日本では6割の夫婦が陥るといわれるセックスレス。「傍から見たら幸せそうな家族だったと思います」と語るのは、レスが原因で離婚をした春美さん(仮名・30代)。産後から完全レスになり、ついに別居。子どもの親権を争って離婚調停へ。シングルマザーになるまでのお話を詳しく伺いました。

モノに八つ当たりする夫!ついに子どもを連れて家出

授かり婚だった春美さんでしたが、妊娠中から夫の隠し事が次々と判明し、教育方針の違いから意見が対立。夫からの一方的なモラハラとDVが悪化しました。

「妊娠、出産、育児…。女性にはどうしても動けない時期が発生します。離婚したいと思っていても、まだ小さな子どもがいる状況では、なかなか行動に移せません。こっちがどうやったって逃げられないのをわかっているから、向こうもどんどんやりたい放題になっておかしくなっていったのかも。子どもの前でケンカをしたくないという気持ちもありました」と涙ぐむ春美さん。

直接殴ったり蹴ったりするというより、家のなかのものを破壊するというケースが多かったそう。ガラスの破片が飛び散ったときは、子どもがいるのに掃除もせずに出て行ってしまって、春美さんはひとりで泣きながら片づけたといいます。

そしてとうとう春美さんは子どもを連れて家を出ました。

DV被害の公的な支援は?

当時住んでいた都心エリアは、子育て支援がとても手厚い自治体。夫が暴れて大ピンチという状況を伝えれば、なにかしらの支援が得られるのではないかと相談に行ったのですが、現実はそう甘くはなかったそう。

「DV被害に遭っている女性が駆け込めるシェルターもあったのですが、私は仕事に復帰していたので要件を満たすことができず、『ホテルに泊まってください』と言われてしまいました。長期間の宿泊はお金がかかるから、どこかアパートを借りたいと思っても、なかなか審査が通らなくて…」

ひとりだったらネットカフェとかカプセルホテルという安価な宿で繋いでいくこともできますが、まだ幼いお子さんを連れての避難は、宿泊先の選択肢も限られてきます。実家は離れていたため、実家を頼る選択肢もありませんでした。

夫と話し合いできないと確信した日のこと

家出から2週間後。電話をかけてきたのは夫ではなく、義理の母でした。

「夫からどういう話を聞いたのかよくわかりませんが、孫(春美さんの2歳の息子)の心配をとにかくしていましたね。『話し合いをして解決できないかしら?』とか言われたので、もうそういうレベルじゃないということ、もう離婚は回避できない状況であることを伝えたのですが、“離婚”のワードを出したら、態度が一転。とにかく親権は渡さない。大事な跡取りを返せという話になってしまいました」と春美さん。

さらにその後、電話口に夫が登場。義理の母以上にヒートアップした状態で、冷静な話し合いはできなかったといいます。

「夫とは完全に罵り合い。電話だから手こそ出されないですけれど、直接会ったら、また暴力を振るわれる恐怖がありました。夫のひと言ひと言が胸に突き刺さりました」

もうそこに、春美さんが出会った頃のお育ちがいいエリートな夫はいませんでした。「私が思いつかないような汚い言葉を浴びせられましたから」と笑いながら話す春美さん。

「え? それを言っちゃうって人としてどうなの? ってびっくりしました。あそこまで悪く一方的に攻められると、反論する前に悔しくて涙が出ました。よかったのは、仕事復帰していたこと。会社の上司に相談したら、すぐに法務部にいた弁護士資格をもっている社員を紹介してくれたんです。夫と直接話し合うことがすでに難しいということ、お金も底をつきそうであることなどを、ありのままお話ししました」

お金をかけず最短で。自力で協議離婚を目指した

春美さんは、自分で離婚調停を申し立てて進める方法を教えてもらいました。

「夫と話し合いができない状態であるとはいえ、正式に弁護士さんに依頼するとなると、着手金だけでそれなりにお金もかかります。なので、私は、弁護士を介さず、民間の調停員さんにお願いをして協議離婚する手続きの方法を教えてもらいました」と春美さん。

