ビーズソファなどの家具を手がけるYogibo(ヨギボー)で起きた不祥事をめぐる、運営企業代表のSNS投稿に注目が集まっている(編集部撮影)

従業員の犯罪行為が、SNS上で「暴露」されてしまったとき、企業トップはどのような発信をするのが適切なのか。ただ早いだけでも不十分で、最低限必要な情報がスピーディーにまとまっている必要がある。

その点、ビーズソファなどの家具を手がけるYogibo(ヨギボー)で起きた不祥事をめぐる、運営会社代表のSNS投稿に注目が集まっている。元社員の盗撮事案について、いわゆる「暴露系インフルエンサー」が拡散したことを受けて、謝罪と経緯説明を行い、ネットユーザーからは比較的好評なのだ。

そこで今回は、ネットメディア編集者の視点から、「Yogibo会長謝罪が評価される理由」として、不祥事拡散時の企業トップによる発信のあり方を考えてみよう。

滝沢ガレソ氏の投稿から5時間後、会長が謝罪

暴露系インフルエンサーとして知られる「滝沢ガレソ」氏が2024年2月19日、X(旧ツイッター)に「【悲報】#Yogibo 店長、女性従業員を盗撮し逮捕」と題した投稿を行った。渋谷宮下公園前店の元店長の実名を挙げ、店舗バックヤードでの盗撮を動画とともに伝えたもので、被害女性の許可は得ているという。

それから約5時間後の2月20日未明、この告発を受けて、Yogiboの代表取締役会長である木村誠司氏が、Xに「ガレソさんが投稿されました通り、元店長が重大な違法行為による事件を引き起こしました」と投稿した。書き出しは、女性従業員に対してとともに、「心理的、またはその他の形で不快感を感じられたすべての方々」への謝罪からとなっている。

木村氏の投稿によると、事件発覚直後から内部調査を開始し、元店長については「当時勾留されていた本人と面談した上、即刻解雇」とした。

再発防止策として、バックヤードでの着替えルールの設定や更衣室設置、コンプライアンスセミナーの受講や、同店従業員へのメンタルケア面談などの取り組みを始めているという。


(「木村誠司 Yogibo Inc.会長」Xより)/配信先サイトでは写真をすべて見られない場合があります。本サイト(東洋経済オンライン)内で御覧ください

深夜の投稿にもかかわらず拡散、応援の声

木村氏の投稿は「駄文ではございますが速やかに謝罪すべきだと考え、会社発表前ですが代表取締役会長として先んじてお詫びさせて頂きました」と結ばれている。

このXポストは、深夜に投稿されたにもかかわらず拡散され、「素晴らしい謝罪だ」「応援している」「動きが速い」などと、比較的好ましく受け入れられているようだ。

株式会社Yogiboも、この日の夜に「弊社元従業員の不適切な行為・逮捕について」と題したプレスリリースを公式サイトに掲載した。それによると、2023年11月28日に盗撮による逮捕連絡を警察から受け、12月1日付で従業員を懲戒解雇処分にしたという。

では、今回の「Yogibo会長謝罪が評価される理由」はどこにあるのか。ネットメディア編集者としての経験から、筆者は大きくわけて、4つの要素があると考えている。

(1)インフルエンサー投稿に直接反応
(2)「先んじてお詫び」の予防線
(3)現場スタッフに敬意を表する
(4)「企業」と「個人」の使い分け

それぞれの要素を見ていこう。

(1)インフルエンサー投稿に直接反応

まずは(1)インフルエンサー投稿に直接反応、であるが、こうした不祥事がSNS上で拡散された際、話題になっている投稿そのものを引用するケースはあまり見られない。多くは、SNSで拡散されているのを見た各種メディアが取材を行い、それに回答する形で、企業なり、そのトップの公式見解が示される。

しかし今回は、「ガレソさんが投稿されました通り」と、発火点がどこであるかを具体的に明示したうえで、迅速な消火を試みているのが特徴的だ。

炎上を受けての公式リリースでは、「現在報じられている件につきまして」のように、実際にどのような問題が報じられているのか、いまいちピンとこない発表文も少なくない。そこで言うと、引用の場合は「疑惑」を包み隠さず伝えることになる。この姿勢が実直な対応だ、と受け取られたとしてもおかしくない。

