『光る君へ』写真提供=NHK

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 NHK大河ドラマ『光る君へ』で柄本佑演じる藤原道長は名門貴族として生まれながら華やかな世界には染まりきらず、自分たちの暮らしをどこか冷めた目で見ているところがある。

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 そして、なぜか幼い頃から庶民の生活には興味津々だった。お忍びで京の街に出かけ、人々の様子をよく見ていたから偶然まひろ(吉高由里子)と出会えたし、貴族社会を風刺する劇を繰り広げる散楽の一員だった直秀(毎熊克哉)とも身分を超えて共鳴し合うことができた。

 自分が右大臣家の三男であることを告げれば、だいたいのことは許されたり、わがままが通用することも知っていた。でも、それを鼻にかけず、人を見下したりもしない。まっすぐで多感なまひろを受け止める爽やかな道長。左大臣家の姫・倫子(黒木華)にも慕われて、人気急上昇中だ。

 道長の父、兼家(段田安則)は野心家で右大臣という地位に満足せず、詮子(吉田羊)が産んだ皇子を即位させて、自身はその外祖父として政権を掌握することを画策。長男の道隆(井浦新)は優等生タイプで、父の言動を疑わずにそのまま受け入れるし、そんなところが気に入られてもいる。承認欲求が強すぎる次男の道兼(玉置玲央)は兄の道隆をライバル視して父にいいように使われ、汚れ役ばかり引き受けている。そんな一族とは少し距離を置き、家族の前では飄々と過ごしてきた道長だったが、これまでのようにのんびり構えてもいられない局面に立たされることになる。

 平安時代は戦国時代のように大きな戦がなく、平和な世界……といっても裏では欲望うずまく残酷な物語が巻き起こっている。家の繁栄のためなら手段を選ばない兼家のような父親の存在が、子どもだちの人生に影響を与えていく家族の話は時代や国が違っても人間の本質を鋭く切り取っていたりする。脚本家の大石静も道長を演じる柄本佑もインタビューで本作と『ゴッドファーザー』の共通点を挙げている。(※1)

 父・兼家の歓心を買うため競い合うような道隆や道兼とは違い、自分の立場を客観的に見てクールな対応で家族に接する三男の道長がいかにして、「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」という有名な和歌を残すのにふさわしいほどの権力を手に入れることができたのか。

 『ゴッドファーザー』といえば、会見の際に脚本家・三谷幸喜も大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を執筆するにあたり「(北条)時は映画『ゴッドファーザー』のマイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)なんです。マイケルも兄・ソニー(ジェームズ・カーン)が殺されたことにより、やむなく家業を継いでのし上がっていきます。おそらく、原作者のマリオ・プーゾは、北条家の歩みに影響を受けて『ゴッドファーザー』を作ったんでしょう!」と言っていたが、右大臣家にこれから起きることも、道長の運命を大きく変えていくことになるのだろう。権力には、さほど興味ないと鷹揚に構えていた道長に権力が集中したらどうなるのかも気になるところ。(※2)

 また、道長をかわいがり、特別扱いする姉の詮子も父には政治のための道具としか見てもらえず、複雑な想いを抱いている。そして、彼女も変わろうとしている。

 入内してからは円融天皇(坂東巳之助)に疎まれ、そのうえ父が退位を早めるために毒を盛っていたのを詮子が毒を盛ったと誤解されたまま、弁解もできずにお別れするなど大きな悲しみを背負った。それを不幸だとか、ネガティブな感情だけに留めておくのではなく、強さに変えていく女性として表現しているところに吉田羊の魅力が光る。

 陰陽師の安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の入れ知恵もあり、一度倒れて意識が戻ったのに花山天皇(本郷奏多)を出家させて退位してもらうためにずっと寝ていた兼家。

 「内裏でさらにいろいろなことが起きる。わしが正気を取り戻し、忯子様の迷える御霊が内裏に飛んでいき、さまよっている……と、晴明が帝に申し伝える。忯子様の御霊を鎮め、成仏させるために、帝がなすべきことは何か。これより力のすべてを懸けて、帝を玉座より引き下ろし奉る。みな、心してついて来い!」 という父の言葉に嬉々として応える道隆と道兼。とりあえず返事をしておく道長と、声も出ない詮子。それぞれの表情にそれぞれの思惑が反映して、濃厚な家族の物語に引き込まれる。権力にまつわる新しい展開が待っていて気が抜けない。

参照※1 https://realsound.jp/movie/2022/05/post-1027100.html※2 https://realsound.jp/movie/2020/01/post-482520.html

(文=池沢奈々見)