野フライになるものだ。
そんな斜に構えた見方をしていたら、逆に無駄な力がいっさい入っていないコンパクトなスイングからのジャストミート。新基準の低反発バットもなんのその。高校生の放つ打球ではなかった。
日大藤沢の2年生遊撃手・半田南十 photo by Ohtomo Yoshiyuki
だから言ったじゃないか、「天才」だって......。ちょっと前、ある高校野球雑誌の地方大会展望号に、そんな表現を使って記事を書いていた。
その選手の名は、日大藤沢の2年生遊撃手・半田南十(176センチ・70キロ/右投左打)。南十と書いて「みなと」と読む。南十字星のように輝いてほしい......父が名づけてくれたそうだ。
「天才ですか......? うーん、私も天才だと思います。とくにバッティングに関しては、どこに出しても恥ずかしくない才能と技術を持っていると思っています」
高校野球の指導はまもなく30年。現役時代は社会人野球の強豪チームで数多くの偉才、逸材を見てきたはずの日大藤沢・山本秀明監督すら認める才能の持ち主だ。
「バッターの真価は、ホームランを打った次の打席でわかるんだぞ。そう言って送り出した直後でした。言われなくても、もしかしたら本人が一番よくわかっていたのかもしれない。頭が下がります」
指揮官も脱帽した、文句なしの完璧なスイングからの一撃だった。
この春の神奈川県大会だ。「こんな選手がいたのか」と驚いた。試合前のシートノックを見て、源田壮亮(西武)だと思った。スラッとしたしなやかな体のシルエット。足が使えて、打球の軌道にスッと足が入っていくフットワーク。決して強く投げようとしすぎにない安定したスローイング。自分の「型」を持っている。球界の名手のフィールディングに重なって見えた。
試合が始まって、その前半。いとも簡単に、ヒットを打てる。今度は、今年のドラフトの目玉である宗山塁(明治大)だと思った。
そして試合終盤、右中間へ弾丸ライナーがぐんぐん伸びて、三塁打になった。「いや、宗山じゃない......こりゃ、鳥谷敬(元阪神ほか)だ!」と。
とんでもないショートストップを見つけて、これだけの選手が2年生だとあとから知って、「ええっ??」とひっくり返った。
【入学直後の練習試合で圧巻の一発】昨年春、入学直後の練習試合で、日大藤沢グラウンド右中間の高いネットを軽々越えていった「第一弾」を皮切りに、翌日の試合でももう1本追加して、意気揚々と始まった半田の高校野球生活。この春に見せてもらったのは、むしろ卓越したバッティング技術だった。
追い込まれても、カットで逃げたりしない。きちんと自分のミートポイントをつくって、しっかり振り抜いて三塁側に痛烈なファウルにしている。相手の外角攻めを見越して、意識は左中間方向だ。初球から外のスライダーを見事におっつけて三遊間へ弾き返す。逆方向にも強く振って、「バッティング」になっているから強烈な打球がいく。真っすぐ待ちでも、楽々、変化球にミートポイントをつくれている。
「インパクトまでのアプローチを大切にしています。バットのヘッドをうしろから前に長く走らせて、ボールの軌道にバットを入れていく感じです」
警戒されているから誘い球が多くなるが、ボールカウント3−0からでも、ヒットになる球だと思えばフルスイングで攻めにいく。ちょっと引っ張りすぎてスイングを崩したかな......と思ったら、次のスイングは一転、センター方向へ大きく飛ばして自身のバッティングから"雑味"を消し去ろうとする。
見ていて語れる選手というのは、間違いなく能力が高い。
バッティングとフィールディングに目を奪われがちだが、50m6秒2の俊足を飛ばして、ロングヒットでのベースランニングは、一瞬の判断力がそのスピードをフルに生かしている。
「この夏、どうしても叶えたい目標っていうのがあって、打率5割のホームラン3本。世話になった3年生のための"夏"ですから、そのために自分が少しでも役に立てれば......」
その才能の片鱗を、初戦からいきなり発揮してくれた半田の夏。
逸材、天才と、あまり持ち上げては本人の重荷になるかなとも考えたが、いずれ大きな期待を背負ってプレーしていく選手だ。この程度の"圧"なんてなんとも感じていないんで......と跳ね返してくれるに違いない。
日大藤沢の半田南十から目が離せない。