ノルウェーの中高生2000人を約30年にわたって追跡した研究により、思春期に強い孤独を味わった人や、生涯にわたり孤独だった人は中年期に陰謀論的な世界観にはまってしまいやすいことがわかりました。その理由について研究者は、孤独な人が孤立感から自尊心を守るために陰謀論に走ったり、陰謀論者のコミュニティにつながりを求めたりするからではないかと指摘しています。

Loneliness trajectories over three decades are associated with conspiracist worldviews in midlife | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-024-47113-x

陰謀論は決して新しいものではなく、2022年の研究では陰謀論を信じる人々の割合は20世紀半ばから変わっていないことがわかっています。しかし、インターネットやSNSの発達で誰もが情報発信できるようになったことで、反ワクチンの陰謀論によるパンデミックの拡大や、Qアノンによる2021年1月のアメリカ議会議事堂襲撃事件など、陰謀論は単なる変わった考え方や世界観を越えた現実的な脅威となりつつあります。



by Tyler Merbler

これまでの研究により、陰謀論的な信念の形成には孤独感や疎外感が影響している可能性が示されていますが、こうした研究の多くは期間が短いため、孤独と陰謀論の関連性が人生のどの時期の経験により生まれるものなのかといった縦断的な分析は行われてきませんでした。

そこで、ノルウェー・オスロ大学の心理学者であるKinga Bierwiaczonek氏らの研究チームは、ノルウェーで生きることが若者の心理的な成長にどう影響を与えるのかを調査した研究プロジェクト「Young in Norway」のデータを用いた分析を行いました。

分析の対象者は、研究が開始された1992年当時7〜12年生の学生(平均年齢15.05歳)だった男女2215人で、参加者の42.6%が男性、57.4%が女性です。

また、分析には1992〜2020年の期間中に5回に分けて行われた「ノルウェー版UCLA孤独感尺度」のアンケートで得られた参加者の孤独度のデータと、2020年の「陰謀論的メンタリティ質問票」のアンケートでわかった陰謀論的な世界観を支持する度合いのデータが用いられました。



分析の結果、1992年の青年期に孤独であった人ほど、2020年の成人期における陰謀論的世界観への支持が大きいことがわかりました。また、28年間を通じて孤独感が増した度合いが大きい人ほど、2020年に陰謀論を支持する可能性が高いことも判明しました。この結果は年齢、性別、親の学歴、1994年のアンケートで収集した政治的な意見の影響を加味しても変わりませんでした。

研究チームは、今回の研究には技術的に進んでいて社会制度への信頼も厚いノルウェーのデータが使われているため、この結果を一般化するにはさらなる研究が必要としています。また、福祉社会が発達したノルウェーでは孤独の度合いが低いので、孤独と陰謀論の結びつきが過小評価されているおそれもあると指摘しています。



その上で、研究チームは論文に「28年にわたるこの研究は、中年期に抱く陰謀主義的世界観が、青年期から成人期にかけて経験した孤独と関連していることを示しています。あくまで暫定的でさらなる研究を必要とする説ですが、このパターンを説明する可能性のひとつとして、同世代と比べて孤独だという対比が社会的孤立感を助長し、自尊心を守るために陰謀論に走ったり、志を同じくする陰謀論者のグループに社会的つながりを求めたりする動機付けになる可能性が考えられます」と記しました。