【2024ノルウェー最新情報】ムンクの《叫び》が見たい! オスロの二大美術館の楽しみ方
叫んでいるのは誰!? 名画《叫び》の基礎知識
青白い顔を両手でおさえた、絶望的な表情――。本物は見たことがなくても、美術の教科書や絵文字、はたまたパロディ作品などでそのビジュアルを知っている人も多いのではないでしょうか。
《叫び》(ノルウェー語Skrik、英語The Scream)は、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクEdvard Munch(1863-1944)の代表的な作品。 クリスチャニア(現・オスロ)のフィヨルドと街を見下ろすエーケベルクの丘から見た夕暮れの景色を描いたもので、疲れて立ち止まったときに目にした、ムンク自身の体験がモチーフになっています。
背景に描かれた濃紺の海と、血のように赤く染まった夕焼け空が、なんともおどろおどろしくみえます。赤い空にゆらめく雲はまるで音波のように描かれており、自然の叫びが表現されているといわれています。
そして、耳をつんざくようなその叫びを聞いた唯一の人物。一見、人が頭を抱えて絶叫しているようですが、自然から聞こえてくる叫びに耳を塞いでいる、というのが正しい解釈。幼少期から病弱で、母と姉を病気で亡くし、死や不安、恐怖心と常に隣り合わせだったムンクが抱いた、自然への畏怖の念が感じられる作品なのです。
最初の《叫び》を見に、まずは「国立美術館」へ
実はムンク、同じ題名、同じ構図で、異なる画材を使った作品を複数描いていて、《叫び》も2カ所に4種類の展示があります。
世界的に認知された《叫び》は1893年に発表された油彩。現在は2022年6月にリニューアルオープンした「国立美術館」に収蔵されています。「国立美術館」は文化・芸術が一堂に会するノルウェー最大の美術館。オスロ市内にあった既存の美術館を統合し、収蔵数40万点以上、常設展示は6500点以上と、北欧最大級の規模を誇る美の殿堂です。
そんな「国立美術館」2階の中央部に、ムンクの作品だけを集めた部屋が2つ設けられています。さすがノルウェーを代表する画家!
2階の部屋番号59・60がエドヴァルド・ムンクの展示室。初期の作品を中心に飾った59番の部屋を通って、60番の部屋へと向かいます。 60番の部屋は出入口を除き、360°すべての壁にムンクの作品がかけられています。その中で《叫び》は部屋に入った目の前、同じく彼の代表作である《生命のダンス》の右に展示されています。
ルーヴルの《モナ・リザ》のように特別丁重に飾られているのかと思いきや、意外と普通。保護ガラスに入れられることも、絵の手前に接近防止の柵を設けることもなく、間近で絵画鑑賞に没頭できます。
美術館が移転する前、1994年に1度盗難に遭った油彩の《叫び》。近年も世界各地で名画が襲撃される事件が多発しているなかで、なぜここまでの展示ができるのでしょう? その秘密は、また後ほど……。
■国立美術館 Nasjonalmuseet
交通:トラム11・12番 Aker Bryggeから徒歩1分
所在地:Brynjulf Bulls plass 3
TEL:+47 2198-2000
時間:10〜17時(火・水曜は〜20 時)
休み:月曜
料金:200Nok.
URL:www.nasjonalmuseet.no/
※公式サイトから日にち指定券が購入可
別パターンの《叫び》を見比べるなら「ムンク」へ
1893年に発表された油彩の《叫び》を「国立美術館」で鑑賞した後は、ぜひ異なるパターンの《叫び》も見に行きましょう。
向かう先は新興地区ビョルヴィカに、2021年10月に完成した13階建ての美術館「ムンク」。エドヴァルド・ムンクの生涯と芸術すべてが詰め込まれた美術館で、一人の芸術家に特化した美術館としては世界最大級の規模といわれています。
ムンクがオスロ市に遺贈した作品は約2万8000点といわれ、手紙や写真、備品なども4万2000点以上。そのごく一部が「ムンク」で一般公開されています。
直行していただきたいのは《叫び》をはじめ、彼の代表作が集められた4階のフロア。愛、性、死ぬということ、孤独など、12のテーマに区切られた展示室です。決まったルートはなく、行き来は自由。自分の好きな場所で、好きなだけ鑑賞を楽しめます。
タイトルをそのまま冠した「叫び」の展示室では、3バージョンの《叫び》が展示されています。《叫び》は皆が鑑賞したい作品なので、ほかのテーマに比べて混雑度も高め。4階に着いたら、まずここへ向かいましょう。
ほかの部屋に比べ、《叫び》のある展示室は照明が暗く落とされています。3カ所に接近防止の柵がつくられて、セキュリティも厳重。そして公開されているのは1点。……あれ? 3種類あるのでは?
