◆刺青の存在を知った父の反応は…

――幼少期の蛇喰さんはどんな女の子だったのでしょうか?

蛇喰るり:とにかくお転婆で、クラスメートの男の子から売られた喧嘩は買うみたいな戦闘的な子でした(笑)。そのため、ほぼ毎日学校から電話がかかってきて、母が謝る姿を見ていました。家族が仲良くて、「母にこれ以上迷惑をかけたくないな」と思った小学校高学年あたりから、問題児ではなくなっていくのですが。中学校では剣道部に入ったので、もう喧嘩を売るとか買うとかはなくなっていました。

――ご家族が仲良しとのことですが、刺青に対する反応はどんなものでしたか?

蛇喰るり:特に相談せずにタトゥーを入れたのですが、そこまで強い反対はなかったですね。父が刺青を知ったのはつい最近なんですよ(笑)。たまたま服の隙間から見えたらしくて、「もしかして入れてるの?」って。もう成人している娘ですので、驚いてはいましたが、それで関係性が変わるようなことはないですね。

◆他人の人生に干渉する余裕がない

――特に女性の場合、ライフステージとともに「刺青を入れたことを後悔するのではないか」という指摘がありますが、この点はいかがですか?

蛇喰るり: 確かにネット上のそうしたコメントも承知していますが、知らない他人の老後を心配してくれる優しい人なのか、正直どう思えばいいかわかりません。

 個人的には、「ママ友などとの関係性において苦労する」というのも想像できないんですよね。出産によって体型が崩れてしまうのが許せなくて、自分の子どもを生む予定がないんです。それでも親戚の子どもたちに愛情を注いでいるし、可愛くて仕方ないと思えるので、幸せなんです。

 今、私は自分の仕事を全うして、なりたい自分に向かって一歩ずつ近づいている最中なので、他人の人生に干渉する余裕がありません。自分と周囲にいる人たちを大切にしながら、私の活動をみて共感してくれる人たちの活力のような存在になれたらと願っています。

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 蛇喰氏の人生の根幹には美意識という屋台骨が走っている。芸術的な視座を持っていることはもちろん、人生の選択のほとんどを“美しいか美しくないか”で判断してきたといえる。

 自分らしく、軽やかに。他人を傷つけない代わりに、毒を送ってくる相手にはひらりと身をかわす。人間関係に疲弊し、自分をすり減らして他人の役に立つことでしか存在意義を見出だせない人が多いなかで、彼女の生き方には一定の見どころがある。次々に浮かぶ身体改造の構想を形にし、アップデートされていくのは身体だけではない。茨をするりと抜けて、ヘビのごとく精神的な脱皮を繰り返す。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki