Apple Vision Pro によるMR体験はファッション業界にどんな進化をもたらす?
Appleが「Apple Vision Pro(以下Vision Pro)」を米国で販売開始したと同時に、マイテレサ(MyTheresa)、e.l.f コスメティクス(e.l.f Cosmetics)、アロヨガ(Alo Yoga)などのブランドが、Vision Proに搭載されたアプリによるファッション体験サービスを提供しはじめた。それから2カ月近く経った今、ファッションブランド各社のMR(複合現実)体験はより高度化しつつある。
Vision Proはブランドにとって実験の場
同社によると、Vision Pro上で利用できるストックエックスのアプリはすでにダウンロード数が数千件に達しているという。ヘッドセットを装着したユーザーは、自分のいる空間内で最新作のスニーカーを3Dモデルで体験することのできる「没入型スニーカーショーケース(Immersive Sneaker Showcase)」を楽しめる。アプリはユーザーの視線計測と手の動きに反応してスムーズなカタログ閲覧を実現し、購入判断の参考になるリアルタイムの市場データや購入に関するヒントを表示するほか、チェックアウト機能も備えているという。
「Vision Proは広く一般に普及するものではないと、我々は当初からわかっていた」とシュワルツ氏は話す。「なぜなら高価格なデバイスだからだ。当社がVision Pro向けのアプリ開発を決めたのは市場浸透を促すためというより、ほかに先がけてMRショッピング体験の実践例を示すためだった」。
ストックエックスは現在、Vision Pro向けショッピングアプリで成功した要素を、<従来型ユーザーインターフェースを通じた自社の主力な体験にいかにして応用させるかを検討している。「没入感はそれほど高くなくても、データの相互可視化や3Dモデルの機能を活かしてユーザー体験を充実させる方法を模索中だ。我々は新たなイノベーション開発に向けた実験の場として、Vision Proプロジェクトを利用している」。
ショッピングにスタイリストの提案を
Jクルー(J.Crew)は今年2月、没入型3Dショッピングのための「バーチャルクローゼット(Virtual Closet)」機能を備えたVision Pro向けアプリを発表した。なお、同アプリのダウンロード数については開示されていない。
「我々はバーチャルクローゼットとFaceTimeのシェアプレイ(SharePlay)機能を組み合わせ、Jクルー所属のスタイリストが顧客のショッピング体験をリアルタイムで共有し、サポートできる仕組みを作った」と、同社でマーケティング部門バイスプレジデントを務めるホールジー・アンダーソン氏は語る。「顧客はアプリ内でスタイリストのアドバイスを受けながらさまざまなコーディネートを試すことができる。自社の卓越したサービスとスタイリングに対する情熱は、この没入型テクノロジーと融合した。我々は今まで見てきたなかでもっとも先進的なバーチャル・クライエンテリングを提供できるようになった」。
コンピューティング/AIソリューション専門企業のスペーシャル・ダイナミックス(Spatial Dynamics)で共同CEOを務めるキャシー・ハックル氏は、Jクルーのアプリで靴を購入した感想として「Jクルーで買い物をするのは非常に楽しい」と話した。「まだ少し臨場感に欠けるとはいえ、サービス導入の初期段階では想定の範囲内だ」。
今後1年のうちにAppleが追加するとみられるVision Proの新機能の仕様に合わせ、Jクルーは同社開発スタジオのオブセス(Obsess)とともにアプリの改良を続ける予定だという。
続々とVision Pro専用コンテンツを導入
マイテレサもVision Pro向けアプリの開発に着手し、カプリ・ブルー・パリ(Capri Blue Paris)等のサイトから厳選した商品コレクションの購入体験ができるアプリを導入した。一方、e.l.fコスメティックスは商品検索とゲームを融合させたアプリを開発。またアロヨガは、自然に囲まれているような感覚が味わえる「Alo Sanctuary」空間で、セルフケア(瞑想)とショッピングを融合させたサービスを提供している。
オブセスのCEOを務めるネハ・シン氏も、スペーシャル・ダイナミックスCEOのハックル氏も、Vision Proの導入が早かったブランドが先行者利益を得るとみている。「Vision Proの仕様要求を満たしたコンテンツフォーマットをブランド各社が試験的に導入しているのは、いざiPhoneの空間認識機能が強化され、Vision Proがより安くなり、処理速度、機能、利便性が向上したときに備えるためだ」とハックル氏は言う。
また、ハックル氏はVision Proについて、ファッションブランドにとってスタイリングの面で大きな可能性を秘めるツールだと評価している。「Vision Proを利用すれば、スタイリストやデザイナーはユーザーに対して3D映像でコーディネートを提案したり、ユーザーと同じ体型・身長のバーチャルモデルに服を着せたりして、仮想空間上でそれが似合うかどうか本人に判断してもらえる」。
このほか、一部のラグジュアリーブランドでもVision Proの分野に乗り出す例が出てきた。ただし、購入体験についてはそれほど力を入れて取り組んでいるわけではないようだ。
グッチ(Gucci)は4月3日、ユーザーが自らバーチャル環境をデザインし、独自の拡張現実(以下、AR)コンテンツを楽しめるVision Pro向けアプリサービスを開始した。利用できるコンテンツには、2024年秋「GUCCI ANCORA」コレクションの3D映像のほか、2023年に就任したクリエイティブディレクターを紹介するドキュメンタリー作品「Who Is Sabato De Sarno? A Gucci Story」のAR版、秋コレクションに関するアプリ限定情報が含まれる。
データを活用したビジネスチャンス
Vision Proはまた、マーケティング施策の状況や消費者行動の把握といった面でも、ブランド各社に新たなチャンスをもたらすと見込まれる。ストックエックスのシュワルツ氏は、アプリから収集可能なデータについて言及するには時期尚早だとしながらも、「より精緻なデータが入手でき、新たなeコマース体験の構築に役立つだろう」と期待している。
「Vision Proを装着したユーザーは、完全に3D映像に没入することができる。なぜならiPhone15 ProやPro Maxがトリプルカメラ構造であるのに対して、Vision Proには外部だけで6台、本体内蔵を含めると合計12台のカメラが搭載されているからだ」とランジェリーブランドのアドアミー(Adore Me)で戦略担当バイスプレジデントを務めるランジャン・ロイ氏は語る。それらのカメラは外部からの指示や視覚による合図をリアルタイムで処理する。
アドアミーはVision Proを使用して2月のニューヨークファッションウィーク中に開催されたランジェリーショーを録画し、その映像を今後のマーケティング活動やそのほかのVision Pro向けコンテンツ開発に活用していくという。
Vision Proが提供するMR体験は、ライブショッピングと似てはいるが、さらに臨場感あふれるものになるとロイ氏は語る。「消費者の購買行動を促すという点では、現在のライブショッピングをはるかに超える効果が期待できる」。
[原文:Fashion’s use cases for the Apple Vision Pro are evolving]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:SI Japan、編集:都築成果)
