おかきでは本来あり得ない“生食感”を楽しむべく作られた「ディップするおかき」。創業から100年超の煎餅店「中央軒煎餅」が誕生させたものだ。2024年6月18日の発売に先んじて東京都内で開催された試食会では、やみつきになるおいしさで感動すら覚えた。新発想のおかきは、どのような経緯を経て生まれたのだろうか。

おかきでは本来あり得ない“生食感”を楽しむべく作られた「ディップするおかき」。創業から100年超の煎餅店「中央軒煎餅」が誕生させたものだ。2024年6月18日の発売に先んじて東京都内で開催された試食会では、やみつきになるおいしさで感動すら覚えた。新発想のおかきは、どのような経緯を経て生まれたのだろうか。

うるち米と、もち米の違い

「ディップするおかき」第1弾は、「桜えびレモン塩おかき×レモンタルタルソース」と「とうもろこし塩おかき×トマトサルサソース」の2種類。7月下旬までの期間限定の商品となる。第2弾は7月25日に発売の予定だ。

「おかき」の新商品だが、そもそも、お煎餅とおかき・あられの違いはご存じだろうか。正直なところ、筆者は知らなかった。答えを教えてくれたのが、今回ご紹介する中央軒煎餅の代表取締役で4代目の山田宗さんだ。

山田さんによると、お煎餅はうるち米を使っていて、おかき・あられはもち米を原材料としているのが最も大きな違い。おかき・あられの違いは厳密にはなく、形状によるものだという。

中央軒煎餅は、東京都板橋区に本社を構える1923年創業の老舗。「花色しおん」という、あられ・煎餅の詰め合わせが人気商品だ。東京・神奈川・埼玉を中心に、百貨店や東京駅構内の商業施設「グランスタ東京」などに16店舗、イオンや東急ストア、駅ビルを含めると約400店舗で商品を展開している。

しょっぱい、甘いという味の異なるお煎餅とおかき7種類の詰め合わせ「花色しおん」(写真/市村幸妙)

中央軒煎餅は「ものづくりのメーカーから“笑顔づくり”のクリエイター・チームへ」をビジョンとして掲げ、新たな価値をもつ商品づくりを目指している。例えば、「kakecco(かけっこ)」という商品は、製造工程の中で発生する、欠けや壊れなどのおかきをパッケージ化。フードロスに貢献するだけでなく、売り上げの3%を国際NGOの「ワールド・ビジョン・ジャパン」へ寄付し、世界の飢餓問題も見据えている。

「おかき」は、手土産の選択肢にならない!?

そんなお煎餅やおかきについて、2020年から同社代表取締役を務める山田さんは10年ほど前に、友人から次のような言葉をかけられたという。

「おかきとかって食べないわけじゃないけど、自分で買ったり人にあげたりする時の選択肢にあがらないよね」

うすうす感じていたことをハッキリと言われてしまい、ショックを受けたのだそう。

なかなか選択肢に上がりづらいのは確かにその通り……かな。そこまでキッパリと言えないが、そのお友達はかなり正直者だ。ちなみに、顧客に対して行ったグループインタビューでも、もそうした声が多く聞かれたという。

若い人にもおかきを食べてほしい!と誕生した「きりのさか」

同社の購買層は、60歳代以上が最も多い。そこで若い人にもチョコレートやケーキなどを買う時と同じテンションで、また大切な人へのプレゼントとして選んでもらえるようにと大人の女性をターゲットにし、2011年に生まれたのが「桐乃坂中央軒」というブランド。2018年にはリブランディングして「きりのさか」とし、よりコンセプトを際立たせたおかきを誕生させた。

さらに、22年から、東京駅構内に、専門店「きりのさか by Chuoken Senbei グランスタ東京店」を展開。素材の風味豊かで軽やかな食感の「玄米ちっぷす」と、ドライフルーツとナッツなどがのったスティック状の「ライスパレット」という2種の独創的なおかきを販売している。

