連載『山本昌のズバッとスクリュー』<第3回>

 開幕から混戦が続く今季のセ・リーグ。7月12日時点の順位表を見ても、首位・巨人から4位・阪神までがわずか1.5ゲーム差以内にひしめいている。最下位・ヤクルトまでは9.5ゲーム差と開き始めたが、パ・リーグの首位・ソフトバンクと2位・ロッテとのゲーム差(8)と大差なく、いかにセ・リーグの団子状態が続いているのかがわかる。

 今回も50歳まで現役生活を送った中日のレジェンド・山本昌氏に、"混セ"の要因と、後半戦から抜け出すための"キーマン"について"ズバッと"解説してもらった。


「つなぎの4番」として機能する広島・小園 photo by Koike Yoshihiro

【大混戦が続くセ・リーグ。抜け出すのは?】

 今季のセ・リーグを振り返ると、開幕当初から戦力的には拮抗した状態でスタートしましたが、不調や故障による主力の離脱が多く、どこのチームも頭ひとつ抜け出せないまま前半戦を終えるところまできているように思います。

 戦力差はあまりないということを考えても、現時点ではAクラス、Bクラスの予想は非常に難しい。後半戦に入ってからもコロコロ順位が変わるような、例年以上の混戦模様が続く可能性もありますから、いち早くベストメンバーを揃えてチーム状態を上げていけるか。そこが大きなポイントになってくるかなと思います。

 それによって、大型連勝ができたチームがすぐさま上位に、あるいは首位となり、他チームとの差を一気に引き離すことも十分に考えられる。そもそも、今季は8連勝、9連勝をするようなチームっていないじゃないですか。だから、貯金が増えず、ずっと"混セ"が続いている。それぞれ問題を抱えていますが、その現状を早く打破し、ベストメンバーで戦える状態に戻すことができたチームが、後半から抜け出してくるのではないでしょうか。

【広島の後半戦の"キーマン"は未来を担う野手の台頭】

 ここからチームごとに後半戦の"カギ"はなにか、僕なりの見解をお話していきたいと思います。まず、広島カープですが、開幕前は決して下馬評は高くなかったところから、新井貴浩監督はここまでチームをうまくまとめ上げてきましたよね。

 広島といえば、昔から金本知憲さんや江藤智さん、近年だと丸佳浩選手(現・巨人)や鈴木誠也選手(現・シカゴ・カブス)、昨年には西川龍馬選手(現・オリックス)と、FAで主軸の選手が抜けることが多いチームという印象を受けます。それでも現有戦力での底上げを基本線に、なんだかんだ首位争いができるところまでのチームづくりと試合中の采配力は、本当にすばらしいなと感じます。

 それを象徴しているのが、4番に小園海斗選手を起用するという、つながりを重視した打線の組み立てです。投手心理としては、チャンスの場面でホームランバッターを迎えるのはもちろん怖いですが、しぶといバッターと対戦するのもすごく嫌なんですよ。今季の広島打線は後者で、小園選手が持ち味の勝負強さと粘り強さを発揮し、「つなぎの4番」としてしっかり機能しています。

 今季は新外国人選手がケガや打撃不振でなかなか1軍に上がれず、全体的に長打力不足だということもありますが、彼の高い技術、確実性のあるバッティングを見ても、4番を打つバッターとして最善の選択ではないでしょうか。

 あとは、もうひとり、野手から未来のスター候補となるような選手が出てくるといいですね。それこそ広島がリーグ3連覇した時は"神ってる"鈴木誠也選手が活躍し始めて、チームの主力となったことが大きかった。なので、現状キーマン云々ではなく、もうひとり新しい戦力がブレイクすることが、これから抜け出すうえでの"カギ"となる気がします。

【DeNAとヤクルトは主力打者の復調が今後を左右する】

 DeNAは、やはり強力な打線がポイント。これに関してはリーグ随一ですし、12球団を見回してもトップクラスの強さだなと感じます。なかでも主軸の牧秀悟選手や宮崎敏郎選手、タイラー・オースティン選手は安定感がありますし、年間で打率3割打てる実力もある。彼らのような長打力と確実性を併せ持つ選手が並ぶ打線は、本当に怖いと思いますよ。

