1粒1000円のイチゴ、1粒4000円のあめなど、高くても「売れる」商品の秘密とは(写真はイメージです:kouta/PIXTA)

私たちは無意識に、個々の商品に見合った価格をイメージしながら生活しています。ものの適正価格は操作するのが難しいと思われがちですが、用途を変えたことで“高くてもバカ売れ”した商品・サービスは存在します。

今回は、インフレ下におけるヒットの新法則のうちの1つである「プレゼント」という重要キーワードについて、『高くてもバカ売れ! なんで?』よりご紹介します。

1粒1000円のイチゴが誕生した訳

想像してみてください。

もし、スーパーで1粒1000円のイチゴが売られていたとしたら、あなたは買いますか?

多くの人は、高すぎると躊躇するでしょう。

しかしそんな1粒1000円のイチゴを売って、ヒットさせている会社があります。それが「ミガキイチゴ」を販売する宮城県山元町にある農業生産法人株式会社GRAです。

創業者の岩佐大輝さんは1977年に山元町で生まれ、大学在学中にITベンチャーを起業し、現在は日本およびインドなどで複数の法人のトップを務めています。起業して10年近く経った頃、東日本大震災が起こりました。故郷である山元町も津波で甚大な被害を受けます。岩佐さんは地元に戻り、がれき撤去のボランティアをしました。「何とか故郷を復興させたい」と考えたときに、岩佐さんの頭には、町の特産品だったイチゴのことが思い浮んだのです。

山元町は宮城県内有数のイチゴの名産地でしたが、津波でハウスの95%以上が流失するという大打撃を受けていたのです。多くのイチゴ農家も廃業の危機に直面していました。

「自分の得意分野であるITを生かして、ビジネスとして新しい農業を確立することができたら、イチゴ産業の復興にもなるし、地元の雇用創出にも繫がるのではないか?」と考えた岩佐さんは、農業生産法人株式会社GRAを設立しました。震災からわずか4カ月後の2011年7月のことでした。

岩佐さん自身はまったく農業経験がありませんでしたが、匠の技をもつ地元のベテラン農家と協力しながらイチゴ栽培のIT化に取り組みます(このような農業の形態を「スマート農業」と呼びます)。こうして温度や湿度の管理など、これまで勘や経験に頼っていたものを数値化して、誰もが高品質なイチゴを栽培できるようにしたのです。

イチゴの利益を上げる方法

ただし、いくら高品質のイチゴを育てても、そのまま売るだけでは利益が上がりません。スマート農業には、さまざまな初期投資や固定費が必要となってきます。それを回収するためには価格を上げることが不可欠なのです。

しかしイチゴは品種によっておおよその相場が決まっています。GRAで育てているのも「とちおとめ」「よつぼし」「ハナミガキ」といった既存の品種です。栽培したイチゴのポテンシャルを上げるには、「品種」以外の要素でブランディングをして高価格で販売する必要があります。そこで熟度、色、形、糖度、大きさなどの基準を満たしたイチゴを厳選し、ダイヤモンドの原石を磨き上げる作業に例えて「ミガキイチゴ」と命名することにしました。

さらにレギュラー、シルバー、ゴールド、プラチナと4段階のグレードに分けて販売したのです。「プラチナ」に選ばれるのは、約500粒のうち1粒程度。希少性は十分です。

だからといって、それだけで買ってくれるでしょうか?