実は「ムンク」の《叫び》は30分交代で、1点ずつ公開されています。 キャンバスに描かれた油彩に比べ、厚紙に描かれたテンペラ・油彩画やクレヨン画はもろく、湿度や気温、酸素レベルなどの変化で劣化します。「ムンク」では劣化や破損を防ぐため、他の2点は厳重に扉が閉ざされ、時間外はまったく見られなくなっているのです。
実験的にほかの手法で描くことを好んだムンクは、1890年代、パステルやクレヨンで絵を描いていました。1893年発表のクレヨン画の《叫び》もそのひとつ。「国立美術館」収蔵の油彩と同じ年に描かれた作品ですが、画材の繊細さやもろさから、ムンクが《叫び》で表現したかったことがより伝わってくるようです。
厚紙にテンペラ・油彩で描かれた《叫び》は、1910年ごろの作品。素朴な額縁も相まって、「国立美術館」収蔵の作品と異なる印象を受けることでしょう。表情や体の曲線など、インパクトが増した人物の描かれ方も興味深いです。
ちなみにこのバージョンも、2004年に旧ムンク美術館から盗まれるという憂き目にあっています。奪還はしたものの損傷が激しかったといわれており、壮絶な歴史が作品から感じられるかもしれません。
ムンクはグラフィックアーティストとしても世界的知名度を誇り、たくさん発行できる印刷物は絵画よりも認知度が高かったといいます。「ムンク」で展示されているのは、1895年に刷られた白黒のリトグラフ。ぜひこれも鑑賞しましょう。
これら3バージョンをすべて見るためにはだいたい1時間は必要です。一度に見比べることはできませんが、「国立美術館」と同様に「ムンク」でもここまで世界的に有名な作品をゆっくり鑑賞できるのは非常に貴重な経験といえます。ぜひ時間をとって、じっくり見てみてください。
■ムンク MUNCH
交通:オスロ中央駅から徒歩13分またはトラム13番Bjørvikaから徒歩5分
所在地:Edvard Munchs Plass 1
TEL:+47 2349-3500
時間:10〜21時(日〜火曜は〜18時)
休み:なし
料金:180Nok.
URL:www.munchmuseet.no/en/
※公式サイトから日時指定券を予約購入が望ましい
オスロでの美術鑑賞をより楽しむための5つのヒント
「国立美術館」も「ムンク」も、コロナ禍にオープンした比較的新しい美術館です。そのため、訪ねる前にぜひ覚えておきたいことがありますので、出発前に確認しておきましょう。
1) 入場券はオンラインで購入可能
どちらの美術館もエントランス部分にチケット購入窓口がありますが、週末や繁忙期は混雑が予想されます。スムーズに入場するために、各公式サイトからチケットを購入し、スマホに二次元コードを保存(あるいは印刷して保管)しておくことをおすすめします。「ムンク」は日にちと時間を指定できるので、スケジュールが立てやすくなりますよ。
2) 手荷物は最小限で訪れるのが鉄則!
どちらの美術館も、展示室へ入る前には入場券のチェックとともに警備員による荷物検査があります。ここで、危険物の持ち込みがないかチェックされるというわけです。
なお、持ち込めるのは、貴重品が入るハンドバッグ程度のかばんのみ。作品の保護や保安上の観点から、コートや傘、大きな荷物(A4サイズ以上)はすべて、専用ロッカーへの収納が義務付けられています。展示室内は飲食厳禁のため、蓋付きであっても飲み物類はすべてロッカーへ。
ロッカーはホテルのセーフティーボックスのように、自分で好きな数字を組み合わせてロックをかけるタイプ。似たようなロッカーが並んでいるので、ロッカーの番号を忘れないよう、スマホで撮影しておくといいでしょう。
3) 撮影はOK!(ただしノーストロボ)
「国立美術館」「ムンク」ともに、館内の写真撮影に関しては寛容です。ハッシュタグをつけてのSNS投稿もウェルカム。ただし作品保護のため、フラッシュ撮影は禁止。周りの人の迷惑にならないよう、作品を傷つけないよう、マナーを守って楽しみましょう。
4) オーディオガイドでより詳しい解説を
各美術館、オーディオガイドが充実しています。「ムンク」はエントランスの有人窓口で、デバイスとヘッドホンを借りる従来のスタイルです(1台49Nok.・英語)。
「国立美術館」は公式アプリ(無料)をダウンロードして、自分のスマホから聞く手法。なんと日本語も用意されているので、しっかり鑑賞したい人は事前にアプリのダウンロードとイヤホンを準備しておくといいでしょう。
5)おみやげも充実しています!
1944年没のムンク。作品はパブリックドメインですので、多くの人気作品がおみやげのモチーフになっています。一番インパクトがあるのはやはり《叫び》。「ムンク」のミュージアムショップでは、マグネットや文具、Tシャツなど、数多くのアイテムが揃うので、ぜひお気に入りを探してみてください。
text: 森本有紀
photos: 井田純代
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