 強いて言えば、佐野恵太選手がもう少し状態を上げてくれれば、さらに打線に厚みが出てくる。もちろんいい場面で打ってはいるんですけど、もともと3割打てる力があるので期待も大きいですし、彼が持つ技術どおりのバッティングができれば、必ず成績は上がっていくはず。なので、3割目指してもうひと頑張りしてほしいですし、より恐怖心のある新たな「マシンガン打線」を見たいですね。

 ピッチャーに関しては、東克樹投手という柱はいるのですが、もうひとり、ふたり信頼感のある選手が出てくるといいなと。それでも貯金がある状態で戦っているわけですから、三浦大輔監督がしっかりやりくりして、投手陣を導いているなという感じはしますね。

 一方で、最下位に沈むヤクルトは、ケガ人が続出していることがこの順位に表われているように思います。とくに塩見泰隆選手の離脱は痛い......。ヤクルトには村上宗隆などすばらしい選手がたくさんいますが、僕としては、塩見選手がいてこそのチームだなと感じるんです。トップバッターとしてパンチ力があり、技術もあって、さらに走れて守備もうまい。この選手がいるといないでは大きく違います。

 左前十字靱帯(じんたい)と半月板の損傷ということで、復帰にも時間がかかると思うのですが、焦らずしっかりと治してほしいですね。

 こうしたチーム状況を考えて、塩見選手の離脱をカバーできるのは、やはり山田哲人選手ではないかと思います。トリプルスリーを3度達成しているポテンシャルの高さは言わずもがな。その頃のパフォーマンスを、まだまだ出せる年齢だと思いますし、上位打線に入ってしっかりつながるようになれば、現状を打破する大きなきっかけになるのではないでしょうか。

【阪神は優勝を支えた"クリーンアップ"揃い踏みの活躍に期待】

 昨季、圧倒的強さで春先から首位を独走し、18年ぶりのリーグ優勝と38年ぶりの日本一を達成した阪神は、予想以上に苦しんでいるなと感じます。

 春季キャンプで岡田彰布監督に取材させてもらったんですけど、「昌、ウチ昨年より強いよ」と仰っていて。主力は年齢的にも脂が乗っている選手が多いですし、開幕メンバーも昨季とほとんど変わらなかったので、岡田監督が話していたとおり、今季も上位にいるのは間違いないだろうと思っていました。ですので、成績が伸び悩むこの現状は、けっこう意外でした。

 その要因としては、やはりなかなか点が取れない打撃陣にあるかなと。特に重症なのは、昨季クリーンアップとしても活躍した3選手。4番の大山悠輔は、出塁率.403をマークして最高出塁率のタイトルを獲得した昨季と比べ、打率は伸びず、四球の数も減ってファーム落ちも経験。5番の佐藤輝明選手も不振や守備のもろさが原因で長らく1軍に合流できずにいました。3番を打っていた森下翔太選手も打率1割台を推移している時期が続き、状態が上がらず現在2軍調整中です。

 こういった主軸を担う選手たちの調子の悪さもあり、本当にうまく得点できないな、というのが前半戦の印象です。でも、逆に、このチーム打率や得点数でよく貯金を作れているなと思いますね。

 おそらくそれは、才木浩人投手をはじめとするエース級のピッチャーたちが、リーグのなかでトップ級の活躍をしているからこそ。なので、あとは打線、クリーンアップの調子が上がるのを待つだけです。でも、ただ上がるだけではなく、森下、大山、佐藤輝の3人が揃い踏みで活躍しないと意味がないんじゃないかと、僕のなかでは感じています。

 いま貯金があるということは、後半戦、クリーンアップの状態次第では一気に突き抜ける可能性もありますから、彼ら3人に期待したいなと思いますね。

【巨人は丸の好調維持、坂本の打棒復活がポイント】

 巨人は首位争いをしていますが、正直、いまの状況がいいのか悪いのか、いちばんわかりづらいチームなんですよ。小さい連勝があれば、小さな連敗もあり、状態が上向いてきたと思ったら負けが先行したりと、なかなか判断が難しいんです(笑)。

