(写真はイメージです:Fast&Slow/PIXTA)

7月3日から新紙幣が発行されます。20年ぶりの改刷により、千円札、5千円札、1万円札のデザインや肖像画が一新されます。お札が新しくなると、私たちの暮らしにはどのような影響があるのでしょうか。

旧紙幣はそのまま使える

新しい紙幣が発行されても、これまで使っていた紙幣は今まで通り使えます。紙幣には法律によって無期限の通用力が定められているため、日本銀行(以下、日銀)が明治18年以降に発行した紙幣は、聖徳太子や伊藤博文が肖像として描かれたものなども含め、今後も発行当時と同じ額面として使うことができます。

日銀によると、新紙幣は発行開始日である7月3日以降、日銀から金融機関に支払われ、金融機関での準備が整い次第窓口やATMを通して流通するようになるといいます。個人の手元に届くまでにはしばらく時間がかかるかもしれませんが、古い紙幣も引き続き通用するため、新紙幣に交換する必要はないとしています。

ですから日常の買い物などにおいては、基本的には新紙幣発行によって大きな支障はないと考えられます。

しかし、自動販売機や券売機については一部で混乱が生じる見通しです。新紙幣に対応できる機器への更新にはコストがかかるため、お店や施設によって対応が分かれたからです。

大きくは、新紙幣が使える機器に交換したところ、旧紙幣のみが使える機器を引き続き設置しているところ、新紙幣発行を機にキャッシュレス決済のみに移行したところの3つに分かれますが、選択は各事業者に任されています。どこのお店で何を使って支払いができるのか、その場に行ってみないとわからないということもありそうです。

とりわけキャッシュレス決済については、国の推進政策も相まって全国的に普及が進んでいます。政府の成長戦略では2025年までに、キャッシュレス決済比率を4割程度とする目標を掲げており、すでに2023年現在で39.3%に達しています(下図)。

(※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


(出所)経済産業省の取りまとめ調査より東洋経済作成

新紙幣発行のタイミングでキャッシュレス決済に対応するお店や商業施設などが増え、さらに普及が加速するともいわれています。

筆者の肌感覚でも、クレジットカードや電子マネー、スマートフォンでの決済に対応するレジや券売機などはこの数年で増えたと感じます。コロナ禍にセルフレジの導入が進んだことも関係しているのかもしれません。

現金の新紙幣導入がキャッシュレスを促進するとはいささか不思議な気もしますが、こうした状況下で事業者が機器の更新に迫られるとなると、旧紙幣から新紙幣への対応というよりも、むしろキャッシュレス対応に動くというのもたしかに頷けます。

現金決済の比率は急減

金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、日常の決済手段として現金が用いられている比率は1000円以下の支払いで63.3%、1万円超5万円以下の支払いで26.5%です。いずれも2019年に比べて、20ポイント以上減少しています。そう考えると、業種や顧客のニーズ、地域性などによる多少の違いはありうるものの、私たちが現金を使う機会は今後さらに減っていくのかもしれません。

すでにキャッシュレス決済を使い慣れている人にとってはそれほど不便はなさそうですが、これまで現金中心に買い物をしていた人にとっては、やむを得ずキャッシュレス決済を選択せざるを得なくなることも想定されます。

キャッシュレス決済に対応するにはクレジットカードや電子マネーを利用するほか、スマートフォン決済(スマホ決済)という手もあります。折りしも、デジタル活用の推進事業として、いくつかの自治体ではスマホ購入補助を行っています。

たとえば東京都江戸川区では、スマホを持っていない18歳以上の区民に、上限1万円(1世帯につき1台)を補助しています。携帯電話(ガラケー)からの機種変更も対象です。

文京区ではスマホを初めて購入する65歳以上の区民向けに上限2万円を補助しています。いずれもスマホ本体の購入費のほか、充電器、契約事務手数料やデータ移行手数料なども対象になります。

スマホ購入で最大3万円もらえる地域も

埼玉県秩父市ではスマホを購入する60歳以上の人に、上限3万円を補助しています。本体の購入費(付属の充電器や事務手数料は対象外)のみ補助対象ですが、携帯電話からの買い替えも対象です。

千葉県市川市ではスマホを初めて購入する75歳以上の市民向けに、上限2万5000円、購入費用の2分の1を補助しています。スマホ本体の購入費のほか、充電器、事務手数料やデータ移行手数料なども対象になります。

※上記いずれも、購入または申請期間は2025年3月末までです。予算に達し次第終了することがあります。

これらの補助制度は主にオンラインでの行政手続きを推進する目的として行われているもので、マイナンバーカードの読み取り機能などNFC認証機能がある機種のみが対象です。

ただ、NFC機能のあるスマホの多くはクレジットカードのタッチ決済や交通系ICとしても利用できます。決済アプリをインストールすれば、コード決済を利用することも可能です。日常の買い物でキャッシュレス決済に対応するうえでも、制度を活用できそうです。

キャッシュレス決済の利用にあたって注意したいのが、不正利用や詐欺被害などのトラブルです。カード番号を盗むなどによるクレジットカードの不正利用は年々増加しており、2023年の被害額は約540億円と、10年前の5倍近くにもなっています。

最近はコード決済を通した詐欺被害も増えているようです。

チラシやSNSの広告に掲載された商品を購入しようとコードを読み取ると、決済情報が盗まれて不正利用されてしまう。通販サイトで商品を購入したところ欠品のため商品が届かず、返金を求めると販売者とのやり取りの過程でスマホ決済の支払画面に誘導されて、意図しないまま相手に送金させられてしまう――などといった被害が多数報告されています。

新紙幣に直接関わるものに限りませんが、キャッシュレス決済が日常生活に浸透するにつれ、手口が多様かつ巧妙になっていく可能性には留意が必要です。

不確かな情報で不安をあおる投稿も

新紙幣に関わるものとしては、「旧紙幣は使えなくなるから新しいものに交換します」などといって、電話口で指示をして旧紙幣をATMから振り込ませるような詐欺が発生する懸念も指摘されています。

SNSでは、新紙幣発行によって「タンス預金があぶり出される」「預金が封鎖される」「個人の資産が把握され課税される」など、真偽の不確かな情報を発信し不安をあおるような投稿も目立ちます。仮想通貨の購入や投資を募るものもあるようですので、こうした投稿を通してトラブルにつながる心配も否定できません。

なお、日銀では汚れたり破れたりして使えなくなった紙幣を新しいものに引き換える対応はしていますが、両替や単純な新紙幣への交換は受け付けていません。日銀のサイトには使えなくなった紙幣を引き換えるための受付ページがありますが、同サイトに見せかけたフィッシング詐欺などが発生することも考えられます。新紙幣が発行されても旧紙幣は今まで通り使えることを重ねて意識して、冷静に対処したいものです。

(加藤 梨里 : FP、マネーステップオフィス代表取締役)