おかきの概念を覆す「ライスパレット」は、ドライフルーツ&ナッツとパルミジャーノ レジャーノの2種類

「きりのさか」ブランドの3つめの商品として開発されたのが、この「ディップするおかき」だった。

アンケート1万8000件から嗜好を分析

全社プロジェクトとして行われた新商品の開発は、今まで通りでは新しいものを生み出せないという決意のもと、2023年8月からスタート。顧客はどんなことに心が動き購買行動に結びつくのか、おかきにはどんな可能性があるのかを探った。

消費行動に関するアンケートを実施。3000人×6回という1万8000件の調査結果から導き出されたキーワードは、「新しい刺激」や「冒険」「季節ならではの特別感」など。そこからプロジェクトチームで出されたさまざまなアイデアは約50件にも上った。「レアチーズケーキの土台におかきを使う」など多くの可能性が検討され、絞り込んでいった結果、「おかきの本質的な美味しさ+αとして新たな価値の提供を目指す」として「ディップするおかき」という表現にいたったという。つまり、ソースをつけて(ディップして)味わうという発想だ。

パッケージは“ソースの沼”にハマってほしいという思いから、抜き加工されていて凝っている

ソースを買い集めて試行錯誤の日々

方向性は決まったものの、どんなものを作ったらいいのか、まるで見当がつかなかったそうだ。

「どういう組み合わせなら心が動くのか、方向性を定めるのが大変だった」と開発担当者。そこで目についたあらゆるソース類を買い集めて、自社のおかきと組み合わせる日々が始まった。

これまでの商品開発は、おかきの味が決まれば完成だった。しかし、新商品の開発では、ディップソースとの相性の難しさやソースが美味しくてもおかきの味が負けてしまうなど試行錯誤が続いた。おかき単品でも、ディップした時でも、それぞれおいしいものを見つけるのが大変だったという。

試作を繰り返していく中で、みんなが「これだ!」と一致する瞬間があった。それが、今回の2種類だ。

因みに、とうもろこしのおかきは、既存の人気商品・とうもろこしをベースにしている。既存品は醤油を使用しているが、こちらの商品ではトマトサルサに合うように、塩味にした上、とうもろこしの量を増やして、ディップしやすい形状に変えるなどの工夫を行った。卵や玉ねぎなどを使ってフレッシュ感を出すための努力も惜しまなかった。

新商品2種を実食してみた!

「桜えびレモン塩おかき×レモンタルタルソース」と「とうもろこし塩おかき×トマトサルサソース」の2種類を実際に食べてみる。

試食でいただいた!(写真/市村幸妙)

最初はまずそのままで、次にディップソースを付けて食べていく。ディップで、味がガラリと変わるというわけではなく、おかきの美味しさが、さらに増すという印象。相乗効果以上になったという感覚だ。

「桜えびレモン塩おかき×レモンタルタルソース」は、餅に桜えびを練り込んで米油で揚げた、エビの香りと風味がしっかりのる揚げおかき。想像の上をいく軽やかさ、サックサクさに感動してしまった。まるごとのレモンを使ったパウダーと果汁のみのパウダーの2種類を使うことで、レモンの酸味や香りだけでなく、ほのかな苦味も感じられる。レモンタルタルのディップソースは、裏ごし玉ねぎ、乾燥玉ねぎ、おろしニンニクを加えたマヨネーズベース。全卵入りで甘みやコクがあるけれど、こちらにもレモン濃縮果汁が入っているので、甘みと酸味のバランスが絶妙だ。

「桜えびレモン塩おかき×レモンタルタルソース」(写真/市村幸妙)

「とうもろこし塩おかき×トマトサルサソース」は、北海道産のスイートコーンパウダーを餅に練り込み、そのパウダーはさらに上掛けとしても使用。おかきはパリッと少し硬めの仕上がりで、とうもろこしの甘みと香りがふんだんに楽しめる。

「とうもろこし塩おかき×トマトサルサソース」

それに合わせるトマトサルサソースは、トマトペーストと濃縮トマトを使って旨みたっぷり。おろしニンニクと玉ねぎで深い味わいを演出。唐辛子を使っているので、ピリリとスパイシーでクセになる味。トマトの濃厚さからは、まさにフレッシュ感も演出されている。

