約1年半ぶりに登場したiPad Pro(M4)。写真は11インチ版とMagic Keyboard(筆者撮影)

チップセットを刷新し、処理能力を向上させた「iPad Pro(M4)」(16万8800円〜)「iPad Air(M2)」(9万8800円〜)が5月15日に発売された。2023年はiPadシリーズが1台も登場しなかったこともあり、久々のモデルチェンジに購入を検討している人もいるはずだ。

iPad Proは、Macに先駆けアップルが独自に設計した「M4」を採用。ディスプレーには同シリーズ初となる有機ELが採用され、表示できる映像のクオリティが大きく上がったのと同時に、薄型化・軽量化が実現した。

iPadに合わせてApple Pencilも刷新

また、アップルは同シリーズの発売に合わせてApple Pencilも刷新した。iPad Pro(M4)とiPad Air(M2)の2機種では、新たに登場した「Apple Pencil Pro」(2万1800円)を利用できる。

振動によるフィードバックが加わり、より確かな操作感を得られるほか、握ってツールを呼び出す「スクイーズ」という操作にも対応している。既存のiPad ProやiPad Airなどに使われていたApple Pencil(第2世代)は互換性がなくなってしまったが、代わりに、より機能性が向上した格好だ。

向上した処理能力やディスプレーの表示性能に加え、薄さ、軽さが語られることの多いiPad Pro(M4)、iPad Air(M2)だが、ほかにも細かな部分に多数改善が加えられている。

Apple Pencil Proのスクイーズ操作に細かなカスタマイズが可能なのが、その1つだ。また、このモデルからひそかにバッテリー残量の状態表示に対応している。今回は、こうしたiPad Pro、iPad Airの隠れた新機能を取り上げていきたい。

握って操作をカスタマイズできる

本体の性能以上に大きく進化しているのが、Apple Pencil Proだ。“Pro”と銘打ったように多彩な機能が加わり、利便性が向上している。中でも大きいのは、スクイーズという操作ができるようになったこと。Apple Pencil Pro側に感圧センサーが入り、握る動作を認識するようになった。これによって、従来のApple Pencilよりも簡単にツールを呼び出せるようになっている。

これまでのApple Pencil(第2世代)でも、本体をダブルタップするとペンと消しゴムを切り替えるようなことはできたが、スクイーズでは、ツール一覧のメニューをペン先の近くに開くことができる。

アプリにもよるが、こうしたツールは一般的に画面上下か左右にまとめられているため、文字や線を書きながら色を変えたいようなときには、いったん筆記を止めてからペン先を移動させる必要があった。

これに対してApple Pencil Proのスクイーズは、移動距離が最小限で済むため思考が妨げられづらく、直感的に操作できる。

ツールを頻繁に切り替えながら絵を描くようなユーザーはもちろん、PDFに校正などの注釈することが多いビジネスパーソンにもオススメできる機能と言えるだろう。このApple Pencil Proに対応しているのが、iPad Pro(M4)、iPad Air(M2)の大きな魅力の1つだ。


Apple Pencil Proを握ると、ツールパレットが表示される。握った際の動作は、設定でカスタマイズ可能だ(筆者撮影)

また、スクイーズの動作は設定でカスタマイズすることもできる。標準では「ツールパレットを表示」になっているが、ダブルタップと同じように「現在使用中のツールと消しゴムの切り替え」に設定したり、「カラーパレットを表示」に設定したりといったことが可能だ。ペンの種類ではなく、色だけを切り替えたいような場合には、「カラーパレットを表示」にしておくといいだろう。

おもしろいのは、スクイーズにショートカットを設定できること。例えば、特定のアプリを設定しておけば、ホーム画面でペンをギュッと握っただけでそれを起動させることが可能になる。

たとえば、メモアプリを起動するようにしておき、iPadのロックを解除したらすぐにメモアプリを立ち上げ、そのままメモを取るといった操作ができる。

ほかにも、メモ中に録音したいときなどは、ショートカットに録音を割り当てておいてもいいし、スクリーンショットを簡単に取ることも可能だ。操作方法が増えた結果としてカスタマイズの幅が大きく広がったことも、Apple Pencil Proのメリットと言っていいだろう。

バッテリー管理機能も進化した

大々的にうたわれていた新機能ではないが、iPad Pro(M4)やiPad Air(M2)では、バッテリーに関する機能も改善されている。これまでのiPadでは表示できなかった、バッテリーの最大容量を表示できるようになったのが、その1つだ。

「設定」の「バッテリー」で、「バッテリーの状態」をタップすると、「最大容量」が表示されている。筆者のiPad Pro(M4)は購入直後のため、この数値は100%だった。