男性女性1人ずつの調停員さんがついて、春美さんと夫の4者で話し合いになりました。

「初めのうちは夫の方も感情だけで、『親権は俺がとる』『慰謝料なんて渡さない』ばかりだったのですが、調停員さんが冷静に『母親によほどの過失がない限りは難しい』という今の日本の現状を話してました」と春美さん。

タイミング悪くコロナ禍と重なり、さまざまな手続きに制限がかかったこともあって5か月という時間を要することになりましたが、比較的スムーズに協議離婚が成立しました。

「夫は釣った魚に餌をやらないタイプの人でした」

こうして息子と二人、人生の再スタートをきることになった春美さん。もしも授かり婚じゃなければレスにならなかったと思いますか? という質問をしてみました。すると、「結果は一緒だったと思います」と即答。

「結局、夫は釣った魚にエサをやらないタイプの人でした。夫はきっと、つき合い始めから、結婚するかどうかの微妙なドキドキする距離感のところまでが好きな人。私と結婚してからも、出会い系サイトやアプリをしていたみたいなんです。けれど、駆け引きまでが楽しいみたいで、そこからズブズブ泥沼不倫みたいなことにはならない。見つけて捕まえる、ゴールをきめるまでの過程を楽しみたいのが夫です」と春美さん。

「レスだけの話じゃなくて、楽しいことを夫婦で共有したり、家族としての温かな関係をこの人とはつくれないんだなと、早い段階から気がついていました。だから子どもがいなければ、もっと早く終わっていたと思います。子どもがいて離婚となると、子どもにかかる負担は最小にしたい。その思いは向こうも一緒だったので、お互い最大限の配慮をすることができた気がします」と春美さん。SNSにはキラキラした生活の様子をたくさんアップしていたので、友人たちに離婚を打ち明けると驚かれました。

「実際のことって、夫婦にしかわかりませんよね。傍からみたら幸せ、うまくいっている家庭に見えていただろうし、私もそう見せていました。医者の妻って、横のつながりもあるし、見栄を張らざるをなかったというのが本音。でもあのまま無理して結婚生活を続けていたら、現実とのギャップに自分自身が精神的につぶれてしまっていたんじゃないかな」

シェアハウスでの新しい暮らし。「生きることがラクになりました!」

離婚後は、隣の区に引っ越し、シングルの親が寄り添って子育てをするタイプのシェアハウスに入居したそう。元夫の家までも歩いて15分ほど。元夫と子どもの関係も、そして春美さんとの関係も、別れた今がいちばん良好だといいます。

「今住んでいるシェアハウスというのは、キッチンやリビングは共有だけれど寝室は個室。玄関が広くて、家に帰ると『おかえり』と言ってくれるだれかがいる。もう私は一人じゃないんだなと実感できてすごく心強いです。いい意味で肩の荷が降りて、生きることがラクになりました」

親権は春美さんが取りました。元夫は毎月きちんと養育費を支払っているそう。

「子どもには離婚をするときに『お父さんとお母さんは別々のところに住むけれど、家が二つあるって思えばいいからね』って言いました。父子の面会も回数を決めず、子どもが会いたいときにいつでも帰れるし、夫が休みのときには自由に会いにきています。離れて暮らしたら暴力もモラハラも治まっており、息子にとってはたったひとりの父親だし、ゆるくつき合っていけるようになりました」

最後に、今後の人生プランについて聞きました。

「じつは元夫と婚約した当時、告白してくれた男性がいたんです。そのときはおなかに赤ちゃんがいたので断ったのですが、私が離婚したことも知ったうえで、たまに食事に誘ってくれます。いつか一緒になれたらいいなと想像してしまうことはあるけれど、私の立場で進展させたいとかは言えません。ただ、そういうちょっと好きだなと思える人が存在するだけで、日々の生活が潤いますよね。セックスのありなしにはこだわらず、好きって思える人のそばにいられたらいいなと思っています」

次回は5月17日金曜日に公開予定です。ぜひご覧になってくださいね。

※パートナーからの暴力のほか、怒鳴る、侮辱する、脅すなどの行為、また性行為を強要する、避妊しないこともDVに相当します。警察のほか、以下の相談窓口も利用できます。 DV相談ナビ #8008(はれれば) DV相談+(プラス)0120-279-889(つなぐ はやく)