これが英国乗用車の「ど直球」 ヴォグゾール・ビバ HAからHCまで(1) オペルとのコラボ作
英国ファミリーカーの定番誕生から60年
1964年6月1日、英国のエルズミアポート工場から出荷された、初めての量産車が初代ビバ HA。それ以来、1979年に3代目のHCが役目を終えるまで、ヴォグゾールの小さなサルーンは英国のファミリーカー市場で外せない一角を構成してきた。
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そんな記念すべきモデルの誕生から、2024年で60年を迎える。そこで今回は、ヴォグゾールの本社が存在していたグレートブリテン島中部のルートンに、4種類のビバを揃えてみた。レッドにグリーン、ブルーと、彩りも豊かだ。
手前からレッドのヴォグゾール・ビバ HB ブラバムと、ブルーのヴォグゾール・ビバ HA SL90、グリーンのヴォグゾール・ビバ HC 2300SL、レッドのヴォグゾール・フィレンザ 1300SL
1857年にポンプと船舶用エンジンのメーカーとして創業したヴォグゾールにとって、第二次大戦後初の小型車として発売されたのが、ビバ HA。オペルとのコラボレーションで開発が進められ、ドイツではひと足早い1962年にカデット Aが発売されている。
その頃の両社は、協力関係を公式には認めなかったが、オペルは1967年まで英国では販売されていなかった。ヴォグゾールのディーラーで、事実を問い詰める人は少なかっただろう。
今回揃えた4台では、ブルーのビバがHA。ダレン・カントリル氏がオーナーの1966年式で、そのシルエットは子どもが描いたクルマのように、凸型。四角い3ボックス・スタイルを、小さなタイヤが支えている。
ビバ HAの強みといえたのが、独立懸架式のフロント・サスペンションに、ラック&ピニオン式のステアリングラック、すべての段にシンクロが備わるトランスミッションなど。大胆な買い物にも対応できる、深く大きな荷室も売りだった。
通常より20%パワーアップした「90」
端正で現代的に見えるビバ HAのデザインは、同時期のフォード・アングリア 105Eと対象的といえた。ザ・ビートルズが「プリーズ・プリーズ・ミー」を発表した頃と重なるが、あちらは少々時代遅れといえる雰囲気を醸し出していた。
同時に、男性的な容姿だと受け取られる可能性を心配したヴォグゾールは、女優のケイティ・ボイル氏を主演にしたPR映像を製作。見栄えのするクルマだと強調し、女性ドライバーの共感を集めようとした。
ブルーのヴォグゾール・ビバ HA SL90と、レッドのヴォグゾール・ビバ HB ブラバム
サイドドアの開口部は広く、ルーフラインは高め。タイトスカートを履いていても乗り降りしやすく、盛り髪をしても天井には余裕があった。
トリムグレードは、ベースがスタンダード。ヒーターと後席用の灰皿、フロントガラス・ウオッシャーを備えた、豪華仕様のデラックスという2段階が提供された。
1965年には、アンブラと呼ばれたビニールレザー内装、グローブボックス、パイルカーペットで仕立てられたSLグレードが追加。スーパー・ラグジュアリーの略で、専用のラジエターグリルと光り輝くアルミホイールなども獲得し、上級志向の流れを示した。
同年の後半には、ゼニス・ストロンバーグ社製キャブレターを載せ、アシスト付きディスクブレーキをフロントに組んだ「90」を、デラックスとSLに設定。通常より20%パワーアップし、時速100マイル(161km/h)までのスピードメーターも与えられた。
ビバという名にふさわしい陽気さ
それを試乗したAUTOCARは、「最も実用的で好感を持てる小型車」だと、高く評価している。ブルーのビバも、そのSL 90だ。「3年ほど前にイーベイで購入しました。最近も240kmほどの旅行をしましたが、まったく問題なしでしたね」
「ドライブすると、とても懐かしい気持ちになります。多くの人が手を振ってくれ、駐車場では話しかけてくれる人も沢山います」。とダレンがうれしそうに話す。
ブルーのヴォグゾール・ビバ HA SL90と、レッドのヴォグゾール・ビバ HB ブラバム
「通常のHAを運転したことがないので、SL 90がどれだけ速くなっているのかわかりません。でも、現代の交通環境に問題なく対応できていると思いますよ。145km/hまでは試したことがあります。それ以上は、出したいと思いませんが」
ビバ HAのSLとSL 90は、1万1794台が販売されているが、現存する例は非常に少ない。実際にステアリングホイールを握らせてもらうと、1960年代のモデルとして不満ない運転体験にあることがわかる。ビバという名にふさわしい、陽気さも漂う。
車内へ目を配ると、白い盤面に黒い文字が振られたメーターが、ビンテージ・レーサーのよう。初代オーナーが追加した、リアのバックライトは2ポンド、フェンダー上のサイドミラーは35ポンドのオプションだった。
初代ビバ HAは、1966年9月にサルーンの販売が終了。早々に2代目のHBへ後を譲った。ちなみにヴォグゾールの子会社、ベッドフォードは商用バンを1983年9月まで提供していた。それも、機会があればご紹介したい。
F1世界チャンピオンの息がかかったHB
ビバ HBでは、エンジンが高出力化され、サスペンションは大幅に改良。ボディサイドが僅かにくびれた、アメリカンなコークボトルラインのデザインが採用された。
筆者は、1960年代後半で最も魅力的なスタイリングの小型サルーンだと思う。トリムグレードは、デラックスとSLという2段階。後者には当初から、ディスクブレーキをフロントに採用した90もラインナップされた。
ヴォグゾール・ビバ HB ブラバム(1967〜1968年/英国仕様)
1967年2月には、SL 90にブラバム仕様が設定される。「3度のF1世界チャンピオンが、英国で最もエキサイティングなサルーンに息をかければ、何が起こる?」というキャッチコピーで、ドライバーの気持ちをくすぐった。
エンジンは、ツイン・キャブレターと専用カム、エグゾーストで強化。マホガニー材のシフトノブは、ブラバムのロゴで飾られた。ボンネットには、スポーティな通称「ズームストライプ」が与えられ、駐車場で注目を集めたことは間違いない。
ディーラー・オプションとして設定され、部品代が約10ポンドで、取付け費用も約10ポンド。しっかり新車保証も適用された。当時の自動車雑誌は、「突出した操縦性と、素晴らしいロードホールディング性」だと絶賛している。
しかし、1968年に2.0LエンジンのGTグレードが登場。ブラバムは廃盤となった。
この続きは、ヴォグゾール・ビバ HAからHCまで(2)にて。