なぜ「二郎系ラーメン店」が増え続けるのか、じつは「極めて合理的な理由」があった

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ふぐ釣り漁船、寺社のサイドビジネス、転売ヤー、ネットワークビジネス――。

これまで経営学が取り上げてこなかった事例を最新の経営理論で読み解く異色の入門書が注目を集めている。会議室の外で生まれる「野生のビジネス」の実態とは? いたるところで二郎系ラーメン店が増え続ける理由も、経営学者から見ると深いワケがあった。

(*本記事は高橋勅徳『アナーキー経営学』(NHK出版)から抜粋・再編集したものです)

味が良いかどうかは二の次だ

仮にあなたが銀行の融資担当者だとして、ちょっと考えてみましょう。

同等レベルの事業計画書を提出してきたとして、「上質の国産素材をふんだんに使用した、新ジャンルの創作系ラーメン」と、「いま流行している二郎インスパイア系のラーメン」のどちらに融資をしますか? ラーメン好きなら前者と言いたいところですが、おそらく後者に融資する可能性が高くなると思います。なぜなら、融資担当者側からも成功確率が高いと「計算」できるからです。

流行しているということは、一定の顧客数が既に存在しているということです。出店予定場所の周辺に、ラーメン二郎や二郎インスパイア系のお店が存在しなければ、地域内でニーズを独占することも可能でしょう。これは、家系でも、濃厚魚介つけ麺でも、油そばでも一緒です。要するに、融資担当者からすれば、融資するかどうかの判断基準として、そのお店が提供しようとしているラーメンが「成功する」と、計算可能であることが重要なわけです。

いやいや、外食なら味で勝負だろ! そう思われる方も多いかもしれません。

それでは、今度は客の立場で考えてみましょう。1日の仕事に終わりが見えて空腹を感じ始めたある日、今日の夕食はどうしてもラーメンを食べると決めていたとします。空腹を抱えたまま帰路につくと、「上質の国産素材をふんだんに使用した、新ジャンルの創作系ラーメン」と、「いま流行している二郎インスパイア系のラーメン」が、自宅付近に同時に開店していました。あなたなら、どちらを選びますか?

どちらも初めて入るお店ですから、美味しいか不味いかわかりません。食べログなどで確認しようにも、開店したばかりなので誰も感想を書いていません。とにかく、ちゃんと美味しいラーメンが食べたいとしたら......味が想像できるのは間違いなく二郎インスパイア系のラーメンだと思います。だとしたら、二郎インスパイア系を選ぶのが無難と考えるでしょう。

ラーメン屋を開店する際に重要な開業資金を握っている融資担当者にとって、開店したラーメン屋が軌道に乗るまでに必要な飛び込みの一見客を獲得する際、本当に味が良いかどうかは一旦横に置いておいて、融資担当者にも客にも味が「計算」できることが重要なのです。だからこそ、同じジャンルのラーメン屋があちこちで増殖していると考えられます。

合理的戦略としての模倣

流行に乗って模倣するなんて、安易だと考えるかもしれません。

ところが、銀行の融資担当者やお客さんの立場から、いかにお店を立ち上げ、軌道に乗せていくのかを考えると、流行っているラーメンを模倣するというのは安易な選択ではなく、最も合理的な選択であると考えられるのではないでしょうか?

経営学における制度派組織論では、このような現象を模倣的同型化と表現します。

どんなに大量のデータを集め、最先端の理論で分析したとしても、新規事業が成功するかどうか、あらかじめ予測することはできません。元も子もない話を言ってしまえば、「やってみないと成否はわからない」ものです。どうやればよいかわからないからこそ、私達は何かをやる時、「これで上手くいく」と信じるに足る「確信」が必要になります。その確信の典型例が、「前例=成功例・失敗例」なわけです。

流行っているからこそ、流行りに乗る事業者に銀行は融資してくれます。そのほうが、成功もリスクも計算可能になるからです。

流行りに乗っているからこそ、一見さんのお客さんが付きます。初めてのお店であっても、どういうサービスが提供されるか、ある程度予想がつくからです。

米国のハイテク系ベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタルやエンジェル投資家は、メモ帳に走り書きしたレベルの事業計画であっても、そのアイディアに注目して融資を決定する、と語られることがあります。しかし実のところ、それは伝説でしかありません。確かに、不十分な事業計画やプレゼンテーションであっても、投資を決定することはあるでしょう。しかし、その意思決定の背後にあるのは、自分がよく知る業界の動向に関する深い知見と、既存のビジネスモデルとの類似点や差異から成功確率と利益を回収できる可能性までを推測する綿密な計算です。

飲食店で開業を目指す人たち、とくにラーメン屋を開業する人たちは、本能的にそのことに気づいているから、ひとまず流行りに乗る=模倣的同型化することから独立開業を図っているのではないでしょうか。流行とは見方を変えれば成功例なわけですから、「これで上手くいく」と確信するに足りる根拠であり、それに従って模倣的同型化することは、決して安易ではなく、極めて合理的な判断であると考えられるからです。

つづく「意外と多くの企業が陥る「新しさ」の罠…「流行に乗る」ことが強みになるワケ」では、なぜ模倣的同型化が差別化戦略につながるのかについてわかりやすく解説します。

意外と多くの企業が陥る「新しさ」の罠…「流行に乗る」ことが強みになるワケ