モバイルデバイスに搭載されるリチウムイオンバッテリーは、充電のたびに徐々にその性能が劣化し、最大容量が減少していく。

あくまで目安だが、80%を下回ってしまうと連続駆動時間が短く感じられるようになるはずだ。保証サービスのAppleCare+に入っている場合で、最大容量が80%を下回ったときには、バッテリーの無償交換サービスを受けられる。その意味でも、この数値を自分で確認できるのは重要だ。

また、バッテリーを保護しながら使い、劣化を防ぐためには、最大容量まで充電しないという方法がある。100%に達する前に充電を止めればいいが、手動でそれをするのはなかなか難しい。こうした充電に対応するため、iPad Pro(M4)とiPad Pro(M2)には、80%で充電を止める機能が搭載されおり、スイッチをオンにするだけで有効になる。


細かい部分ながら、バッテリーの最大容量がきちんと表示されるようになったのもiPad Pro、iPad Airの進化点と言える(筆者撮影)

設定項目は、先に挙げた「設定」の「バッテリー」にある「バッテリーの状態」にある。ここで、「上限80%」というスイッチを有効にすれば、80%までバッテリーが貯まった状態で充電がストップするようになる。

ただし、100%まで充電したときと比べると連続使用時間が短くなるのが、この機能のトレードオフだ。持ち運んでいつもバッテリー切れギリギリまで使うような人は、有効にしないほうがいい。

ちなみに、バッテリーが劣化してしまったときの交換代は、AppleCare+未加入の場合、11インチのiPad Pro(M4)で3万0800円。同じく11インチのiPad Air(M2)は、2万0800円の費用がかかる。

バッテリーは消耗品のため、長く使っていくと必ず劣化するもの。特に性能の高いiPad ProやiPad Airは、3年、4年と使い続ける可能性が高い。バッテリーの交換費用はiPadを新しく買い直すよりはるかに安いが、持ち運んで故障したときの保証まで考えれば、AppleCare+には入っておいたほうがいいだろう。

書類のスキャンに役立つ「フラッシュ機能」

処理能力やディスプレーなどが前世代のモデルから大幅に向上したiPad Pro(M4)だが、唯一、カメラだけは超広角カメラがなくなり、シングルカメラになってしまった。この点だけは、スペックダウンしたところと言えるかもしれない。

ただ、iPhoneのように片手で収まる端末ではないため、どちらかと言えば、iPadで写真を撮る人は少ないだろう。カメラも、QRコードの読み取りや、メモアプリでの書類スキャンのために利用することが多いはずだ。

このようなiPadの用途を踏まえ、iPad Pro(M4)では超広角カメラの代わりに、新たな機能が搭載されている。それが、「アダプティブTrue Toneフラッシュ」だ。これは、被写体が自然に明るく写るよう、フラッシュを自動で調整する機能のこと。メモアプリで、書類を撮影するときのための機能だ。

iPadは本体サイズが大きいため、真上から書類をカメラでスキャンしようとすると、どうしても光量が少なくなってしまう。iPad自身が、光をさえぎってしまうためだ。一方で、通常のフラッシュを使って撮影すると、光が強くなりすぎて書類が不自然になってしまう。アダプティブTrue Toneフラッシュは、こうした問題を解決するために導入されたものになる。


メモアプリで撮影する際に、自動でフラッシュが光り、書類にできた影をキレイに消してくれる(筆者撮影)

と言っても、利用方法はとても簡単。まず、メモアプリを起動して新規メモを作成する。画面上部にカメラのアイコンがあるので、ここをタップし、表示されたメニューから「書類をスキャン」を選択する。

すると、カメラが立ち上がるので、あとは保存したい書類を画面上に表示するだけだ。通常のカメラアプリとは異なり、シャッターボタンを押す必要もない。

この手順で撮影すると、アダプティブTrue Toneフラッシュが自動でオンになっている。

筆者が試したシチュエーションは室内、かつ机の上だったが、フラッシュが光り、書類がクッキリと表示された。とは言え、光は最適に調整されており文字などが飛んでしまうといったこともなかった。よりきれいな状態で書類をスキャンしておきたい人には、いい機能と言えそうだ。

発売後の進化にも期待

このようにApple Pencil Proへの対応などで機能性が上がったiPad Pro、iPad Airだが、現状のiPadOSには、冒頭で挙げた高い処理能力を生かす機能があまり搭載されていないようにも見える。

特にiPad ProのM4は、AI処理の演算を1秒間に38兆回行える(38TOPS)ほどの性能で、生成AIを端末上で動作させることもたやすい。こうした処理能力に頼った機能は、6月のWWDCでiPadOSの新機能として発表される可能性が高い。その意味で、発売後の進化にも期待できるデバイスと言えるだろう。


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(石野 純也 : ケータイジャーナリスト)