ミセスのMV炎上「コロンブス」が犯した恐ろしい罪
『Mrs. GREEN APPLE』の新曲『コロンブス』(写真:『Mrs. GREEN APPLE』公式Xより引用)
「公開前に誰か止められなかったのか」。SNS上ではそんなコメントが溢れている。ロックバンド『Mrs. GREEN APPLE』の新曲「コロンブス」のMVがSNS上で物議を醸している。この一件で今一度コロンブスについて深く学ぶ必要があると思った人々も多いだろう。偉人のCMやテレビ番組の監修も行う著述家の真山知幸氏が上梓した『ざんねんな歴史人物』を一部抜粋・再構成し、コロンブスの人物像に迫る。
ミセスの新曲MVに批判が殺到
YouTube上に6月12日に公開されたロックバンド『Mrs. GREEN APPLE』の新曲「コロンブス」のMVが、SNS上で物議を醸している。
メンバーの3人がクリストファー・コロンブスや、ナポレオン、ベートーヴェンといった偉人たちに扮したもので、メンバーたちが猿の着ぐるみを着た演者にピアノを教えたり、人力車を引かせる、といった演出がなされていた。
『Mrs. GREEN APPLE』の新曲「コロンブス」MVに対する所属会社の謝罪コメント
YouTubeのコメントには「世界にこんな形でみつかってほしくない」「誰か止められなかったのか」などと批判の声が殺到、1万件ほどのコメントがついた(6月13日13時時点、現在YouTube動画は公開停止されている)。
この事態を受け、6月13日に所属会社のユニバーサルミュージック合同会社は「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていたため、公開を停止することといたしました。」と謝罪文を発表した。
この炎上を通して、改めてコロンブスについて学ぶ必要がある、と思った読者も多いのではないだろうか。いったいどんな人物だったのか。今回の記事でその歴史を振り返りたいと思う。
アメリカ大陸に到達したことで知られる、探検家のコロンブスには、もう一つの顔がある。
それは、侵略者であり、奴隷商人としての顔である。
1492年8月3日、コロンブスが率いる船団は、西回りでインドを目指して、スペインの港を出港。ひたすら西に向かう。
その2カ月後の10月、コロンブスたちは、サン・サルバドル島に到着。コロンブス自身はそこをインドだと考えていたが、実際は、アメリカ海域であった(結局、コロンブスは勘違いしたまま、生涯を終えた)。
これが後に、「新大陸の発見(現在は「到達」という)」と呼ばれることになる。
しかし、「発見」も何も、すでにそこには人々が住んでいたのである。現地にいた先住民からすれば、コロンブスたちは侵略者以外の何者でもなかった。
コロンブスたちは、島に住んでいた先住民たちが大人しくて温和なのをいいことに、好き勝手に振る舞う。出会ってすぐに物々交換を始めたのだが、相手からは綿や食料などを得ておきながら、自分たちが渡したのはガラクタばかりだった。
物々交換はエスカレートしていき、しまいには、「ヒモ1本を金と交換した」という不届き者も現れる。
二束三文のガラクタに喜ぶ先住民に、コロンブスはこんな感想をもらしている。
「彼らは非常に喜び、まったく素晴らしいほど我々になついてしまったのであります」
行動がエスカレートしたコロンブス
物だけではない。コロンブスは、ガイドとして先住民たちを無理矢理連れ去って、小さな島々を案内させては、島に勝手に名前をつけていった。
強引な行動に出られたのは、彼らが武器を持っていなかったからだ。コロンブスが剣を見せると、先住民たちは驚きの反応を見せた。
「彼らは武器を持っていませんし、それがどんな物かも知りません。私が彼らに剣を見せましたところ、刃のほうを持って、知らないがために手を切ってしまったのです」
先住民たちが抵抗する武器を持たないと知ると、コロンブスの彼らを見る目は、完全に奴隷を見定めるものになっていく。日記には、体型に関する記述が目立つ。
「彼らは皆そろって背丈が高く、顔つきもよく、よい姿をしているのであります」
もちろん、先住民たちも、やがてコロンブスたちの行動に疑いを持ち、抵抗するようになる。すると、コロンブス率いるスペイン軍は、先住民たちを虐殺し、非人道的な弾圧と強奪を繰り返した。
コロンブスの一行は、香辛料、ジャガイモ、そして、タバコを持ち帰った。コロンブスは、新大陸ではじめて出会ったタバコについて、航海日誌に次のように書いている。
「一方の端に火をつけ、もう一方の端をちょっと吸ったり深く吸い込んだりして、息とともに煙を体内に入れている。この煙で体が鎮まり、ほとんど酔ったようになる。だから彼らは疲れというものをしらない」
病気も持ち帰ってしまった
そうして喫煙の習慣をヨーロッパに持ち込んだだけではなく、梅毒という病気も持ち帰ってしまった。港で彼らを診察した医師はこう言ったという。
「神の御心によって、これまで知られていなかった新しい病気が私たちのもとへもたらされた」
その後、この病気は爆発的に流行し、世界へと広がっていく。コロンブスとその一行たちによる、ざんねんな行動が原因といえるかもしれない。
【参考文献】
クリストーバル・コロン著、林屋永吉訳『コロンブス航海誌』(岩波文庫)
コロンブス著、林屋永吉訳『コロンブス 全航海の報告』 (岩波文庫)
真山知幸『ざんねんな偉人伝』(学研)
(真山 知幸 : 著述家)