何よりおかき自体のクオリティが高い。素材の風味をきちんと生かしていて、塩分や余計な味で誤魔化していないところが気に入った。さすが、100年もの間、おかきを作ってきたメーカーだ。改めて、おかきという米菓のおいしさに気付かされた。

中にはソースカップが入っているので、手軽にいただけるのもうれしい

暑い夏に食べたくなる2種も、一足先に実食

7月25日発売予定の第2弾の「のり(おかき)×わさびチーズ」と「ガーリック(おかき)×玉ねぎぽん酢」も一足お先に試食した。暑い夏に食べたくなる組み合わせという。たしかに、これは、その通りかもしれない。おいしさに思わずニヤリとしてしまった。

個人的にはこちらの発売がより楽しみな第2弾

「のり×わさびチーズ」は、だし醤油味のおかきには海苔がたっぷり。鰹節と昆布の2種類のダシの旨みが口いっぱいに広がる。それに畳み掛けるように、押し寄せる海苔の風味。おかきに練り込まれた海苔は、開発段階でソースの味が勝ってしまうとの理由で、従来のおかきと比べて倍の量を入れて味のバランスを取ったという。

ディップソースには山わさびを使っており、爽やかで、ほんのりピリッと感がする。辛さはそこまで強くないので、食べる人を選ばない。コクのあるエダムチーズを使っていて、とてもクリーミー。生食感のおかき、という表現がまさにしっくりとくる逸品だ。

「ガーリック×玉ねぎぽん酢」は、まずガーリックの風味がかなりしっかりめでびっくり。サックサクの食感も相まってビールがグイグイと進むおいしさだ。そこにディップする玉ねぎポン酢は、玉ねぎの旨みとゆずの香りが感じられるポン酢でさっぱりといただける。
ポン酢をディップソースにするという発想は目から鱗だった。ますます酷暑になると言われる今年の夏でも、食欲をそそられるだろう。

ディップする量の違いでバランス感が変わるのも楽しい

7月25日〜31日には、4種類の味が渋谷で楽しめる!

取扱店は「きりのさか by Chuoken Senbei グランスタ東京店」、「東急百貨店 渋谷東急フードショー店」、「セレオ 八王子店」、「マルイファミリー 溝口店」、「ルミネ 大宮店」、「中央軒煎餅本店」、「上里工場売店」の7カ所。

7月25日(木)から31日(水)までの1週間は、東急百貨店渋谷東急フードショー店でポップアップストア(期間限定の販売店)が開店する。

6月発売の「桜えびレモン塩おかき×レモンタルタルソース」「とうもろこし塩おかき×トマトサルサソース」と、7月25日発売の「のり×わさびチーズ」「ガーリック×玉ねぎぽん酢」の4種類が並ぶ。

特に6月発売の2種類は、他店舗では7月24日で終売予定なので、ぜひ買い置きしておきたい。というくらい、実食した結果、私は自分用はもちろん、プレゼントにも積極的に使いたいと感じた。

第5弾は2025年2月発売予定

「その季節に食べたくなる味」をテーマにしているから、今後は以下のラインナップを予定している。

●第3弾:9月中旬発売予定でハロウィーンに食べたくなる味
●第4弾:11月上旬発売予定で、クリスマスにリッチな気分になる味
●第5弾:2025年2月中旬発売予定で、春のお出かけやお花見に持って行きたくなる味

100年もお煎餅・おかきづくりに真摯に取り組んできた中央軒煎餅の展開から目が離せない。

玉ねぎ、桜えび、パルミジャーノ レッジャーノの3種類がある「玄米ちっぷす」も素材感があり、軽やかでおいしい

■「桜えびレモン塩おかき×レモンタルタルソース」「とうもろこし塩おかき×トマトサルサソース」(おかき8本、ディップソース×2袋918円)

文/市村幸妙
いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。

写真/高谷郁未