佐賀県が交付している駐車場利用証。身体障害者、高齢者、難病患者用(左)とけが人、妊産婦など一時的に歩行が困難な人用。(佐賀県ホームページから)

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一方、全国に先駆けて「佐賀県パーキングパーミット制度」を06年7月に始めた同県には、多くの地方自治体や障害者団体などの注目が集まっている。同県では、米国など海外の身障者駐車場制度を参考に、いち早く許可制を導入した。健康福祉本部の職員らをはじめとする県庁職員の行動力と知事の英断がこの制度を実現させた。

 この制度は、県内で共通する身障者用駐車利用証を交付することで、県有施設やショッピングセンターなどの公共施設の身障者用駐車スペースを設け、利用者を制限しようというもの。誤った使われ方をされている「国際シンボルマーク」とは別に、「本当に必要とする人のために駐車場を確保する」という目的でこの制度はスタートした。

 佐賀県は、◆身体に障害がある方で歩行困難な人、◆けが人や妊産婦など、一時的に歩行困難な人、◆介護を明らかに必要とする高齢者で歩行困難な人、◆難病などによる歩行困難な人――にこの制度の利用者を絞り込んだ。許可証の申請には、障害者手帳、母子手帳、介護保険被保険者証などを提示する必要がある。妊産婦とけが人の場合は、有効期間1年未満のオレンジ色、その他の身障者・高齢者・難病者の場合は、有効期間が5年の緑色の許可証が交付される。

 「佐賀県パーキングパーミット制度」が始まって、約3カ月。10月16日現在、短期・長期の許可証が2222人に交付されているが、この制度は、民間の協力なしには成り立たない。県は、民間の協力による135施設を含む県内全域の302の施設と協定書を交わした。さらに、施設管理者による統一案内表示の施設や駐車対象外のクルマに対する指導をなど、官民一体となって、障害者・高齢者らの歩行困難者を支える体制のさらなる充実化を進めている。

 同県健康福祉本部の地域福祉課・高尾徳二副課長は「『平日は駐車に困らなくなった』という障害者からの感謝の声もありますが、障害者用スペースに駐車する常習者が後を絶たないのも事実です」と話す。制度を検証するために、利用者を始め、施設管理者や一般の人の声をまとめる実態調査を年度内に実施するという。

国土交通省では

 こうした地方自治体の動きに対し、国土交通省も指をくわえて傍観しているわけではない。これまでは、行政区域などある一定以上の広さの敷地に限って、障害者用の駐車場設置が義務付けられていたが、06年12月に施行される「高齢者、障害者などの移動などの円滑化の促進に関する法律」の条項によって、銀行やショッピングセンターを始め一定以上の広さの敷地を持つ民間の駐車場にも、障害者用の駐車場設置の義務化が決まった。国交省では2010年までに、全国にあるこの法律の対象になる路外駐車場の4割で、障害者用の駐車場設置の実現を目指すとしている。

 同省の都市・地域整備局の越智健吾企画専門官によると、障害者の駐車問題に関して、国は障害者用駐車場を含めた法整備のほかに、各都道府県と情報交換や連携を図っているという。今後、自治体が取り組む制度に応じて地域を支援し、統一性が求められる内容によっては、国がリーダシップを発揮していこうというもの。越智企画専門官は「『心のバリアフリー』という言葉を基本方針に挙げているように、国、地方、そして、一般の人たちの協力は欠かせません」と地方から始まった動きを歓迎し、制度が社会に浸透するには一般の人たちの理解が必要だと訴える。

 前述の佐賀県ではこれまで、テレビ・新聞などの地域のマスメディアを通じて同制度のキャンペーンを実施し、県民の理解と協力を求めてきた。さらに、古川康知事も、10月末に行われる九州知事の集まりで、同制度について他県知事と意見を交換するという。九州全域で障害者の駐車場問題に取り組む体制が整えば、この制度を全国に広める運動に弾みがつく。佐賀県が取り組んでいるこの制度も、許可証のないドライバーによる駐車違反の罰則条項の必要性など議論の余地はあるが、障害者にやさしい社会の実現には、根幹の部分で市民一人ひとりの思いやりが欠かせない。【了】

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■関連リンク
国際シンボルマーク使用指針
日本障害者リハビリテーション協会
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国土交通省