 選手で言うと、坂本勇人選手がファーム調整で一時1軍から外れるなど不安材料はありましたが、絶好調の丸選手がチームを引っ張っていますね。巨人は比較的、経験豊富なベテラン選手に比重をおいたチームですので、丸選手に加えて坂本選手が状態を上げてくると、すごくどっしりとした戦いができるのではないかと思います。

 ピッチャーだと戸郷翔征投手、山崎伊織投手、菅野智之投手と計算できる先発がいますし、リリーフも大勢投手と中川皓太投手が1軍に戻り、盤石な投手陣になってきたなという印象です。

 大勢投手はケガが多いので、正直、しっかり治した方がいい気もするんですけど、やはりあれだけの球威を持つピッチャーはなかなかいないので、たとえ万全でなくてもブルペンにいてくれるだけで助かりますね。中川投手にしても、調子さえ上がってくれば打つのは難しいピッチャーです。今季の巨人は終盤までもつれた試合を落とすケースも見られるので、このふたりが戦列に戻ってきてくれたことは非常に大きいなと思います。

 このように、先発・中継ぎ陣は数年前に比べるとかなりよくなってきて、柱もできつつあるところまできていますから、あとは阪神同様に打線の復調のみ。トップバッターの丸選手がこのまま好調をキープし、4番の岡本選手が調子を上げ、その前後に坂本選手を置いて定着できれば、打線のつながりも出てきてチーム状態も上がってくると思いますよ。

【中日は石川昂弥の覚醒で上昇気流に乗れるか】

 最後に中日ですが、今季は序盤に8年ぶりに首位に立ったり、連勝もありましたが、前半戦終了を前にして、借金を抱えながら5位まで下がってしまいました。この現状を見て感じるのは、やはり中田翔選手の活躍次第で、チーム成績は全然違ったんじゃないかということです。

 シーズン当初はガンガン打って打点を稼ぎ、ランナーがいなければしっかりとチャンスメイクをする。それで勝利につながっているゲームがたくさんありました。いまはケガでファームに落ちて調整しているんですけど、中田選手は毎年ケガと戦っているので、まずは体を万全にして早く1軍に帰ってきてもらいたい。それぐらいいまの中日にとって彼の存在は大きく、必要不可欠だと思いますから。

 その間、チーム上昇のキーマンとして石川昂弥選手の名前を挙げさせてください。今季は1軍と2軍を行ったり来たりしていましたが、ここにきてようやく定着し、ヒットも出るようになってきました。

 彼については各球団の関係者の人たちから話を聞くんですけど、「フリーバッティングでものすごい打球を飛ばす」とか、「構えている時の雰囲気を見ると怖い」とか。すばらしいバッターとしての素質を感じさせるような感想ばかりなんです。

 同期にはロッテの佐々木朗希投手やヤクルトの奥川恭伸という本当にすごいピッチャーがいる中で、2019年のドラフト会議で中日は石川選手を選択し、3球団競合の末に引き当てました。将来の主軸を担う存在であることを確信していますし、そろそろ覚醒の域に入ってくれるんじゃないかと思っているなかで、いま、状態がだんだん上がってきている。このまま定位置を確保してくれることを期待したいですね。

 細川成也選手やオルランド・カリステ選手、福永裕基選手も調子がいいので、そこに石川選手も加わりつながりある打線が組めれば、他の11球団と比べても全然引けを取らない打撃陣になると、僕は思っています。ピッチャーだけで言えば12球団でトップクラスの布陣ですから、打線がいい感じで回れば連勝し、上位に顔を出せる可能性も十二分にある。僕としては古巣なので、なんとか頑張ってもらいたいですね。

【Profile】

山本昌(やまもと・まさ)/1965年生まれ。神奈川県出身。日大藤沢高から1983年ドラフト5位で中日に入団。5年目のシーズン終盤に5勝を挙げブレイク。90年には自身初の2ケタ勝利となる10勝をマーク。その後も中日のエースとして活躍し、最多勝3回(93年、94年、97年)、沢村賞1回(94年)など数々のタイトルを獲得。2006年には41歳1カ月でのノーヒット・ノーランを達成し、14年には49歳0カ月の勝利など、次々と最年長記録を打ち立てた。50歳の15年に現役を引退。現在は野球解説者として活躍中。

佐藤主祥●構成 text by Sato Kazuyoshi