そこで考えたのが、商品コンセプトを「自分で食べるもの」から「人に贈るもの(プレゼント用・贈答用)」にすることでした。

「高売れキーワード」は「プレゼント」です。

似た内容の商品であっても、「プレゼント用」「贈答用」にすることによって、買う人の判断基準は大きく変わってきます。自分のために買う時は、味や価格という「理性的価値(コスパ)」が優先されます。

しかし誰かにプレゼントするために買うときには、パッケージのおしゃれさや商品を開いたときの美しさなどといった「感情的価値」が優先されるようになるのです。

「おしゃれ」「美しい」という感情的価値を重視

この本を読んでいるあなたも、きっと覚えがあるでしょう。自分用の食べ物だと「おいしくて安い」が最優先だけど、改まった贈答用には「おいしさ」もさることながら、「見た目のおしゃれさや美しさ」が優先され、「それなりの値段」であることも重視されるということを。

実際、ミガキイチゴは、1粒ずつ丁寧に緩衝材に包まれ、宝石のロゴマークをあしらった化粧箱に収められています。売り場も、普通のイチゴとの差別化を図るためにスーパーなどではなく、東京都内の高級デパートに狙いを定めました。このように「贈答用」に絞ったマーケティング戦略で、高価格を実現することができたのです。

最上級の「ミガキイチゴ・プラチナ」のお値段は、なんと1粒1000円。まさに「食べる宝石」ですね。

2013年度には、農作物の付加価値を高めることに取り組んだ点などが評価され、グッドデザイン賞を受賞しました。

「ミガキイチゴ」は確かに高価ですが、完全に“真っ赤”になるまで待って収穫したデリケートな完熟イチゴ、しかも形の揃ったものが立派な箱にきれいに並べられた様子を見ると、贈られた人は思わず笑顔になるでしょう。複数品種のイチゴを「ミガキイチゴ」という地域ブランドとしたことも、独自化に大きな役割を果たしています。

それに加えて、震災被災地での生産活動という情緒に訴えかけるストーリーも、「ミガキイチゴ」を「高くてもバカ売れ」するブランドに育てた要因のひとつであることは間違いありません。つまり「ミガキイチゴ」は、消費者の理性ではなく感情を動かす「贈答用イチゴ」としてのストーリーを生み出すことで、1粒1000円という驚きの価格づけを成功させたのです。

「ミガキイチゴ」は、贈答用にすることによって、1粒1000円という高価格でのイチゴの販売を可能にしました。では、この手法を他のジャンルで実現している商品例を見ていきましょう。

たとえば、お菓子も「自分用」と「贈答用」では、売り方や価格が大きく変わる商品と言えます。一般的には安価な商品の代表ともいえる「あめ」を、1粒4000円ほどで売って話題になっている店があります。

1粒の「あめ」を4000円で売る方法

それが1818(文政元)年創業の「榮太樓總本鋪」が2007年に立ち上げた飴専門ブランド。「あめやえいたろう」です。そのコンセプトは「美しく楽しく新しく あめを超えて」。200年続く和菓子屋の伝統的な製法を駆使しつつ、あめの可能性を広げていくことを目指しているといいます。

商品サイトを見ると、確かに「美しく楽しく新しい」あめが並んでいます。みつ状のあめをチューブに入れ、リップグロスに見立てた「みつあめスイートリップ」、天女の衣のような軽い板あめ「羽一衣」、A〜Z、絵文字、全部で34種類のあめを組み合わせてメッセージを相手に贈れる「ア・メッセージ」などいずれもギフトとして人気です。

中でも「宝石あめ スイートジュエル」は、クリスマスやホワイトデーといった特別な時期にだけ販売される期間限定の商品です。透明度の高い大粒のあめに、スミソニアン博物館が所蔵するブルーダイヤモンド「ホープダイヤモンド」や、ビクトリア女王が所有した世界最大級のダイヤモンド「コ・イ・ヌール」といった実在の宝石と同じカットを施し、それぞれの色彩や輝きを再現しているのが特徴です。

「コ・イ・ヌール」をモチーフにしたあめは「女王の輝き」、「パシャオブエジプト」は「太陽の花」、「ホープダイヤモンド」は「幸運のお護り」など、ネーミングに工夫が凝らされていることも魅力のひとつ。このようにストーリーが感じられると、価値が高まります。

「ミガキイチゴ」もそうですが、物語性を感じさせることは、贈答品としてとても大切な資質です。贈る相手との会話のきっかけになり、自分への印象を高め、お互いのコミュニケーションをより一層深めることができるからです。

宝石箱のようなデザインのボックスに1つひとつ収められた「スイートジュエル」は、ホワイトデーなどのギフトイベントとの相乗効果もあり、まさに「大切な人に贈りたくなる」商品設計と言えます。そこまですることで、あめ1粒4000円の価格を実現しているのです。

「線香花火」にあなたはどんなイメージを持っていますか?

