ニューヨークのビジネス系メディア「Fast Company」でジャーナリストを務めるライアン・ブロデリック氏が、映画やドラマにおけるクールなアクション満載の「戦闘シーン」が2010年代以降の作品から消えていった理由と、今後の戦闘シーンがどうなるかという予測を語っています。

What killed the fight scene? And is it finally coming back?

https://www.fastcompany.com/91008617/what-killed-the-fight-scene-and-is-it-finally-coming-back



ブロデリック氏によると、戦闘シーンの潮流が明確に変化したのは2008年に高い興行収入を得た2つの映画「ダークナイト」と「アイアンマン」にあるとのこと。ダークナイトは格闘を主体にした武骨で個性的な戦闘シーンを主体としていますが、対照的にアイアンマンは発達したCGIを多用しており、ロボットスーツによる格闘やビームの撃ち合いなどが多く含まれます。アイアンマン前後からCGI満載の超大作がエンターテイメントの主流となり、原始的な戦闘シーンは一部の映画を除き「失われた芸術」として消えていったとブロデリック氏は指摘しています。

一方で、2023年から2024年にかけて再び戦闘シーンの転換点が来ているとブロデリック氏は述べています。MARVELのヒーロー作品やNetflixのオリジナルコンテンツなど、ストリーミングサービスによって映画ないしドラマ作品の生産量が膨大になっています。データを題材にさまざまな分析を行うダニエル・パリス氏も、2020年ごろに「満足いく最終回を迎えられる作品の割合が減っている理由」としてドラマコンテンツの急増を挙げ、2009年から2022年で3倍近くまで年間の新作本数が増えているデータを示しました。ブロデリック氏によると、作品本数が増加したことでCGIのアクションが食傷気味になり、地に足がついたアクロバティックな戦闘シーンに回帰する可能性があるとのこと。

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そもそも、MARVELやDCコミックスのようなスーパーヒーローが高い人気を得るまでは、アメリカの映画やドラマにおいて戦闘シーンの面白さは必ずしも伝統的に重視されてきたものではありませんでした。映画エッセイストのパトリック・ウィレムス氏によると、1999年に「マトリックス」が公開されて初めて、これまでニッチな映画で見られたような戦闘シーンが一般的に求められ始めたそうです。ウィレムス氏は「マトリックスは、香港のスタントマンや武術トレーナーに俳優を訓練させ、戦闘シーンの振り付けをさせた最初の映画、あるいは最初のアメリカ映画でした」と説明しています。それに合わせて、アクション要素が強めのアジア映画もアメリカで人気を得るようになりました。

その後CGIの流行で戦闘シーンが消えつつあると同時に、セックスシーンも作品から失われているとのこと。作家のカーリー・ゴメス氏が2023年11月に公開したエッセイでは、エンターテイメントにおいて「ピューリタニズムへの全体的な移行」が起きていると主張して話題になりました。ピューリタニズムとはプロテスタント的な「厳格で潔癖な清らかな生活を送るべき」とする思想で、ピューリタニズムについて言及したオランダの映画監督であるポール・バーホーベン氏は「アメリカではセクシュアリティについて誤解があり、映画の中のセックスに人々がショックを受けることが多く、いつも驚かされます」とインタビューで語りました。



戦闘シーンおよびセックスシーンの消失は観客の倫理観や潔癖さなどに影響しているとも考えられていますが、単に流行が循環しているという見方もあります。また、2020年ごろからストリーミングサービスの影響でアニメ作品やNetflixの韓国ドラマが流行し、それが影響してアメリカのアクション特性を再び変化させるとも考えられています。調査会社のパロット・アナリティクスで戦略ディレクターを務めるジュリア・アレクサンダー氏は「アニメ的なスタイルの戦いは、格闘技の影響を強く受けています。それでいて現実で再現するのはほぼ不可能ですが、アメリカのスタジオはそれを再現しようとしています」と説明しています。

アレクサンダー氏は、Netflixの実写版「ONE PIECE」や「スーパーマリオブラザーズムービー」などの世界的ヒットを例に挙げ、大規模な日本コンテンツのブームが広まる可能性を指摘。そして、トレンドを追いかけるハリウッドが、アニメや流行した韓国映画のこだわった戦闘シーンを反映した結果が、2020年代後半までに見えてくる可能性があるとアレクサンダー氏は述べています。