中国の普及率92%に対して13%…スマホや音声で家具や家電を操作する「スマートホーム」が日本で普及しない最大の理由

スマートフォンや音声で家中の生活家電や家具を操作できる「スマートホーム」。利便性やホームセキュリティの面でメリットが多く、海外では着実に導入が進んでいるが、日本ではまだまだ大きな広がりを見せていない。普及を阻んでいる要因はいったい何なのか。スマートホームの現状を解説する。

中国では92%の家庭がスマート家電を所有

「スマートホーム」や「スマート家電」という言葉を耳にするようになってから、もはや10年ほどが経とうとしている。

スマートホームとは、IoT(モノをインターネットにつなぐこと)やAIなどの先進的な技術を活用し、生活家電や家具をスマートフォンや音声で快適に操作できるようになる概念のことだが、ルームクリップ株式会社と一般社団法人リビングテック協会が2023年4月に発表した世界各国のスマートホーム事情によると、日本での普及率(スマートホーム関連製品を1台でも所有している人の割合)はわずか「13%」にすぎない。

比較的新しい技術および概念のため、それくらいの普及率でも十分じゃないかと思う人もいるかもしれない。しかし、アメリカは「81%」、お隣の中国ではなんと「92%」もの家庭がスマートホーム関連製品を所有している。

なぜ日本と海外でこんなにも普及率に差があるのだろうか?

家中の生活家電や家具をネットワークに繋ぎ、スマートフォンや声で操作できるようにするスマートホーム。概念として登場して久しいが、日本での普及は他国と比べて遅れている状況だ

日本では「導入コストの高さ」がネックに

これには「スマートホームに対してどのような印象を持ち、何を求めているか?」が強く影響している。

リビングテック協会の調べによると、スマートホームに対して「セキュリティを高めるうえで有効」と考えている人は、アメリカで39%、中国で49%にも上る。一方で、日本では22%。

加えて、海外では「経済的なメリットが大きい」「環境にやさしい住まいにできる」といった意見が多いのも特徴的だ。つまり、海外では安全面・経済面・環境面に利点を感じ、スマートホームが着実に導入されてきているのだ。

スマートフォンで玄関の鍵を開けたり、遠隔で自宅の状況を把握したりと、海外ではセキュリティ対策の観点からも導入が進んでいる

それに比べて、日本人が抱くスマートホームの印象は、もっとも多いもので「導入コストが高い(36.0%)」、「ネット接続の利便性を感じる(33.5%)」、「遠隔操作の利便性を感じる(33.0%)」がそれに続いており、導入が進むアメリカや中国とのあいだにはギャップが生まれている。

これらの意見をまとめると、「導入すれば便利になることはわかっているが、コストが高くて二の足を踏んでいる」ということになる。つまり、景気の悪さがスマートホーム普及の第一の壁になっているわけだ。

「バラバラな規格」も導入のハードルに

もちろん、理由はそれだけではない。スマートホームの「規格」がなかなか統一されないことも、普及を阻んでいる原因のひとつだ。

日本では、各メーカーがそれぞれ独自規格でスマート家電や操作アプリを開発しているため、規格が異なる機器同士をシームレスに管理・操作するには、設定が非常にややこしくなる。

メーカーとしては顧客を囲い込みたいという狙いもあるのだろうが、特にIT知識に乏しいユーザーからすると、快適なスマートホーム環境を整えるには現状ハードルが高い。

そのような状況のなか、2022年10月に登場したのが「Matter(マター)」である。

Matterは、米国のConnectivity Standards Alliance(CSA)が策定したスマートホームの新しい統一規格で、GoogleやApple、Amazon、Huaweiなどのビッグテックが200社以上参加している。

「Matter」に対応した製品であれば、「Google Home」アプリからでも、Appleの音声アシスタント「Siri」からでも、Amazonの音声サービス「Alexa」からでも、メーカーを問わず好きなアプリや音声アシスタントで製品を操作できるようになる。わかりやすくいうと、たとえば外出先からはiPhoneやAndroidスマホで自宅の家電を操作でき、在宅中はAlexaに呼びかければすべての家電を操作できるようになる仕組みだ。

スマートホームの新しい統一規格「Matter」。対応製品であれば、メーカーを問わず一元的に家中のスマート家電を操作できるようになる

製品間の接続性を高めるために、Matterはロイヤリティ・フリーのオープン規格として作られており、どのメーカーでも導入しやすい。しかし、Matterに対応している国内メーカーがまだあまりないのが現状で、mui Lab、Nature、NTT東日本が参加(認証の取得)を発表しているが、逆にいえばこれくらいしか見当たらない。

日本でもユーザー数の多い中国・深圳のメーカー「SwitchBot」もMatterに参加しているため、日本でその恩恵を享受できないわけではない。しかし、Matterでは利用できる機能に制限がかかるケースもあるため、日本人が重視する「利便性」を考えると、これまでフル機能が使えていた独自規格から、今すぐMatter対応製品に乗り換えることはできないといった状況だ。

海外では「自動化=スマートホーム」?

スマートホームの現状を調べていくうちに、面白いことを発見したので最後に紹介したい。

それは、実は多くの日本人がスマート家電を導入しているのに、「我が家はまだスマートホームじゃない」と勘違いしているかもしれない点だ。

昨年開催された「LIVING TECH Week2022-2023:DAY4」の座談会では、アンケートに回答した日本人の68%が「スマートホームデバイスを持っていない」と回答したものの、それが日本の市場規模に合っていないという指摘がなされていた。

「これはどういうことなのか?」と思って海外の導入事例を調べていくうちに、わかったことがあった。

たとえば、筆者の自宅にはAlexaなどの音声アシスタントで操作できるライトが取り付けてある。スイッチやリモコンいらずで、声だけで照明を操作できる----多くの人にとって、これがスマートホームの形であるはずだ。

アプリや音声アシスタント経由で操作できるスマートホーム対応のライトも各種販売されている

一方で、玄関には人感センサーで自動的に点灯するライトも設置している。こちらは筆者としては「買い物袋で手が塞がっていても電気が点くので便利だな」くらいにしか思っていなかったのだが、海外では、これも十分にスマートホームという認識なのだそうだ。

家電がネットワークに接続されており、それをスマホや音声で操作できるものがスマートホームだと思っている人も多いはずだ。しかし、海外では「自動化」という観点があればいいらしい。ならば、人感センサーを使ったライトだって、たしかにスマートホームだ。

ということは、筆者は洗面台にも手動ポンプではなく自動で泡が出るオートソープディスペンサーを利用しているが、これも立派なスマートホームということになる。これらの考え方の違いを踏まえれば、気づいていないだけで、意外と日本もスマートホームの導入割合は低くない可能性がある。

とはいえ、海外のように指紋認証やスマホでドアの鍵を開け、ホームセキュリティカメラで訪問者を自動的に確認でき、温度センサーで室内温度を自動的に調整してくれる、といった“ザ・スマートホーム”から見れば、利便性で遅れをとっていることは否めない。果たしてこの先、日本で「スマートホームは当たり前」と感じられる日がくるのはいつになるのだろう?

文/篠原修司