迫力ある打ち上げ花火を観るのもいいですが、家族や仲間と手持ち花火で遊んだ思い出がある方も多いのではないでしょうか? 中でも線香花火は、派手さはないけど儚い美しさがあって、手持ち花火の締めにふさわしい一品です。

とはいえ価格は数ある手持ち花火の中でも、とても安いイメージが一般的です。コンビニなどで花火セットを買ったら入っていたという感じで、わざわざ線香花火を買う人は少ないでしょう。ましてやプレゼントとして誰かに贈るという発想はなかなか出てきませんよね?

しかしそんな線香花火を1箱1万円という価格で贈答品にしてヒットさせた会社があります。それが、福岡県みやま市高田町にある筒井時正玩具花火製造所です。

チープなイメージの線香花火を贈答品にする

代表の筒井良太さんは3代目。高校卒業後、しばらく別の仕事をした後に家業を継ぎました。親戚が営んでいた親工場から線香花火の作り方を受け継ぎますが、初めの10年間はまったく売れませんでした。江戸時代に開発された伝統ある線香花火。

しかし安価な輸入品に押されて国産品はわずか数%というのが現状なのです。そこで筒井さんは、自社の線香花火を海外の量産品と差別化するために、質も見た目も「これぞ国産品」と言われるクオリティを追求することにしました。

花火の質としては、火の玉が大きく、パチパチと散る火花の様子が美しく、途中で火の玉が落ちずに“長くもつ”ことが重要です。宮崎産の松煙や福岡県八女市の手すき和紙を使い、火薬の量や首のより方などにも細心の注意を払いました。

1箱1万円の高級花火として話題になった「花々(はなはな)」は、40本の線香花火が桐箱に収められていて贈答品としてぴったりです。線香花火は持ち手部分を花びらのように仕上げて、それを束ねることで「花束」を表現しました。

さらに桐箱には、和蝋燭と山桜でつくったロウソク立てまで入っています。その佇まいがまた、なんとも優雅です。

この花火が「バカ売れ」した理由のひとつとして、「水溜りボンド」などの人気YouTuberらによる「検証動画」にうってつけの製品だったことが挙げられます。YouTuberが高額商品を購入したり、使用したりする様子を見せる「検証動画」は、YouTubeで再生回数が伸びやすい人気のテーマです。一般的な価格よりも高いほど話題性が高く、SNSでも拡散されやすくなります。


2022年10月に公開された「水溜りボンド」の「【1万円】世界一高い線香花火の火が長持ちすぎたww」(水溜りボンド)というショート動画の再生回数は、約1年で289万回に達しています(2024年1月時点)。コメント欄には「質がよくて上品でお洒落でエモい」「上質な線香花火の儚さ、すごく好き!」といった言葉が並び、「花々」の情緒的な魅力が視聴者の感情を動かしていることがわかります。

筒井時正玩具花火製造所は、日本の風物詩である花火を「人に贈る」という新たな文化を提唱することで、「1箱1万円」という売値を成立させました。

また、儚さ、美しさ、懐かしさなど、エモーショナルな感情を呼び起こす商品パッケージや商品コンセプトによって、線香花火の魅力を伝え切っています。

このように、一般的にはプレゼントには向かないと思われている商品であっても、工夫次第では贈答品として高価格で売ることが可能になるのです。ぜひ自社の商品でチャレンジできないか考えてみてください。

(川上 徹也 : コピーライター、湘南ストーリーブランディング研究所代表)