プレスリリースを待たずに、会長みずからSNS投稿

(2)「先んじてお詫び」の予防線

続く(2)「先んじてお詫び」の予防線、であるが、これは炎上対応として、非常に技術点が高いと感じた。

ガレソ氏の投稿は夜だったため、企業組織としては動きにくい。しかし早急な対応をとるとなると、夜のうちにトップの判断で、なんらかの声明を出すのが効果的だ。

一方で、SNS上で代表者個人が反応するとなると、「まずプレスリリースを出せよ」とのツッコミが入りかねない。

これを木村氏は、投稿の結びで「会社発表前ですが代表取締役会長として先んじてお詫びさせて頂きました」との予防線を張ることで回避した。

この一文で「追って企業としても発表する」と宣言することで、情報の受け手も「ダンマリで逃げるわけではない」と、それなりの理解を示してくれるのだ。

現場への敬意と、「企業」「個人」の使い分けも

(3)現場スタッフに敬意を表する

木村氏の投稿では、経緯や再発防止策の説明のみならず「渋谷宮下公園前店で働くYogiboキャスト達の強さと勇気に深く敬意を表します」と、(3)現場スタッフに敬意を表することも行われている。

被害者も加害者も内部にいるため、消費者としては「どれだけ従業員を守れるか」に注目が集まるが、誠実な姿勢をにじみ出させる一文と言えるだろう。

(4)「企業」と「個人」の使い分け

そして最後が、(4)「企業」と「個人」の使い分けだ。木村氏は投稿で、元店長との面識はあったとしつつ、「まさかこのように下劣な犯罪行為をする人物とは思っておらず、名前を聞いた際は大変ショックを受けました」と、個人としての受け止めを示している。

その一方で「Yogibo本体と致しましてもこのような犯罪行為は絶対に許しません」との記述もある。どの立場からの言葉かを明示して、「客観的事実の説明」と「トップとしての思い」を交通整理することにより、受け手の理解はより進んだのではないか。

プレスリリースを待たずに、会長みずからSNS投稿ができた理由としては、ひとえに「上場企業ではない」ことにあるだろう。内容によっては、株価への影響も考えられるため、いくら代表取締役といえども、発表には慎重な姿勢が求められる。

非上場であることに加えて、自社で完結できることも大きい。もともと、Yogiboそのものはアメリカ発祥で、木村氏が代表のウェブシャーク社(現在のYogibo社)は日本総代理店といった関係性だった。しかし2021年末、アメリカの本社をウェブシャークが買収し、日本資本となっている。

いまなお、国内代理店のままだったら、今回のような対応はできただろうか。

ブランド商売である以上、本国との交渉に時間が割かれ、炎上から発表まで時間がかかった可能性もあるだろう。

炎上前に「先んじてお詫び」の選択肢もあったのでは

さて、ここまで「Yogibo会長謝罪が評価される理由」について分析してきたが、手放しで称賛するのも考えものだ。多少うがった見方ではあるが、「本当に迅速な対応だったのか」という問いも立てられるからだ。

Yogibo社の発表によると、逮捕を受けて、従業員を解雇したのは昨年12月。処分から2カ月半たって、インフルエンサーによる「暴露」を受け、経緯説明と謝罪に至る--。という時系列のみを見れば、もう少しタイムラグを短くする余地もあったのではと指摘されてもおかしくない。

また、ガレソ氏の投稿では、店長と別店舗の店長によるLINEのやりとりも紹介されているが、現状これについて、木村氏やYogibo社からの見解は示されていない。

外部の指摘を受けるまでもなく、みずから進んで不祥事を明かすのは、インテリア家具などのイメージ商売において、なるべく避けたいのはわかる。

ただ、どこかに「疑念」が挟まる可能性を考えると、少し水を差すようであるが、炎上より前に「先んじてお詫び」する選択肢もあったのでは、と感じるのである。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)